総帥の人柄はわかったけど・・・
アダムは頭の中で考えていた組織に巣食う問題の種類を整理し始める。
(まったくもって彼は人の言葉を疑わない。故に適当こいてりゃ勝手に騙されてくれる。そんなお人好しに諫言するのは疲れるだろうな)
疑えと言ったところで「だって彼はそう言ったし」と答えかねない人物に見える。元々興味も知識もない人間にこんこんと説明したところでややこしいことになるのは目に見えている。
「大悪魔とは一体どのようなことを?」
「それは言うより彼女においで願った方が良いでしょう」
そう言った瞬間にポエトはずいっと近づいて来た。
「うおっ」
「それでは召喚を?」
「え、ええそうです」
突然の事に驚きはしたがアダムはどうにか冷静を保って話を続ける。
「陣はどのような?触媒はなにを?大悪魔は専用のシンボルがあるのですか?」
「近い近い近い」
穏やかな物腰のままグイグイ来るのでアダムは引いた。しかしながらアダムは彼の人となりと目的を凡そ把握して安堵した。彼はおおよそのところ善人であり、真っ当な魔法使いだ。研究者としての側面があり、それ以外には感心の薄い性格はまさしく深淵を覗こうとする魔法使いの性質にあたる。
「それでは・・・」
「・・・待ってほしい」
手の甲を交差させようとした時にポエトから待ったがかかった。
「なにか?」
「こういったことを独占するのは良くない。皆の前でやってもらっても?」
「構いませんが・・・普通はこういったことは秘匿するか、限定的にするべきでは?」
魔法陣、魔法、悪魔との契約について。それらは本来は秘匿されていて当然の代物である。
悪用される以前に自分の成果を他人の前で赤裸々にしてしまうわけだから嫌がるものの方が多いだろう。
しかしアダムにとっては好都合だ。自身を優れた魔法使いだと錯覚させるには丁度いい。
「ダメかな?」
「いえ、構いませんよ。むしろ見せびらかしたくて」
くっく、と笑って見せるとポエトは笑顔を見せた。これで腹芸ができるタイプだったら恐ろしい事この上ない。
「それでは皆を呼ぶので君は準備をして欲しい」
「ああ、それならお構いなく。それなりの広さの平らな床があればすぐにでも始められる」
「・・・すばらしい」
ポエトはその一言に目を輝かせる。そんな子供のようにはしゃぐ姿を見てアダムは苦笑した。
(そりゃあ・・・あんな面倒な事を一瞬で出来ると言われたら感動もするよな。ワシだってそうだ)
召喚陣をあらかじめ用意する必要がない。それだけである種のステータスだ。アダムは普段ならせっせと床に這いつくばり、コンパスや分度器を手にこつこつと図面を引いている自分を思い浮かべて心の中で溜息をついた。
「・・・」
ポエトはそわそわしながら壁に設置されているベルを鳴らした。ベルは連動しており、階下に設置されたベルもそれに従ってなる仕組みだ。集合を掛ける際の合図として使われているのだろう。
よほど楽しみなのかベルを何度も引いている。うるさい事このうえない。
「総帥、ええと、そのへんで・・・」
シュトリクが苦い顔をしている。そうしていると踊り子風の女性がやってきた。
「レイン、早いね。君が一番乗りだ」
「総帥、突然の事で皆が驚いていますが・・・彼の事ですか?」
「ああ、彼がね、大悪魔との契約をしたと言うんだ」
「彼が・・・?」
踊り子風の女性、レインはアダムを見ると疑うような視線を投げたがシュトリクが目配せをすると何かを察したように彼女の隣に立った。
「シュトリク、貴女が彼を?」
「ええ、良いように取り計らってくれるって」
こそこそと何やら話しているようだ。アダムには筒抜けだが。とりあえず内通者が増えたのでよしとする。
「総帥、如何様な事態ですかな?」
それから少ししてやってきたのはダッカーノとクノーツだった。クノーツの言葉は丁寧だが相変わらず尊大な態度が目についた。
「おお、君達、大悪魔だよ、彼が、大悪魔との契約を成し遂げたと」
「なんと、そのような事が?!」
ダッカーノが声を上げた。そしてアダムを見るとその視線は何かを値踏みするようなモノへと変わっていく。
これほどあからさまに相手をじろじろと見るのは失礼だが相手はそんなことお構いなしだ。
アダムは素知らぬ顔をしつつ、ダッカーノの姿を観察した。
(身に着けているものはそれなりに上等そうなものだが・・・こりゃ典型的な没落した名家って感じだな)
元はそれなりに立場があったのだろうが政争や出世争いに負けて落ちぶれた魔法使いだろう。
そしてプライドだけは高いせいで一から出直すこともできずこういった組織でふんぞり返っている。こう言った手合いは割と多い。
そしてこの組織を食いつぶしたらそれを元手にもう一度・・・と考えているのかもしれない。
エトナ―に顔を覚えられているだろうし、教会に目をつけられていることをどう切り抜けるのかは知らないが皮算用をするのは勝手だろう。
(コイツに組織を束ねるだけのカリスマがあるとは思えんしな)
アダムはそう頭の中で思いながら皆が集まるのをじっと待っていた。




