組織の健全化へ向けて!
アダムは屋敷が震えるのを感じながらどうしたものかと考える。ルルイエの話が本当ならば今、綱領を書いている最中だという。シュトリクとレイラが聞けば喜ぶだろうがダッカーノ達には認められないことだろう。
「さて、ワシはどう動くべきかな」
偽書は既に出来ている。そしてその署名は偽書でありながら本人たちの同意もあるので実質本物といっていい。
そして綱領が完成すれば彼らは綱領と法律の両方に違反した存在として規則に従って排除することが可能になる。
そこに至ってアダムはふと
「ワシ働き損じゃね?」
と思った。結果論ではあるが問題はダッカーノ派だけだったし、総帥の意識改革が半ば成功しつつある今裏でコソコソ動いているアダムはそんなに必要がなくなってしまった。
(とはいえ、奴らを罠にはめる必要はあるか・・・)
おそらく銀の黄昏の名前を借りて好き放題していた連中が集まっているだろう。そいつらが散り散りにならないよう一ヶ所に集めておく必要がある。騙されているだけの可哀想な奴らはそもそも捕まっても罪に問われるようなことは無いだろうからまとめておく。
そう考えながら歩いているとシュトリクとレイラがバタバタと走っていくのが見えた。おそらくは総帥がルナにボコボコにされたのが伝わったのだろう。もしくは綱領が作成されて組織の規律が刷新されることだろうか。
こそっとアダムはルルイエと魔道具で通信してみると・・・
『ぎゃー!総帥!』
『か、顔がまんまるに・・・』
申し訳ないと思いつつもアダムは噴き出した。
「ダッカーノ殿、大変な事がわかりましたぞ」
アダムは何食わぬ顔で派閥の所に戻るとあらかじめ用意しておいた弾劾文書を広げた。
「これは・・・!」
「貴殿らを弾劾するための文書です、内容まではわからなかったがジダーノとケッチータ両名の名前が!」
それを聞いて数人の顔色が変わった。アダムはその人間の顔を観察し、記憶していく。そしてその後にダッカーノとクノーツの顔を見るとダッカーノはまだ辛うじて平静を保っていた感じだがクノーツは冷や汗をかいている。
あの二人は変人ではあったがこの組織の金庫番だ。彼らからみて不審な点や金の流れを指摘されれば困るのは確かだろう。使途不明金や不明瞭な金策など、ポエトが無関心なので助かっていた部分がドケチ二人に見張られていたとなれば話は変わってくる。
「これは・・・よくぞもってきてくださった。奴らが我らを陥れようとしているに違いない」
「でしょうな、姿が見えなかった。おそらく何かしらの資料を届けに行ったのかも」
アダムはあえてそう推測を立てた。これはもちろんダッカーノ達を誘導するためのもの。
実際あの二人はこの屋敷から逃亡しており、わざわざ縄梯子で逃げた所から見るに人目を避けていっただろう。
「なんと・・・それではあの二人を探さねばならない」
「急がれた方がよろしいでしょう。下手をするとどこに何を持ち込まれるか分かったものではない」
組織の名誉にかかわりますぞ、とアダムはあくまで彼らのやっているであろう悪事やスキャンダルについて素知らぬ風を装いつつ部屋にある椅子に腰かけた。
「我々はこれから奴らを探しに行きますが・・・どうされますかな?」
どうやらダッカーノ達は二人を探しに行くらしい。釣り針に獲物がかかった事を確信し、アダムはあえて疲れたフリをすることにした。
「申し訳ないが悪魔の召喚に体力を使っております、戻す作業も残っておりますのでここで少し休憩させていただきたい」
「そうですか・・・、では留守を頼みますぞ」
本来ならば末端の構成員を使いたかっただろうが自身の悪事やスキャンダルを知る人間を増やすわけにはいかないのだろう。焦りを感じつつも自分の息がかかったの者だけで探すことにしたらしく、クノーツと数人を引き連れて慌ただしく部屋を出ていった。
「さて・・・時間が出来てしまった」
そう言いつつアダムはこちらにちらちらと視線を向けている構成員たちを見やると笑顔で言った。
「少し、魔法の基礎について話そうか?」
聞きたければだが、と答える暇もなく若い者から我先にアダムの元に集まってきた。
アダムは少し判断を誤ったかとも思ったが構成員の中からまともな者をえり分けておくのにちょうどいいと思い、学校でやっているように教鞭をとることにした。
「私の出番まだかなー・・・」
塒の教会で一人、エトナ―はふてくされていた。アダムに花壇に落とされてから数時間放置された挙句に待機を命じられていたのである。不満はあったが自分が出ていくと彼らが蜘蛛の子を散らしたように逃げていくことは知っていたためこうして大人しくしているしかなかったのである。
「ほひー、ここが聖人様の御宅ですかな?」
「廃教会をリサイクルしとるようですな、とってもお得な感じがしますぞ」
長椅子に身体を預けているとどこかで聞いた声とともにエトナ―が見知った顔がやってきた。
「見た顔だな」
退屈の虫がようやく退散しそうだとエトナ―は笑みを浮かべた。




