ルルイエからのおくりもの
ルナは帰路の途中で不意になにか空気の流れのようなものを感じた。
「?」
その流れを感じてそちらを向くと丁度空間が滲んでそこからルルイエが出てくる最中だった。
ルルイエは地面に降り立った際にルナが自分を認識していることを知ると満面の笑顔で彼女に駆け寄った。
「”見えた”のね、素敵よルナちゃん」
「見えたって言うか・・・風が吹いたような感じがしました」
「なるほど、肌の感覚で魔力の流れを知覚できてるのね」
ルナに頬を寄せながらルルイエはご満悦だ。感覚の鋭さはそれイコール彼女にとって悪魔に転生したルナの能力の高さの証左であり、ルルイエの彼女に対する期待が間違っていなかったことの証明でもある。
「そうだ、さっき学校で水の魔法をぶつけられたんですけど」
「酷い奴もいるもんね」
「その水を掌に集めて、それから水のボールにして投げたんですよ」
「ふむふむ・・・」
話の途中でルルイエは少し考えるそぶりを見せたが話の続きを促した。
「そしたらそれが形を保ったまま人の頭にくっついたんです」
「あー、それはあなたが水を操作した時に魔力を籠めちゃったからね。魔力がたくさん籠ると水や風なんかが形を保つことがあるのよ。水は魔力なんかを溜め込む傾向があるから猶更ね」
ルルイエの言葉によるとルナが水を操作する際に込めた魔力が膜のようになって水の魔法の形を維持する役割を果たしているのだという。そして相手にくっついたのは最初に水を作り出した相手の魔力が水の中に残っており、それが磁石のような役割を果たしているのだとか。
(ま、他人の魔法で生み出されたものを操作して一か所に集めた方がとんでもないことしてるんだけど・・・まあいいか)
熟練した魔法使いの中では魔法に魔力を多めに込めることで特性を持たせることは常識である。
単純に火の魔法に魔力を籠めて燃焼時間や温度を上げたり、風の魔法に刃と化すほど圧縮したりなど。
それを応用すると水に風の魔法をぶつけて氷にしたり、水と火を重ねて霧を発生させたりすることで術者自身に特性や適性がなくとも氷や霧、雷の魔法を使用することなどがあげられる。魔力や知力的にかかるコストや労力が高く、知識として有していることに留まることが大半だが。
そんな中でルルイエが着目したのは”他人の”魔法を操作したという点だ。これは人間の感覚器官ではほぼほぼ不可能に近く、まさしく人外の悪魔などが行う魔力操作と言える。
というのも人間が魔力を操作するにはとにかく『動かす』というイメージや感覚が必要で、掌や指先、口や目など複雑に情報を処理できる部分に魔力を操作する神経のようなものが集中している。
つまり普通の人間なら水の魔法で作られた水をぶっかけられた際、その水がいかに魔力が籠っていて操作しやすかったとしてもその水を操作できるのは魔力を操作できるだけの感覚器官が発達したところ、手や口などの一部に触れているところしか操作できないというわけである。
またそこから順番に魔力を操作して行ったとしてもその頃には水は魔力を放出しきって蒸発するか普通の水に戻ってしまう。
結論から言うと体にぶっかけられた水を操作して掌に集めるという行為をやってのけるには人間には魔力操作できる範囲も、瞬発力も足りないというわけである。
それに対して悪魔や精霊といった魔力が体の構成要素の一つである種族は全身が魔力を操作する器官で包まれているようなもので、体に触れていればどこでもそれを操作できるわけである。また高い魔力を有している性質として魔法に込められている魔力の損失が触れているほど最小限になるという性質もある。
なので水などは肌にぴったりと触れる部分が多いため操作しやすい。さらに加えるとルナは真名の文字の中に海に纏わる悪魔の名が使われてるため属性としても水には高い適性があるのだ。
魔法使いが悪魔になる際に高い代償を払ってでも高位の悪魔に名づけをしてもらうメリットはそこにもある。
「まあ、今のあなたは魔力操作とか魔力に関する持続力、瞬発力がすごくなってるから常に最小限を心がけてね」
「はーい」
ルナがその気になれば水や火をまるで生き物のように操りながらそれを長時間維持することも可能だろう。
それを制御できるようになるだけの訓練は必要だが。
「そう言えばルナちゃんは何をしてたの?」
「家に帰ってお昼にしようかと」
「そうだったのね、それじゃ私はちょっと教会に用事あるから。そうだ、何か困ったことがあったらこれで呼んで頂戴」
そう言うとルルイエはポケットから小さなハンドベルを取り出した。小さな掌サイズのハンドベルはくすんだ青銅のもので、受け取ったルナが振ってみるも音はしない。
「音がしませんけど?」
「それは魔力を籠めて振ると私に『振ったよ』って通知がくるものよ。その時は音もなるから」
試しにルナが魔力を籠めて振ってみるとハンドベルに似つかわしくない重たい鐘楼の鐘のような音が響いた。
「すごい音ですね・・・」
「そうよぉ、だからみだりに鳴らしちゃダメだからね」
音はどうやら鳴らした本人とルルイエにしか聞こえないらしく結構な音量のはずが周囲は何も気にしていないようだ。




