暗躍!ガスタンの策謀!その6
マルティナは完全にパニックになっていたがエトナ―が宥めると徐々に落ち着きを見せ始める。
「それで、ルナちゃんはどこに行った?」
「それが・・・連れ去られてしまって・・・」
エトナ―はギョッとして声を上げようとしたアダムを制して、穏やかな調子を維持して再度尋ねた。
「相手は誰かわかるか?」
「魔法局の・・・ガスタンという男です」
アダムはそれを聞いて声を上げず、顔を背けた。きっと自分の表情は恐ろしい顔をしているだろうからだ。
「行先に心当たりはあるか?」
「わかりません・・・ですが」
「ですが・・・?」
「祭具を持っていけばどうにかなるとおもいます」
「封印を解くのに使う奴か」
エトナ―が目線をやるとそこには儀式用の短剣と紋章が刻まれた金属のシンボルがある。
「アダム、その短剣と板っきれを持ってけ。それがあればあの子を助けられる」
「そうなのか?」
「封印は聖職者かその手の道具がないと解けない。アイツらが馬鹿なことをしでかすとしても解除には手間取るだろうさ。封魔のペンダントもつけてるから邪な奴らではそうそう触れる事すらできないはずだ」
「あとは場所か・・・」
三人はそこで手詰まりであることに気付きどうしたものかと考える。ガスタンという男が少女をどこに連れていくというのか?なんのために?
碌な事ではないだろう。それだけはわかる、しかしその方法がわからない。彼女を人質にでもするつもりなのか?
それとも・・・。
そう思っていた矢先、一人の老人が顔を出した。
「申し訳ない、ルナ・フラウステッドさんはこちらにおりませんか?」
三人はそちらに顔を向ける。すると老人は三人が無言なのを疑われていると思ったのか身分証を見せながらいった。
「私は魔法局に勤めるリッキー・アルムンドと申します。こちらにルナ・フラウステッドさんが来ていないかと同僚から連絡が来たのでこうして探しているのですが・・・」
アダムは既にかなりの時間が経っていること気付いてしまった、と思った。このような大事に両親への連絡を怠っていたのだ。彼女を危険な目に遭わせまいと行動していたが不審者が現れて以降の肝心の両親への連絡が遅れてしまっていた。
「それが、私の注意不足でした・・・どうにもトラブルに巻き込まれたようで連絡が遅れてしまい申し訳ありません」
「なんですと!」
アルムンドと名乗った老人は目を見開いて驚いている。当然だろう。心配になって探しに来てみればトラブルに巻き込まれたと聞けば驚いて当然だ。アダムは彼がルナの両親の連絡を受けて動いていることを信じて情報を集めることにした。
「重ねての失礼を承知でお伺いしたいことがありますがよろしいですかな?」
「あなたは・・・?」
「魔法学校の教師でルナ・フラウステッドさんの担任になるアダム・ディーンといいます。実は我々も約束の時刻になってもやってこない彼女を心配して探していたんです」
「なるほど、それででしたか。連絡がつながらないと私の同僚も不思議がっていたんですよ」
アルムンドも彼らがルナを探してくれていると聞いてほっとするやら、しかしそれはそれで大変なことだとすぐに頭を切り替えて彼らに話を聞く体勢に入った。
「しかし彼女がトラブルに巻き込まれたというのは・・・?」
「そこなんです、それが・・・魔法局の方とお伺いしましたが・・・」
「魔法局というのがなにか?」
「連れ去った人物も魔法局の人間の可能性が高いのです」
アルムンドは少し驚いた風だったが、すぐに表情を険しくしてずいと詰め寄った。
「それは確かですか・・・」
「ええ、確証とまではいきませんがそこのお嬢さんがある人物に騙されてルナさんを連れ去られたと」
「・・・」
アルムンドはアダムの言葉を受けて少し考え込んだ。そして、彼の脳裏にはある人物が浮かぶ。
固定観念やこうであったらいいというような願望を捨ててかかるべきだとわかっていても分かち難い人物。
「ガスタン・・・」
「お知り合いですか?」
「同僚ですがね・・・一応は」
アダムはアルムンドの言葉と態度に少しだけ安堵した。どうやら彼は件の悪党の仲間ではないらしい。
表情に出た情報だけでも彼が問題のある人物であることも。
(あの占い師・・・セリオとかいったな。ヤツをけしかけてきたのもヤツか?だとすると筋は通るな)
問題は目的である。占い師の持ち物から魔力の質や量を調べる魔道具が発見されていたし、なんならその道具とマルティナのところに仕事を依頼したのも彼女の魔力の質やらを調べるためだといっていた。
コロンから聞いた状況によるとガスタンの部下はルナが試験に通ったことを不思議がっていたそうだ。
(彼女になにかしらの秘密があって、それを暴こうとしているのか?)
アダムはチラッとエトナ―を見る。エトナーはマルティナを気遣いながらもアダムに目配せをする。
(彼女の体には確かに秘密がある)
(マジかよ・・・)
何故エトナーが知っているのか、そこらへんは謎だったがアダムの経験上エトナーが絡むのは宗教かもしくは・・・
(悪魔関係・・・あのお嬢さんがひっくり返ったってことは悪魔関係でほぼ間違いなさそうだ)
そうなると彼女の問題はとんでもなくめんどくさい。悪魔関係の若い人材となれば拐ってしまう理由に十分成りうるのだ。器量も良い彼女の身柄にはかなりの値段がつくだろう。
そうでなくとも魔法局の関係者ともなればその手続きなどの関係からいくらでも彼女に難癖をつけられるだろう。
彼女の秘密を暴かれても大変だろうし、それを悪用されるのも不味すぎる。
最悪のパターンが多岐に渡っていてアダムは眩暈がする思いだった。