派閥の一角
アダムは目の前の男、クノーツの性格を凡そ理解し反応を探る事にした。
「へへぇ、それは大先生に大変なひつれいを」
「ふん、分かればいい」
「此処が一番偉い人の場所ということでよろしいんで?」
「もちろんだ」
「それではここ以外は別に許可を得る必要はありませんか?」
そうアダムが言うとクノーツは当然だろうと言わんばかりの顔をし、鼻を鳴らした。
「当たり前だ、他は皆ただの構成員に過ぎん。大した事はしとらん」
「へへぇ、それでは当たり障りのないようにさせていただきやす」
アダムがそう言うとクノーツはジロジロと値踏みするような視線を投げていたもののアダムが努めて腰を低く対応したのに満足したのかさして追求もなく部屋に戻っていった。
(相当な自信家だな)
目の前の掃除夫が魔法使いとは夢にも思わないだろう。
隠しているとは言え、魔法使いが見知らぬ相手に対して言葉だけであっさりと疑う素振りも見せないところに底が見えたような気がした。
「さて、次は・・・」
見取り図はほぼほぼ完成している。時折構成員に声を掛けたりもしたが大家から派遣された掃除夫と名乗ると誰も警戒した様子がなく、アダムは肩透かしをくらった。
「おい、掃除夫というのは君かね」
「?・・・そうですが」
声の方へ振り向くと今度は小太りの男がこちらを見ている。ローブを着ているところをみると一応魔法使いのようだがその手には杖や本ではなくなんと算盤がにぎられているではないか。
「料金はどうなっておりますかな?」
「はあ・・・大家さんの依頼なのでもう頂いておりますが」
「よかった!それならこっちに来てくれ!」
再び声をかけられたかと思うと今度はクノーツ達とは反対側の部分へ。
「ここをお願いしますぞ」
「ここは?」
「ジダーノ様のお部屋ですぞ、せっかくきてもらったのだからしっかりお願いしますぞ!」
アダムは今度は別ベクトルのダメさ加減に眩暈がした。高慢な連中の次はケチな連中ときた。
汚れた廊下や窓を徹底的に掃除する羽目になり、アダムはいらぬ時間を使うことになった。
(タダと聞いた途端に目の色を変えやがって・・・なんてセコい連中だ)
無料という言葉にはケチを惹き付ける魔法でもあるのだろうか。
「ところで、貴方様のお名前は?」
「むむ、私ですかな?」
「そうですがお名前をお聞きしても?」
そう言うと小太りの男は少し嫌そうな顔をした。そんな時、アダムの脳内にふとティナの言葉が浮かんだ。
(ケチなヤツに貰うとか頂くって言葉は良くないよ)
まさか、そんな、そんなしょうもないことで?と思いつつもアダムはヤケで尋ねた。
「お名前を聞いて”あげましょう”!」
「トルテモ・ケッチータですぞ!ほほほー!」
「ジダーノ様のお部屋の場所も”タダ”で掃除して”あげちゃおう”!」
「ほひひー!こちらですぞー!」
アダムはもう開いた口が塞がらない状態だった。こんな連中に良いようにされている総帥とは・・・?
敵のレベルを知れば自ずとその相手の力量も知れようというものだが・・・。
見る限りとんでもなくバカバカしい内容だ。
「ここですね?タダでやっちゃう場所は!?」
「そうですぞー!ジダーノ様!掃除の方ですぞー!」
ケッチータはどすどすと足音を立てて歩いていく。部屋の中には整頓された書類や調度品が置かれているが・・・。
「掃除だと!紙屑だって使い道があるんだ!何を掃除するというのだ!」
「タダなのですぞ!ジダーノ様!」
「なに!それはいい!」
部屋の奥から大きな声が響いてくるとこんどは痩せぎすの男が負けない足音で出てきた。
継だらけの古びたローブを羽織った痩せぎすの男、彼がジダーノらしい。
「タダならやってもらうのはいい事だ!だが!ここには無駄なものはない!廊下と部下の部屋を徹底的に頼むぞ!」
「はぁ、それではタダでやりますですはい」
「タダ!素晴らしい言葉だ!魔法もそうだ!知識さえあればタダで火が起こせるし、水と風で紙屑も新品同然にできる!何度だって書ける!すばらしいことだ!」
そう言うとジダーノは手慣れた操作で金庫を開けると出納帳を取り出してお金を数え始めた。
「これから内部資料を見るのだから出ていけ!タダで掃除をしたくらいでは見せてやれん!」
「対価があれば見れるんで?」
「そうだな、それなりを積めれば考えてもいいぞ!考えるだけならタダだからな!」
徹底した拝金主義である。しかもしれっと貰っても見せるとは言っていない。当然といえば当然だろうが。
「・・・くたびれた」
結局屋敷をくまなく掃除する羽目になり、クタクタになって外にでると屋敷で得られた情報を纏めることにした。
「銀の黄昏は二つの派閥が争っている状態か・・・派閥のトップの名前が知れたのは幸運だったな」
内部協力者であるシュトリクから齎されたのは二つの派閥が銀の黄昏の中で最も有力な派閥で、他は本来の理念である魔法の研究を主にしている中立派だそうだ。
一つは魔法使いであることに高いプライドを持っているダッカーノ率いる魔法使い至上主義の派閥。彼らは銀の黄昏の中でも自分達こそが魔法使いだと信じて疑わないプライドの塊みたいな連中だそうだ。
彼らはその考え故か一般人をターゲットにした違法な実験や魔法の行使を陰で行っているらしく教会がマークしている面子もそこに多い。
もう一つは魔法を使って利益を得る事に余念がない守銭奴の集まり。こちらは金の機微に敏いのか出納係を買って出ている。今は私腹を肥やすことと自分の利益が結びついているがそれがどう転ぶかはわからない。
こちらの派閥はジダーノという男がトップでケチで有名な男らしい。彼らはダッカーノの派閥に比べて数は少ないものの金庫番ということでそれなりに発言権があるのだろう。




