行って帰って計となす!
三人は階下に移動するとそのまま幹部が使うという部屋に入った。
幹部の部屋、というよりは屋敷の一室でしかないが、個室を割り当てられているというのは一種の特権的なものなのだろう。そこでシュトリクとレイラを前にアダムは自身の身元を明かした。
「よろしく、ワシは魔法学校で教師をしているアダムという」
「レイラよ、シュトリクと同じ銀の黄昏の創設メンバーよ」
「ほう、若いのに大したもんだ」
若いのにどうして幹部なのかと不思議に思っていたがどうやら組織の発足に関わっているらしい。
彼女達の年齢から考えれば組織を立ち上げ、借家とはいえ拠点を構えて組織を運営しているというのは素晴らしいことだ。
「そうね、本当なら自慢したいところだけど・・・」
「教会に睨まれる札付きの組織・・・というのが現状ではそうだろうな」
「それを打開するためにシュトリクに雇われた・・・でいいのかしら?」
「正確には少し違うが・・・まあ、ワシらも妙な連中を送られては困るんでな」
アダムがシュトリクをチラッと見るとレイラは溜息をついた。
悪魔を呼んで、その彼女に仲介してもらって教会からのマークを外してもらい健全な組織として商売や活動をしたいと思って幹部直々になんども彼女にアプローチしていた。ほとんどが失敗に終わっていたがついに成功をおさめ、最初の思惑とは違うものの協力を取り付けたのが今回の事態である。
「お前らの組織に巣食っている連中を駆除してやる。その代わりあの子を利用するのはやめろ。個人的な付き合いには言及するつもりはないが・・・」
アダムが目の前に手を出すとまるで手品のように短刀が現れた。シュトリクとレイラはそのわずかな動作で彼が尋常ではない使い手であると認識させられた。
冷や汗が噴き出した。
魔法を使ったわけではない。ただ、その動作に極限まで無駄がなく自分達の反応速度を越えている。それ故に彼がその気になれば自分達が瞬く間に命を奪われるだろうことがわかった。
「生憎と今回は血を流すようなことはしない。あくまでワシからは・・・という前提だが」
「・・・そう、ですか」
「それではいい感じに焦った表情が出ているから今の内に簡単にワシがやることを教えてやろう」
ダッカーノ達は幹部が使っている部屋の近くを歩いていた。アダムが出てくるのを出待ちして勧誘しようと思っていたのだ。あの小娘たちが如何様な手段を用いるかはわからないが彼を自分達の派閥に抱き込んでしまえば今度こそ幹部たちの影響力を排除できるかもしれない。そう考えながら。
『ふざけるな!こんなことがあっていいと思うのか!』
ダッカーノ派の構成員の耳に怒鳴り声が響いた。構成員は飛び上がったがそれから少しして怒り顔のアダムとそれをおろおろと冷や汗を流しながら追いかけるシュトリクの姿が見えた。
「彼女を連れてくるのにどれだけ苦労したと思っている!話にならん!」
「ま、まって・・・!」
どすどすと足を踏み鳴らして歩いていくアダムはそのままシュトリクの制止を振り切って歩き去っていった。
シュトリクはしばし呆然としていたがやがてあきらめたようにすごすごと部屋に入っていった。
構成員はあわててそれをダッカーノに報告した。
「ふふふ、あの小娘め。下手を打ったな?」
「そのようですな」
報告を受けたダッカーノはクノーツと共にアダムの居場所を探させ、会う約束を取り付けるべく構成員に指示をだした。
「・・・なんだ、ワシは今機嫌が良くないのだが」
「申し訳ありません、ですが・・・どうか我々の派閥の長に会っていただきたくて」
ベランダで一人立っていたアダムに構成員の一人が話しかけてきた。アダムは内心でさっそく効果があったかと思いつつ構成員の誘いにあえて素っ気なく答えた。
「そうか、しかしワシはまだどこに属するとも決めていないのでな」
「そ、そこを何とか・・・!」
構成員の再三のお願いにアダムは鼻を鳴らすと嫌々と言った様子で振り返った。
「一度だけだぞ、それ以降はそちらの誠意次第とさせてもらおう」
「ありがとうございます!」
頭を下げる構成員に内心で少し申し訳なく思いつつもアダムは彼がしきりに頭を下げながら案内するのに従って屋敷の中へと戻った。
「ようこそおいでくださった」
案内されるとそこにはダッカーノを始め彼の派閥の面々が屋敷の中の広間に陣取っていた。大人数が出入りしているからか屋敷の中でも総帥に次いで広い部屋を確保しているようだ。中はやや趣味の悪い装飾品で飾り付けられており、ダッカーノの趣味なのかアダムから見てやや胡散臭い著者の書いたであろう魔導書などが置かれた本棚が並んでいる。
(今となっては役に立たん物もちらほら・・・権威主義者御用達の魔導書ばかりだな)
権力者の御用聞きになって権力を得た魔法使いは多いが大抵は堕落して魔法使いとしては落ちぶれる事が多い。
というのも魔法使いは新しい発見や研究には横の繋がりか、探求の為の旅や学習が欠かせないからである。
生涯を捧げる研究の資金確保の為に宮仕えをしているならともかく出世のための道具として魔法を学んでいるとじきに研鑽に限界が来る。しかし最新の魔法を研究している面々は俗世間から距離を置いたり、教会からマークされている。公的機関に属し、その地位が高くなるほどそう言ったことを調べる時間がなくなり、さらには裏の世界へ関与が必要になってくることもあるので研究がリスクになるのだ。
結果として彼らは魔法使いの中で『学者』や『研究者』としてはどんどんとその発展から取り残されることになる。




