餌に食いついた魚
アダムはエトナーに目配せをする。
(やられた振りをするぞ)
(心得た)
エトナーはその合図を受けると杖をくるりと回転させ、先をアダムに向ける。
「神罰!」
「ちぃっ!・・・ぐえっ!」
アダムはギョッとしたが後の祭り。杖の先から放たれた雷がアダムを吹き飛ばした。感電したアダムはそのまま草むらに頭から突っ込んだ。
「アルドラ殿!」
ダッカーノが慌てた声を出すも、エトナーを前に身動きが取れずに居た。
「さぁ、面倒なのは片付けたぜ」
かかってきな、とエトナーは言う。その姿にダッカーノはアダムとエトナーを見比べながら冷や汗をかいていた。
アダムを失えば自分は立場を失う。しかし聖人に歯向かえば自身に勝ち目はない。
「かかってこないのか?」
ダッカーノが動けずにいるとエトナーは面倒くさそうに杖を肩に担いでため息をついた。
「全く、やっぱ総帥ありきの組織だな」
てんで話にならねぇ、とダッカーノを呆れた表情でみる。その表情が彼のプライドを刺激した。
(わ、私をそんな目で見るな・・・!)
ダッカーノはかつては宮廷魔法使いの一人だった。エリート街道を歩いていた彼は自身の先輩と同じように自分も出世を重ねて行くのだと思っていた。
そんな時である。先輩の魔法使いが出世争いに敗れ、宮廷を追われることになった。ダッカーノもその派閥であった為にその粛清に巻き込まれることになったのだが、彼はその際に派閥を乗り換えて宮廷に留まろうとした。
『君にそんな実力があるのか?』
しかし帰ってきた言葉はそれだった。その言葉は彼のプライドを酷く傷つけたのは言うまでもない。そこから彼は流浪の果てに起死回生の一手を打つべくこの街で銀の黄昏を頼り、そこで得た金銭と人員を募り祖国で返り咲くつもりだった。
その後、手段を選ばない方法で資金を稼ぎ始めた彼は個人が扱うには多額の資金を得たが自身の実力に大きな変化が無かったことに加え、銀の黄昏が教会に目をつけられた為に資金を集めるのが難しくなり始めた。
その事を内心でもどかしく思っていた時にアダムがやって来た。
大悪魔との契約
それは彼にとって捲土重来の最後のピースであった。優秀なサモナーを味方につければ自身の実力などどうとでもなる。
悪魔の力を借りる事はどの魔法使いにとっても大きなアドバンテージになる。どんなに虚弱体質でも屈強な戦士に、どんなにちっぽけな魔力しかもたない魔法使いも強大な魔法使いに仕立て上げるのが悪魔の力だ。
その中で最上級の悪魔の力となればどれほどの力を得られるのか想像もつかない。それだけでなく大悪魔は魔界の王侯貴族だ。大悪魔と契約すればトップダウンでもれなくその大悪魔が支配する悪魔と保有する魔道具を借りる事も可能になる。
そんな最後のピースを手に入れたのである。ダッカーノの中では自分はもう宮廷魔法使いに戻る秒読みだった。
そうなれば自分も貴族に近しい身分だ。稼いだ金と大悪魔との契約があれば自分が筆頭になることも・・・などと考えていた。
(坊主ごときに、そんな目で見られる謂れはない!)
あの時、自分を見下した魔法使いに重ねながらダッカーノは目を見開いた。
「三流がお山の大将気取ってるのは見苦しいぞ」
「黙れ!このクソ坊主がぁぁぁ!」
「そうかよ」
杖を突き出したダッカーノを見てエトナーは指を動かすと即座に雷を落とした。
「ギャッ!」
「やっぱ弱えな、お前」
エトナーにとっては牽制程度の攻撃ではあったが、ダッカーノはその一撃で硬直して倒れてしまった。
「防御も何もねぇな。死んだか?」
倒れ込んだダッカーノを見つつ、ノールックで指を上から下に振るとクノーツ達の頭にも雷が落ちた。
すると全員が揃って硬直し、そのまま倒れ込んだ。
「雑魚かつ悪党となるとホントやりやすくて助かるぜ」
「終わったか?」
「あぁ、もう出てきていいぞ」
エトナーがそう言うとアダムがむっくりと起き上がった。
服に着いた葉っぱや土を落としながら大きく伸びをする。
「流石に少し痺れたぞ」
「失神してなくて良かった」
エトナーが言うとアダムは鼻を鳴らして答える。
「ぬかせ、あの程度で気絶してたまるか」
「だよな、お前にやった三割くらいの威力で全員ノビちまったから驚いたぜ」
死屍累々と言った有様の状況にアダムはため息をついた。
エトナーの雷は奇跡の一種である。命中率が高い反面、しっかりと威力を出すには準備時間が必要な上に『天からの罰』という性質上、必ず頭の上に落ちてくる。それとは別の杖から出した雷は威力重視の聖術であり、アダムは演技の為わざと当たった。
「防御すると弾かれて良く飛ぶからやられた振りには持ってこいだ」
「だよな、ボールみたいに良く飛ぶんだこれが」
奇跡の方の雷は屋内では使えないので室内では聖術の雷を使うがその際にエトナーと戦う魔法使いはまるでピンボールの球のようにあちこちに飛び交うことになる。
聖術の雷は多量の魔力と強い反発を起こす性質があり、特に防御魔法や魔力で防御したりすると防御した側は魔力と聖術の威力に比例して弾き飛ばされる。
エトナーはこれを利用して魔法使いを制圧したり体勢を崩す為に使っている。




