保護者はつらいよ その2
エトナーは何だかんだ言って巨大な宗教組織の頂点に位置する人?である。彼女のコネがあれば組織の運営に詳しい人物を呼ぶこともできるだろう。
教会の人間は魔法使いに厳しい者が多いがエトナーはその中でも偏見の少ない人物である。
「教会の問題を解決するには手っ取り早い存在でもあるか」
アダムはそしてもう一人、ルルイエについて考える。
ルルイエは闇の世界で魔法について、また世界の権力構造にくい込んでいる度合いで言えばエトナーにも負けない権力者でもある。ただ、善悪などで考えればエトナーとは真逆の存在のため『ルルイエと関係がある』と言われれば聖職者に魔法使いについて尋ねる以上の反応が返ってくる事があるくらいだ。
しかしながら小悪党を追い払うには彼女のネームバリューはかなりのものがある。
「そして最後に・・・」
ルナの存在である。彼女は中身はともかくガワは魔法使いにとって天の御使いにも等しい大悪魔だ。彼女が意味ありげに微笑んだり、誰かを見据えてため息を着くだけで魔法使いは下手をすれば今ある立場を失いかねないほどだ。
アダムは頭をかいて色々と考えを巡らせてみる。
「できかねんな」
長期的な改革はともかく、短期で解決できる部分には彼女たちの力はかなり大きい。ましてや組織の身内が手引きするのだからその計画はかなりスムーズに進むのではないだろうか。
しかし、しかしである。ルナはまだ学生だ。こんな事に手を出すにはまだまだ未熟なのではないかとアダムは考える。
そしてなによりこういった事が一回だけで済むとも限ら無いわけで。
実績ができれば人は『この人なら大丈夫』と考える。それが如何に血を吐いて成し遂げたことであってもそう思う。
自分がそうだったように。エトナーやルルイエがそう思われているように。
しかしだ、それが一学生に降りかかるとなれば話は別だ。アダムの知る限りルナの父親もこちら側に片足突っ込んだような性格と能力をしているがルナ自身は普通の感性をしている。
自分達のような、英雄や化け物と呼ばれる生活に耐えられる保証はないのだ。そしてそれを望むような事は少なくともアダムもしたくない。
誰だって平穏に暮らせるならそれに越したことはない。彼女が仮にそうなる運命であったとして、それをいたずらに早めるのは大人のすべきことか?
「・・・」
できるならそうすべきだろう。エトナ―はそう言うだろう。自分がそうだったから。
彼女が望むならそうすべきだろう。ルルイエはそう言うだろう。彼女はルナにそうあって欲しいと望むから。
しかし自分はそうは思わないのである。まだ彼女を子供のままでいさせてあげたい。
そう思いながらこそっと旧館の玄関口に戻る。
「・・・」
その途上でエトナーが植え込みに頭から突っ込んでいるのが見えた。アダムは指をさして声を出さずにひとしきり笑った後に職員室へ。そしてふたたび教材を手に取った時、ルナが再び窓を這いまわっているのが見えた。
「みーつーけーたー!」
「まだいたのか」
窓を開けて入ってくるとシュトリクもそれに続いて入ってきた。
『ちなみに私もいたりする』
「お前もか」
ルルイエが鼻をかみながら職員室の隅に立っている。アダムは再び懐に手を入れようとしたが、キリがないと判断して観念することにした。
「ディーン先生、お願いです。瓶の液だれを健全にするために手を貸してください」
「銀の黄昏だろ・・・それはさておき、どうしてそんな得体の知れない組織の為にお前が骨を折るんだ?」
「だって、現にシュトリクさんが困ってるし・・・いつ変な人が来るかもわからないしで私も困ります」
アダムはそう言われて合点がいった。そう言えば以前自分達を襲撃してきた魔法使いが銀の黄昏の所属であったとエトナ―経由で聞いていたからだ。ルナはシュトリクが困っている事に加え、あの時友達に危険が及んだことも加味して問題を解決したいのだろうとアダムには思えた。
「・・・しかしだな、作戦はあるのか?ごり押しでは壊滅させることはできても健全化させるのは難しいだろう」
『そこらへんの知恵を借りたくて貴方のところに来たのもあるわ』
「ノープランか?」
『私は乗り気じゃなかったもの』
ルルイエはそういうと困ったように肩をすくめた。彼女は基本的に享楽的な考えの持ち主ではあるが準備を怠らない考えの持ち主でもある。裏を返せば興味もなく事前準備のない事柄はやりたがらないということだ。
ルナが絡んでいなければいつものように景色に溶け込むように消えて二度と姿を現さないだろう。
「調査が必要だな、あの組織がどれほど問題があって、誰が問題を起こしているのか。それを知る必要がある」
「シュトリクさんと、その同僚の方の話が聞ければ大丈夫では?」
「彼女が幹部だとしても言う事を聞かんヤツの方が多いんだろう?だとするとそれだけでは全貌は把握しきれん」
組織のどのくらいまでが病巣なのか、それすらも今はわかっていない。皆は一様に頭を抱える。




