お薬上手に作れました?
アルディーノはそれで色々と体力を使い果たしたのかそのまま崩れ落ちた。
「おじいちゃーん!」
「あーあ・・・」
両手を腰に添えて唸りながらモゾモゾしている姿はなんとも痛ましい。
『二人とも、そんなジジイほっといてさっさと薬を作るわよ』
手伝って頂戴!と歩き出したルルイエ。なんてやつだ。
「ひ、ひどい」
「まるで悪魔だ・・・悪魔だったわ」
二人はそう言いながら離れにある小屋へ。
「なんか屋敷に比べると地味ですね」
「庭にある物置みたい」
『魔法使いが内緒の場所を作るにはだいたいこういう事をするものよ』
魔法使いだけではないが秘密基地や工房を持つのは魔法使いにとってサガのようなもの。そして『見ないでくれ』と言うメッセージを形で残す事で格式のある魔法使いなどは遠慮してくれるのである。
「中も普通の物置だけど・・・」
ルナの言葉にティナが中に突入して物色を始めた。
「隊長!このジョウロ銀製であります!」
『誰が隊長か、泥棒みたいなことするんじゃありません』
ティナの頭を叩いて元の場所に戻させるとルルイエは視線を動かす。
『ここね、地下室への入口があるわ』
ルルイエが指を動かすと床板がズレて地下室への入口が現れた。さらに指を動かすとギギギと音を立てて扉が開いた。
「おお、ここが秘密の調合台のある部屋!」
ティナは入ってからわざとらしく大げさに言ってみたが・・・。
「普通だね」
『薬の調合をなんだと思ってるの?』
「なんかいろんな入れ物にいろんな色の薬が入ってて不思議な匂いとか煙とか・・・」
『まんま魔女のそれね、ヤバい薬作ってるときはそんな感じだけど、ここでやってるのは魔法の触媒とかの調合だからそんなことにはならないわ』
中には薬研や乳鉢と乳棒。井戸水とフラスコなどがさかさまにして整理されている。
ルルイエはそれの中でビーカーを一つ取り出すと懐から数種類の液体が入った試験管を取り出して少しずつ注いでいく。
「それは?」
『薬草とか薬効のある成分を煮だしたものよ。これを密閉容器に詰めとくと長持ちするし、割合を変えれば強度や効能の種類をコントロールできるの』
それをガラス棒でかき混ぜるとルルイエは一旦手を留めた。
『あとは『悪魔の乙女の涙』ね』
「涙・・・」
「突然言われても困るヤツ・・・」
自分を見る二人にルナは困ったように首をかしげるしかなかった。
「とりあえず悪魔の、ってつくんだから変身前提じゃない?」
『そうね、とりあえず変身して頂戴』
「はぁい」
ルナは言われるままに悪魔の形態に変身する。背中から伸びた蜘蛛の足、八つになった目、そして口から伸びる牙。威容を湛えた姿で背を丸める。
「天井が近い・・・」
「地下室だもんね」
腰を曲げて顔の高さを二人に会わせるとティナがルナの頬をもちもちし始める。
「うゆゆーん」
「涙ねぇ、どうやったらでるんだろ・・・あ、そうだ」
ティナは指先に雷の魔力を纏わせてルナの鼻をつまんだ。
「ミ”ッ!」
「お、ちょっと潤んだ」
「ひどい・・・うう、鼻が痛い・・・」
鼻がつーんとした感覚に襲われてルナは目をぐしぐしとしている。しかしルナの目から涙が出ることはなかった。
『鼻に刺激を与えるのはさすがに乱暴すぎない?』
「でもこれくらいしか・・・ディーンせんせーだとそういう薬品とか粉薬とかもってそうだけど」
ルルイエは困った。基本的においそれと泣かないのが悪魔だ。笑ったり喜んだり、または怒ったりはするが泣くことが少ない。
『悪魔にはいつだって笑顔か怒り顔が似合う存在だからねぇ・・・』
「えっと、じゃあさルルイエ先生。私とルナちゃんの感情をリンクさせることってできる?」
『感情をリンク?貴女が感じたことを彼女に感じさせるってこと?』
「うん、それなら手っ取り早くできるかも」
ちょっと辛いかもだけど。とティナは言う。ルルイエは少し考えたがあまり乱暴な事はしたくないのでティナの提案に従うことに。
『わかったわ、ちょっとやってみるわね』
魔法陣を二人の足元に描き、それをわずかに重なり合うようにして書き上げる。そして二人に手を繋ぐように告げた。
「こうして、私がイメージすればルナちゃんに伝わるんだね」
『そうよ』
「よーし、それじゃあ・・・いくよ」
二人が互いに見つめ合って、少しすると互いの瞳が潤み始めるとやがてルナとティナの目からぽろぽろと涙がこぼれ始めた。
「「や、やだぁ!」」
抱き合っておいおい泣き出した二人にルルイエは驚いたがルナの瞳から零れる涙をすくって少しずつ集め始める。
(一体何をイメージしたのかしら・・・)
ひぃーん、と涙を流す二人。やがて涙が十分に集まったのを確認すると二人の肩を抱いて慰めてあげることに。
『効果てきめんね、何を思ったの?』
「「私達が友達じゃ無くなること・・・」」
それを聞いてルルイエは微笑ましくなるやら、随分と体を張ったものだと呆れるやらであった。
二人は絶対に来てほしくない悲劇を想像して悲しむと同時に、お互いに同じことに涙できる幸運に泣き笑った。




