総帥への言葉を
それからしばらく魔法についての談義が続き、そのたびにポエトは嬉しそうに頷いた。
彼はそれを聞いては皆と共有し、研究しようと羊皮紙に書き留めたりと忙しなく、だが喜色満面に動き回っている。
(嬉しそう・・・それに魔法に対してとっても真摯なんだ・・・)
ルナはそれを見ながら、どうしても聞いておきたいことがあった。
(なぜ、こんな人の元にあんな酷い事をする人が・・・)
ルナの頭の中に皆を襲った魔法使いの事が浮かんだ。あの恐ろしい使い手は多数の魔法を操り、Fクラスの皆を窮地に追い込んだ。そして山賊と徒党を組んでアダムとも死闘を繰り広げたという。
そんな魔法使いは教会の中で異端者として断罪されるべき犯罪者だった。人の命を弄び、自分達もまた研究材料という名の玩具として使い潰すつもりだったらしい。
『何故・・・組織の者が悪事に手を染める事を見逃すの・・・?』
不意に零れた一言にルルイエは驚いてアービルの顔を見た。それに対してポエトもアービルに顔を向けた。
「なんですと・・・?」
『この組織の魔法使いは悪事に手を染めている。何故、そんな彼らを正さないの?』
「それは、彼らが必要なことだと」
ポエトはそう、事も無げに答えた。それに対してルナはムッとした。明らかな怠慢だ。彼は魔法以外を知る気がない。
『あなたはこの組織の総帥でしょう?』
「そうですが」
『それならばあなたは組織の人間を導く必要があるでしょう?』
「ですから魔法の研究は共同で・・・」
『その前に!組織を健全に運営する責任があるでしょ?』
「魔法の研究以外に何か?」
その言葉にルナはムカッと来た。無責任だ、組織の管理に対してあまりに無責任かつ無関心な態度にルナはイライラし始めた。
『あなたが組織の人間に何も言わないから、好き放題して、犯罪者の集まりになってるんでしょ!』
「犯罪と言われましても、そんなことをしているとは聞いてませんし、魔法の研究を好きにしてくださいとしか言ってません」
『それではあなたは下っ端の構成員と変わらないじゃないですか!組織の長としての責任はないんですか?』
ルルイエは流石に嫌な予感がしてきたのでこっそりとアダムに連絡を入れた。アダムはこんな時の為に耳に通信用の飾りを付けていた。
(アダム、首尾は?)
(上々だ、派閥の片方が離脱してくれたからあとは本丸を料理するだけだが)
何かあったのか?と言うアダムに対してルルイエはどこかワクワクした様子で答える。
(ルナちゃんがキレそう)
(なに?)
(総帥がめちゃくちゃ無責任だから真面目なルナちゃんには許し難い感じ)
アダムはそれを聞いて頭を抱えた。あの状態のルナが癇癪を起こして暴れたらこんな屋敷なんぞ木っ端微塵になってしまう。
(そうならない為のオマエだったろうに)
(まぁね、でも遅かれ早かれって感じよ)
実際問題、組織の健全化を図る上で総帥の意識改革は避けては通れない問題である。でないと第二第三のダッカーノが現れるだけだ。
そんな二人のやり取りを他所に
「そう言われても皆はやってないって言ってました」
『それを実際に確かめたことは?!シュトリクさん達の話はちゃんと聞きましたか!』
「え、いや、別に大丈夫って言いました」
『むがーー!!』
アービルは吠えた。その時の魔力の迸りで屋敷は揺れ、最上階の窓ガラスは弾け飛んだ。
『もういい!銀の黄昏は今日でお終いにする!!!』
「ええっ!」
『研究資料も何もかも灰にして、ゼロに戻します!』
ルナは怒り心頭と言った様子で八つの手に火球を浮かび上がらせる。
「わぁぁぁ!資料が!魔法の道を極める探究が!」
『道に外れている奴が属する組織が魔道を極めるなんて!笑わせないで!』
ルナはあちこちに火球を飛ばして資料に火をつけていく。悪魔の宝物に手を出した者の末路である。
怒りを買えばどうなるか、人の手に余るその存在を止める術はない。
『シュトリクさんに謝れ!この!この!』
「おぶぶぶぶ!」
右腕四本から繰り出される猛烈なビンタの嵐にポエトの顔はみるみるうちにはれ上がっていく。
『ほら!綱領を書くんだよ!早くして!』
「ふぁ、ふぁい・・・」
机に座らせてアービルが机の上の書類を全て薙ぎ払ってその上に羊皮紙を広げると羽ペンとインクを置いた。
ポエトは既に意識がもうろうとしているが悪魔の命令に逆らえるはずもない。
『先生!手伝って!』
『えっ、私も?』
『はーやーくー!!!!』
ルナのいつにない迫力に負けてルルイエも人型になって隣に座り、綱領を書き始める。アービルはまるで詩を書きとらせる詩人のようにうろうろと歩き回りながら思いついた要項を提案していく。
『一つ、魔法を極めることは道を歩むこと!道を逸れたものに真理はない!』
『ふむふむ』
「なるふぉろ・・・」
『二つ、道に三つあり!法と理と義なり!』
『法律と道理と仁義が銀の黄昏が外れざるべき三つの原則と』
「まほうのふぇっひゃれふへほ・・・」
『でないと表で生活できないからダメ!』
「ひぇえ・・・」
ルルイエはせっせと書き取りつつもルナが魔法局で治安を預かる部隊の部隊長だった父を持つだけはあると感心していた。ルナの父であるエルドは脳筋ではあるがその頭にはちゃんといろんな知識が詰まっている。
なので法に照らし合わせて動くこともできないわけではない。そしてその言葉はルナにもちゃんと受け継がれているのだ。




