作戦決行まで・・・ その2
時間は少し遡ってアダムはシュトリクを伴って屋敷の前に立っていた。
「ワシらは大悪魔の契約を勝ち取ってここに凱旋した。その方向で行くぞ」
「はい」
簡単な打ち合わせを済ませて二人は銀の黄昏の本拠地である屋敷へと足を踏み入れる。
「・・・」
「あれは・・・?」
「見知らぬ顔だ」
すれ違う構成員はアダムを見るや否や掃除夫の時とは打って変わって警戒心を露わにしている。アダムはそれをみて銀の黄昏の内部が思った以上に淀んでいることを再確認し、鼻を鳴らした。
(新入りを歓迎できない空気とは・・・思った以上に派閥の力が強くなっているようだ。それともコイツの人望か・・・?)
先を歩くシュトリクの背中に視線を向ける。彼女はこの組織ではおそらく珍しい部類の真っ当な人物だ。
しかしながら我田引水を図る際に彼女のような人間はめざわりだろう。彼らに彼女を良いように誘導できるだけの器量もないだろうし、そもそも派閥を作ってゆくゆくは組織を牛耳ろうという奴らに彼女のようなトップに忠実な人間はいうまでもなく障害でしかない。
ただ彼女も別段組織人として優秀というわけでもないのでそこらへんは彼女にも問題はあるのだろうが。
(清廉なだけの幹部となると、まあ・・・目障りだわな)
真っ当な収入源の一部を占めているとはいえ、ダッカーノはおそらく裏の稼業に手を出しているだろうしジダーノはその上前をはねているのだから彼女たちよりも収入があるだろう。となると彼女の言う事を聞く理由は無いに等しい。そして実際の実力はともかくダッカーノは自分の方が正統派の魔法使いだと思っているし、ジダーノはそもそも魔法使いとしての栄達や研究にはそもそも興味がなさそうだった。
目的の違う連中が組織力を得るために入り込んだ獅子身中の虫だ。
(仕事であればこ奴らなんぞ一人ずつ始末すれば済む話だが・・・)
総帥が如何様な人物かはわからないがそのような事をすればルナにも悪影響であるし、なによりシュトリクや彼女の同僚、そして下手をすると総帥の恨みを買いかねない。
(流血沙汰になると面倒だな・・・まあ、叩けば埃の出る連中だからそこらへんは楽なんだが)
追い出す口実には困らないし、彼らの情報を教会に届け出れば彼らが外出するのを待って順次捕えればいいだけだ。
「ここが総帥の部屋です」
屋敷の上階に位置する総帥の部屋は驚いたことに最上階を丸々使ったもの。壁の一面の窓をできるだけ増設して光が取り込めるように、また外の景色が良く見えるようになっている。窓は人目につく表通りではなく、裏手に見える山がよくみえるような配置である。
「ここがか、さて・・・鬼が出るか蛇が出るか」
階段を上がって総帥のいるであろう最上階にたどりつくと・・・。
窓から差し込む光を浴びて目を細めている人物が佇んでいた。その人物は水色の長髪に、中世的な・・・ともすれば幼い顔立ちをした人物だ。パッと見て男女のどちらかを見抜くのは難しい顔立ちをしているがアダムは彼のローブの下の体つきと体格から男性だろうと予測した。
「やあ、キミが新しい同志だね。ようこそ、私はポエト、歓迎するよ」
声が良く通る。穏やかな声色と相まってそれだけでとても好感の持てる人物だ。随分と若く見えるその顔立ちだが体内を巡る魔力はとても穏やかで、しかし力強く循環している熟練者のそれ。
若さと老練さが合わさったこのような人物の雰囲気にアダムはなるほどと内心で得心がいった。
(コイツ、精霊かなにかの混血か・・・)
アダムはエルフとの交流が多かった。それ故に人間とは違う魔力の流れに対して知識だけでなく感覚としての既視感のようなものがあったのだ。エルフも見た目と実年齢が乖離している者がいるし、子供のころから魔力のコントロールに長け、訓練を遊び感覚でやっているため魔力だけなら熟練者を思わせるような者もいるのだ。
「どうも、私はアルドラと申します。組織に身を置くことになり、事前に彼女と共同で事に当たれたのは幸先が良かった」
「よろしく、アルドラ殿・・・単刀直入で申し訳ないが大悪魔との契約がなったと聞いた、空前の偉業と言っていいと思う。そのような大それたことが如何様にして可能になったのか聞いても?」
偽名を名乗ってみたが彼は疑う素振りすら見せない。魔法使いにとって偽名を使う事は珍しくもないが身元や出身を聞くこともなく受け入れるというのはかなり警戒心のない証拠だ。もしくは大悪魔との契約という事実が気になっているだけかもしれないが。
「運が良かったというのが大きいでしょう。悪魔はとても好奇心が旺盛だ。交流をしたいと実験と呼びかけを続けていたところに同じ考えの悪魔がいたのでしょうな」
「なるほど、それは・・・しかし継続は力といいます。努力が実ったと考えるべきでしょう」
にこやかに受け答えするポエト。言葉の端々に裏表のない賞賛の言葉を聞いてアダムは彼が慕われるだけの理由のある人物であると感じた。海千山千の悪党やらを相手取ってきたアダムにとって言葉の中に含まれる感情などを見抜くのは容易かったがそれが全く必要ないほど、彼はあけすけに相手とその実績に敬意すら見せていた。




