な、なにこれ!?
ルルイエは魔神である。純粋な悪魔でなく、純粋な人間でなく、かと言ってそれらが変じた者でもない。精霊や土地に根ざす神ともちょっと違う。
それゆえにこう言った事にはとんと考えが及ばないのである。
『え、ええっと?なに、限界くるまで頑張って耐えてたけど辛くなったって?』
「ありていにいえばそんな感じです」
悩みを聞いていたルナはシュトリクが嘆いていた言葉から推測して代わりに頷いた。
『転職したらいいんじゃ?』
「それが同僚が教会に迷惑掛けまくってるせいで無理とか」
『流石に可哀想が過ぎるわ』
魔法っていいよね。の理念から集まった集団がいつの間にか某世紀末のモヒカン集団になってた。そんな状況で方々に頭を下げる生活を送っていたらそれはバカバカしくもなるだろう。
モヒカン集団に反省なんて言葉は無いし。
『エトナーの言葉を聞く限りだと総帥のカリスマでもってる組織だと思ってたけど・・・ま、そりゃそうよね。後始末係がいるはずだわ』
組織を組織たらしめるのは長はもちろん組織をきちんと運営するメンバーが不可欠である。しかしながらその中の一人にどうにもその業務が集中してしまっているようだ。
「そもそもなんでシュトリクさんを私から遠ざけてたんですか?」
『そりゃあ、彼女がこんなになってるような組織と関わって欲しくないし』
秘密結社のシンボルにされたり、力や立場を利用されたりしたら困るし、彼女を傷つけるかもしれないと言うのが保護者一同の見解であった。ルナが好奇心に負けてしまったらどうしようかと思っていたが目の前にわかりやすい事例が出来たのでルルイエはそれを利用してルナに警戒を促すことにした。
「確かにそう言う事となると・・・」
ちょっとその組織は嫌ですね。とルナが困ったように言うとシュトリクは少しだけ残念そうにしながらも仕方ないといった様子だ。
『正直、個人的にも関りを持ってほしくなかったのも事実よ』
「ええっ・・・」
『だって、会ってそれほどでもない相手にそこまでしてあげる貴女が困ってる彼女を放っておけないでしょう?』
気を失った彼女に治癒術をかけて、大泣きする彼女が泣き止むまでよしよししてあげているルナを見てルルイエは溜息をついた。優しいし正しいことだ。それはわかる。しかし社会にはそんな善意を食い物にする奴なんていくらでもいるのだ。それを見抜くには彼女はまだまだ若い。それにお人好しすぎる。
もしもルルイエのように笑顔で相手を踏みつぶせるなら、エトナ―のように全てを乗り越えられるなら、アダムのように全てを見抜けるなら。そうでなくても大人としての良識を持ち合わせていればどうとでもなるだろう。
「うーん・・・でも、困ってる人をほっておくのは・・・」
『それはいい事なのは言うまでもないわ。でもまだまだ、あなたは若い。誰かを救うのはいいけど、背負うには知恵も力も足りないのだから無理はダメよ』
「わかりました・・・」
そう言うとルナは少し不満そうにしつつもルルイエの言葉を聞いて頷いた。
『それで、後はあなただけど・・・』
「・・・」
『ルナちゃんをどうしたいの?』
「いろいろ、お願いしたい事はあったわ。教会との関係修復、悪魔とのコネの構築、魔法探求の為の知識の交換・・・」
シュトリクはそう言うとルナを見て、そして大きく溜息をついた。
「あんな子を大人の汚い世界に連れて行きたいと思うバカが居る?」
『常識のある魔法使いでよかったわ』
「正直・・・彼女と接触するつもりだった理由の大半は馬鹿の尻ぬぐいのせいだし、コネも探求も・・・自分でやるべきことで、他人にさせる事じゃないし」
魔法使いは探求者である。魔法の極致にたどりつく為に本を紐解き、秘境に足を運び、人と交わって知識を蓄える。そしてその過程を経て魔法の鍛錬・探求に挑むのである。
「総帥にぶら下がってる連中はそんなことも忘れて、手っ取り早くあのくs・・・聖人を追っ払う事ばかり考えてる奴らばかり・・・だからもういいわ。個人的にはいくらでも親交を結びたいけど」
『個人的に・・・ねえ?』
「もちろんよ、だって可愛いし暖かいし柔らかいし」
ルルイエは少し考えてシュトリクに質問をした。
『ルナちゃんの可愛いところは』
「暖かい笑顔と声」
『ルナちゃんのチャームポイントは?』
「笑顔とふともも」
『彼女の膝枕から見上げる世界は?』
「約束された地、我らが故郷」
二人は豪快に両手を交差させ、手を叩きあった後にがっちり握手した。
ピシガシグッグッ的なアレである。
『貴女素質あるわね。わかったわ、あなたがこの子との繋がりを個人的なものに留めるウチは見逃してあげる」
「ありがとう、楽園を汚さないように見守っていて頂戴」
「・・・」
なにか友情めいた雰囲気を醸し出している二人を他所にルナは割と真面目に引いた。




