せっかくだし
ルナはもんもんと考える。別に事ここに至って、冷静になって考えてみるともうどうでもいい気がしてきたのだ。
(おじいちゃんたちも仲直りしたみたいだし・・・)
しかしすっきりしないと言えばウソになる。なにか、何かすっきり終わらせるだけの結果が欲しくなった。
「うーん、実を言うと私も・・・別に何か欲しいってわけじゃないんだけど・・・」
そう思いつつ、ふとルナはティナがアルディーノに押し売りしていた銀のアクセサリーを思い出した。
護符の模様が刻まれたブレスレットだ。恐らくは簡素ながら護符としても機能するだろう。
「そうだ、ティナちゃん。あれをこの子に渡してあげよう」
「あれ?ああ、あのアクセサリーだね」
「代金はおじいちゃんが払ってくれるし、せっかくだからラウラちゃんにあげちゃおう」
ティナはそれに同意して頷くとポケットからブレスレットを取り出してラウラに手渡した。
「これは・・・まあ、あの工房の作品ね。作っている数が少ないから手に入らないと思っていたの」
「へっへっへ、これは、そうだなあ・・・まあ、友誼の品だとでもおもって。代金はちゃんともらうし」
「代金を貰う友誼の品ってなに・・・?」
ルナは呆れた顔をしていたがラウラは笑顔でそれを受け取ると腕にそれをつけた。
「うふふ、友誼の品ということは私達はこれでお友達ということですね」
「そうなるかな、お返しとしては十分じゃない?」
「友達・・・!」
ルナはそれを聞いてぱあっと表情が明るくなった。それを見てラウラも笑顔になる。
ラウラにとっても祖父が迷惑をかけた相手ということでなにかしらのお返しはしたかったので繋がりができるのは万々歳だ。なにより彼女も年頃の娘である。友達が欲しい。
「お返しというには私にばかりメリットがあって心苦しいですが・・・それがお二人の望みであればなによりです」
「「わぁい」」
ルルイエはそれを見てほっこりしていたがやがて冷静になってくるとあることに気がついた。
『お昼食べてないわね』
バザーを切り上げてここまでドタバタとしていたので何も食べていないのである。
そしてそれに気づいたのかルナがそのまま後ろに倒れた。
「る、ルナちゃーーーん!」
「おなかすいた・・・」
「大変!なにか食べるものを!」
悪魔になってからルナは非常に燃費が悪くなっていた。そして今回はルルイエの補助があったとはいえ腕をくっつけたりと体力の損失があったためさらに悪化していた。
そうでなくても健啖家の父親の血を受け継いだ子である。食べないと兎に角始まらない存在である。
こうしてバザーから始まった一日は暮れていくことになった。
街にあるホテルの一室で一人の美女がソファに体を預けながら手を動かしていた。その手にはかぎ針が握られており、まるで思考を纏めるように布を編み続けている。
「・・・さて、そろそろ動くか」
手をとめて、美女こと布隠れの魔女はまるで宝箱のような形の小箱を開いた。
「鏡よ、本部へ」
箱を開くと砕けたガラスのようなものが詰まっており、彼女の声に従って空中に浮かび上がると鏡のように形を成した。そしてその鏡は別の場所を映し出した。
『布隠れの魔女、進展は?』
「芳しくないわ、最初の接触以降どこもかしこもガードが固くて・・・単独で会うのは無理かも」
『お前が会えないのか?』
鏡の先には踊り子風の女性が映っている。彼女は布隠れの魔女が監視を掻い潜って目的の人物、ルナに接触できないことを不思議そうにしている。
「教会と魔神と、魔法学校の教師まで目を光らせてる。何か策が必要だわ」
『聖人の弟子であり魔神の弟子であり、魔法学校の生徒でもあるものな。仕方ないといえばそうだが・・・なんとも豪華な顔ぶれだ』
くっく、と笑いをかみ殺す声が聞こえる。実際問題この大陸で上から数えた方が早い存在が彼女を守っている。
それだけでどれだけ彼女が重要な存在か公言しているようなものだ。
『しかしだ、教師くらいはどうにかできないのか?』
「魔法学校自体も教え手としてもそうだけど実戦派の魔法使いが多いのに彼女の担任がずば抜けて鋭いのよ」
隠形の魔法を見抜く男なんて初めてだわ。と布隠れの魔女は頭を抱えながら溜息をついた。
実際彼女は複数回学校に忍び込んでいるがその度にアダムと目線がぶつかったり、見回りをしている教師に見つかって追い払われたりと失敗を重ねているのだ。
「潜入も調査も得意だったと思ってたけど・・・あそこらへんは生き物の出入りに関しては本当に厳しいわ」
実際、ルナに接触を図らなければ潜入そのものは彼女の魔法の特性から容易い。なにせ布切れ一枚通る隙間があれば彼女は侵入することができるのだ。もしくは布が保管されている場所などがあり、そこに十分なスペースがあれば名力を通す事が出来れば布から布へ転移することができる。
しかし彼女の目的はルナとの接触と会話、そして縁を結ぶことである。そうなると難易度は格段に上がる。
なにせ許可しないと保護者から徹底されているのだ。銀の黄昏は構成員から異端者を出した過去から教会からほぼ無条件で排除の対象になっているし、事情を知るエトナ―が真面目になっていないから消滅していないだけと言っていい。




