召・・・喚!
それからしばらく待ってみたがあのドケチ二人が来なかった。
後から遅れて来た構成員曰く「経費の計算で忙しい」とのこと。魔法使いなめてんのか。
「え、ええと・・・それでは始めてもよろしいか?」
まさか大悪魔の召喚よりも経費が優先されるとは思ってもいなかった。アダムの呆れた顔を見て銀の黄昏の面々は揃って恥ずかしそうにしている。まさしく身内の恥だ。
「どうぞ」
そんな中、ポエトが短く呟いた。皆かける言葉がなかっただけにありがたかった。
「それでは・・・」
アダムは両手の手の甲を重ね、そのまま円を描くように動かすと拳同士をぶつけて上げた腕を水平に下ろした。
「おお・・・」
「魔法陣の外円か・・・!」
周囲から声が上がる。しかし本番はここからだ。
「魔界の理をここに」
アダムはそれらしい事を言いながら懐から水銀の入った小瓶を取り出すと蓋を開けて魔法陣の中にそれを注いでいく。
水銀は魔法陣の中でまるで生き物のように蠢くとシンボルを描き始め、周囲を仰天させた。
「水銀か?・・・シンボルがひとりでに!」
「おお、まさか・・・これほどの使い手がいるとは」
周囲のざわめきは最高潮に達した。地味なことだがこういったことができる事は何気に凄いことである。
物体の精密操作、魔力の循環、魔法陣の知識、陣に流す魔力の調整。ざっとわかるだけでもこれだけの操作を同時に行うことになる。文字に起こせば文字に宿る力がそれを補助してくれるが液体金属を用いることでその補助も無しでやっている。
「魔法陣が光った・・・!」
「くるぞ・・・」
水銀がシンボルを描き、そのシンボルが完成とともに光を放ち始める。魔法陣が光り出すと同時に夥しい魔力が迸る。アダムは慣れたものだが周囲の魔法使いはそれを見て思わず息を飲んだ。
『深淵より、現れたり』
ルナがアービルの姿となって魔法陣からせり出した。そして八本の腕を広げて大きく息を吐くと気の小さいものはそれだけで顔面が蒼白になっている。アービルは八つの目をぎょろぎょろと動かして周囲にいる魔法使いたちを見ている。
(おいバカ、こっち凝視するな。にやにやするな!)
ギワギワと牙を見せているアービル。本人は笑っているつもりだが何も知らない者からすれば今にも噛みついてきそうな物騒な見た目をしている。悪魔の中には見た目で相手が格下と認定するや否や襲い掛かる者も少なくない。
それ故に召喚と同時に守護する精霊や天使を対峙させるか即鎮圧もしくは威圧して大人しくさせる必要がある。
アダムが何もしない状況はかなり危険な状態といってよく、今にも構成員から失神する者がでそうな状況にアダムは慌ててジェスチャーでルルイエに指示を送る。
『契約者以外は膝をつき頭を下げよ、不敬である』
肩にとまっている鳥らしきものの声が響き、今にも倒れそうだった構成員たちはこれ幸いと膝をついてアービルから視線を逸らした。皆は大悪魔の不興を買わないように一斉に膝をついて頭を下げた。
(おいバカ・・・!笑うな!声出して笑うなよ!)
皆の視線が外れた事で緊張の糸が緩んだのか肩を揺すり始めたアービルにアダムはひやひやしながら見ている。
「偉大なる大悪魔よ、よくぞ我が呼びかけに応じた。感謝する」
『契約者よ、望みは?』
「この組織の長が貴女と話したいと」
『容易いことだ、契約の範疇である。長はだれか?顔を上げてよい』
ルルイエの言葉を受けてポエトが顔を上げた。表情は乏しかったが頬が心なしか赤い。
『貴様か』
「はい、銀の黄昏の総帥をしているポエトと申します」
穏やかな声色はどこか弾んでいる気がする。普段の喋り方を聞いていないと気づかないレベルだがアダムとシュトリク、レイラはそれを見抜いていた。大悪魔の正体を知るシュトリクとアダムはともかく、魔法使いの性質を持っている総帥にレイラははらはらしていた。
『いいだろう、話をしよう。他のものは下がれ』
ルルイエがそう言って威圧感を出すと構成員たちは逃げるように階下に降りていく。その中にダッカーノ達も含まれていた。レイラはシュトリクに背を押される形で降りていき、アダムはルルイエに目配せをしてから階下に降りて行った。
「大悪魔を呼び出せるとは・・・あの魔法使いはどうあっても我らの陣営に迎えたい」
ダッカーノは自分の派閥に属するメンバーを集め、緊急の会合を開いた。アダムは打ち合わせ通りに先んじて幹部であるシュトリクとレイラに会いに行ってしまったのでその対策を練る必要に迫られたのだ。
自分達こそ正統派の魔法使いと考える彼らにとってそれなりの年齢かつ男性で、さらには高い技量を持つ魔法使いが総帥側に着くことを恐れていた。
(ヤツが我々を排除しようとしたら・・・)
シュトリクやレイラは若さと女性であることから侮っていた。総帥はそもそも世間知らずの若造と侮っていた。
しかしアダムは違う。彼は総帥のように騙す事は難しいだろうし、シュトリク達のように経験や業界の知識などで先んじることも難しいかもしれない。つまるところアダムを引き込めなければ自分達が持っている優位性が失われかねないのだ。




