銀の黄昏のはじまりを
エトナ―はどこか確信めいたものを感じ、杖を突いて目の前の魔法使いに道を指し示した。
「懺悔し、再び立ち上がるのならこの先へ。審問官がお前の話を聞いてくれるだろう」
「君はどうする?」
「お前らの新たな門出を邪魔するバカをとっちめてくるよ」
エトナーはそう言うとすれ違いざまにルナに抱きついてから銀の黄昏の本拠地へと向かった。
「ええ、であるから属性ごとの反応は同種であっても必ずしも同じ反応にはならないわけだな」
銀の黄昏の本拠地ではアダムが構成員達に講義を続けていた。
そしてアダムは内心、酷く複雑な気持ちだった。
(ウチのクラスもこれくらい真面目だったらなぁ)
講義を始めて三十分ほどだろうか。
構成員達は必死にメモを取り、色々と話し合っている。
聞けばポエトは研究結果を公表こそするものの、その過程や実験器具についてはまるで「知ってるから言わなくてもいいよね?」と言わんばかりなのだと言う。
なので基礎基本を知らない者からすれば何故そうなったのかが全く分からないまま高度な研究や実験結果を見て呆然とするしかないのである。
「そろそろ休憩するかね?」
「いえ!まだまだ大丈夫です!」
「板書消すの待ってくれたら全然大丈夫です」
そうか、とアダムは板書を書き写す時間の間椅子に座って彼らの動きを観察していた。
(全員が一年生レベル・・・しかし彼等はとにかく必死だな)
普段のFクラスならダズは寝ているし、ティナは落書きに勤しんでいるし、カティナとマリーは勝手に入ってきたサピスキアに気を取られているし、クロエはジメジメしている。テイロスとルナぐらいしか真面目に授業を受けていなかった。なんとなく教師として寂しくなりつつも教鞭をとっていると・・・。
「大変です!」
「どうした?」
「せ、聖人が!」
それを聞いて全員の顔色が悪くなった。アダムはそれを見て大きなため息をついた。
「まったく、キミらはそこに居なさい」
「ど、どうするんですか・・・?」
「いくら聖人といえど何もしてない我々に何かできるわけもなかろう・・・。とはいえだ、少し準備をする。」
適当に待たしておいてくれ。とアダムは言うとジダーノの部屋へと向かう。
「ええと、この鍵が金庫のヤツだな」
部屋にあった大きな金庫。暗証番号やダイヤルではなく魔法によってロックされた金庫だ。
「『同種の魔力を帯びた鍵で錠を開ける』という行動そのものがロックを外す鍵になるタイプ・・・総帥が作ったのか?だとすると相当なものだが」
この鍵と魔力、セットにならないと開けられない。こんな手間のかかる物を作れるだけの技術があるなら確かに正道に戻して、初心にかえってもらうべきだ。決して悪用されるようなことがあってはならない。
そう思いつつ金庫の中身を見てみると・・・。
「・・・なるほど、随分と金を溜め込んでいる。それもとびきり汚い金を」
ダッカーノ達の資金の運用と貯金してある場所が記された紙だ。どうやって手に入れたのやら。
恐らくはこれらの出所がバレるのを恐れて行動に踏み切ったのだろう。金庫を放置していたのはこの鍵でなければ元より開ける事の出来ない開かずの金庫であったから。いかにアダムといえど魔法で封をされた金庫を開けることはできない。そもそもピッキングなど受け付ける余地もない構造になっている。
「さて、証拠はこれで十分だろう。綱領が発布されるタイミングでこれを使うべきとなると・・・」
エトナ―に渡しておくのがベストだ。そうすればいずれこの大陸中の異端審問官が彼らを狙う。
返り咲きを狙っているダッカーノ達の野望を打ち砕くには十分すぎることだ。綱領が大聖堂で宣言されればそうでなくてもダッカーノ達はこの組織にいられなくなるだろうし。
アダムは金庫から資料を持ちだすと再び鍵をして、エトナ―が来ているであろう玄関口へ。
「おいでなすったな」
アダムが玄関から庭先に出るとエトナ―が腕を組んで立っていた。彼女はただ立っていただけだがそれだけでも並々ならぬ威圧感を放っている。
(珍しく仕事モードだな。総帥が改心したのか?)
アダムを見つけると杖を掴んでこちらを見据える。アダムは若干の嫌な予感を感じつつも常識的な応対を試みた。
「聖人どの、何用かな?」
「とぼけるんじゃねえぜ、お前らをとっちめに来たんだ」
「・・・マジでやる気か?」
「たまにはいいだろ、かかってこいや」
「奴らが戻ってくる前に資料の受け渡しをしてお終いにしたいんだが・・・」
溜息をついたアダムを他所にエトナ―は体に雷を纏わせながら笑みを深めた。
「若人の決意を見て滾ってんだよ、ちょっくら発散させてくれや!」
「まったくもって損な役回りだ。ちゃんと仕事はしろよ?」
アダムは杖とそれに隠すように短刀を構えつつエトナ―と対峙した。
「軽く流して終わらせるぞ、マジでやると疲れるからな」
「できるならそうしろ、出来なきゃボコるだけだからよ!」
言葉が終わらぬ内にエトナ―が踏み込んで杖を振り下ろした。力任せに見える、恐るべき縦横無尽の攻撃。
受け流そうとすれば十字に分かれた部分で得物を絡めとり、横に飛べばまるで獣が獲物を捕らえるように軌道を変える。後ろに逃げれば突きが。受ければその膂力で叩き潰される。
「殺す気か」
「おぐぅ・・・ははっ!お前はやっぱりいいな!動きがいい!」
即座に内側に滑り込んで腹部に蹴りを入れ、宙返りをしつつ顎を蹴り上げる。そして杖の上に着地して反撃を防ぎつつ短刀を向けた。
普通ならこれだけで勝負があったと言っていい。だが相手エトナ―だ。ギラギラした目がまだこちらを見据えている。




