闇オークション!ルナを探せ!
「こりゃ相当不味いぞ」
アダムは思わず呟いた。ガスタンという男がルナを脅しや嫌がらせの為に攫ったのであればなにかしらのリアクションがあると思っていた。怨恨ならば必ず相手に対して明確なアクションを起こす。そうなればそこから手掛かりが得られるかもと。しかし彼女の身柄に値段が着くとなると話は変わってくる。
(魔界や外国に売り飛ばされでもしたら追い掛けられなくなる!)
若い悪魔関係の、それも見栄えのいい女性となるとどうとでも値段はつけられる。しかもそう言ったところは当然ながら裏の世界だ。下手をすると公権力の言うことすら聞かない連中もいる。
「アルムンドさん、先ほどの話に戻るが・・・そのガスタンという男が利用しそうな施設などに心当たりはないですか?」
「施設・・・ですか」
「裏の、と言う前置きが必要ですが」
アダムは藁にも縋る思いだった。彼自身が調べるにも時間がかかりすぎる。身柄を抑えられてしまった以上事は一刻を争う。悠長に調べている時間はないのだ。
「そうですな、私達には縁のないものと思っていましたが・・・俗にいう上流階級の連中が使う施設に公的機関を寄せ付けない場所があります」
「・・・その場所は?」
「この街の一角に金持ち連中が開いているクラブがあります、そこでしょう」
アダムはアルムンドの言葉に合点がいった。というよりも失念していた。
マルティナやセリオというその道のプロを雇えるだけの金とコネをもっているのだ。クラブに出入りできても可笑しくない。
「公的機関を寄せ付けないというのは?」
「後ろ暗いことをやっとるんでしょう。集まる人数も、”物”も多い」
「物か・・・オークションか密売を?」
「金や物を運ぶ怪しい連中が出入りしているのを見かけた事が何度か、調べようとして待ったがかかったことも一度や二度じゃありません」
アルムンドはいつも持ち歩いているらしいメモ帳にさらさらと住所を書くとそれをアダムに手渡した。
「ここです・・・中に入れるかはわかりませんが」
「どちらにしろ調べる価値はあるでしょう」
一か八か、アダムはメモを受け取ると先んじて走り出した。
「くくっ、小鳥を手に入れた」
ガスタンは彫像のように固まったルナを見て笑みを浮かべた。
散々に手間を掛けさせられたがこれから向かう先での結果次第ではその手間に見合うリターンが得られるかもしれない。
「不可思議な魔力の増大、そして胸に光るそのペンダント・・・どのような結果がでるやら」
聖職者が異常と判断した事実があればこれから向かう場所での鑑定にも色々と良い結果が出るであろう。
(・・・そうでなければ一人の健康な人間として売りに出すまで)
憎きエルド・フラウステッドの娘。それだけでガスタンにとって彼女に悪意を向けるのに十分だったがそれが金の卵に成りうるともなればさらに都合が良かった。
あの男を絶望のどん底にたたき落としつつ自分は出費を補填して余りある利益を得られるかもしれない。そんな皮算用すら始まっていた。
「鑑定を頼む」
部下に命じて布にくるまれた人間大の大きさの何かを見せるガスタン。場所は上流階級の人間だけが入れる会員制のクラブである。かつてはホテルとして利用されていたこの施設は今や魑魅魍魎が違法な商品に好きなように値をつけて売る伏魔殿と化している。
「拝見します」
燕尾服に身を包んだ男性がガスタンが運び込んだ荷物の鑑定をしようとモノクルに手を添えた。
「これは・・・いやはや、ギュント様も大変・・・」
「して、値段は?」
エントランス横の従業員用の出入り口を兼ねた商品の搬入口に移動した先で布を取ると男性は人とは思えない笑みを浮かべてガスタンを見る。
「そうですな、こちらで買い取りとなりますと金貨が数枚・・・鑑定してオークションに出されるというなら金貨数十枚といったところでしょうか」
「なるほど、それではオークションに」
「畏まりました。それでは一度精密に検査させていただきますのでゲストルームでお待ちください」
ガスタンをボーイに預けて目の前で彫像のように固まる少女を見た男性はドアが閉まると同時に狂ったように笑う。
「HAHAHAHA!これはいい!『ネームレス』!厳重に封印されていやがるがなかなかどうして!素晴らしいじゃねえか!」
男性が手を無造作に伸ばし、その体に触れようとするとルナを包むように水晶のような結晶が広がり、彼の手を弾いた。
「忌々しい、聖なる封印・・・、俺たちには解除は無理だ、だが方法がないわけでは無い。蒐集家にはこういった謎解きをセールスポイントにするのもアリって奴か」
布にくるむ、人間に運ばせる。そのどれかを満たせば人外にも触れることはできる。しかし封印を解くには聖職者か道具が必要になる。しかしそれは彼らには難しいことではない。
「くくっ、いーいもんを持ってきてくれたぜ、悪徳役人様様だなぁ・・・」
男性はモノクルから覗く目を細めながらシャンパンのボトルの栓を抜いた。炭酸が溢れ、派手に散った液体が照明の光を受けて輝き、彼の興奮を示す様に踊った。
「今日の目玉はコイツで決まりだぁ!」




