聖人という立場 その2
こんな困った事を持ち込んだ理由をマウンティニアは考える。
「何故そんな子を貴女は任されたのです?」
「正直、捻くれたクソガキなら私も対処が楽だったんだ」
大悪魔の存在を楽と言い切るその胆力にはマウンティニアも恐れ入った。しかしながら事実である。かつて地上に召喚された次席の位階を持つ大悪魔アモンをその場で魔界に叩き返した逸話は彼の記憶に新しい。
「だがあの子、才能と魂の綺麗さから言えば聖職者になってくれれば大成できるくらい特殊」
「悪魔なのにですか」
「ルルイエのバカがあの子をとにかく綺麗なまま残したかったんだろうよ。悪魔は皆純粋な好意や善意に激甘だ。お陰様であの子は悪魔たらしの才能まである」
「悪魔としても異端というわけですか」
「今は子供だが、ホントに・・・もっと早く知り合えてたらなぁ」
エトナーが腕を組んでうーん、と唸った。エトナーはどちらかと言うと才能よりも練習量に重きを置くタイプで、天性だとか、才能だとかを評価する事は少ない。
そんな彼女が惜しむのだからその少女はそれなりの才能があるのだとマウンティニアは思った。
「あの子をみすみす魔法使いとして大成させちまうとそのまま悪魔の御用聞きになっちまう。そしてウチらは才能ある聖職者の卵を一人失うわけだ」
「お言葉ではありますが仕方ないのでは?」
「バカ!仕方ないで済まされてたまるか!」
ダン!と床を踏みならした。マウンティニアが目を丸くしているのを他所にエトナーは言う。
「日光教徒の癖に精霊信仰や土着信仰に理解の無いやつの如何に多いことか!どいつもこいつも教会のことしか知らない頭でっかちばかりだからだ!」
日光教はあらゆる宗教の守護者なのに!とエトナーは憤慨しながら続ける。
「現状を打破するにはあの子みたいに魔法畑の子が良いんだ。素直だし、才能あるし、可愛いし!精霊や土地神にも抵抗がないし!」
「可愛いの必要ですか?」
「必要にきまってんだろ!」
くわっ!と目を見開いて断言されたのでマウンティニアもさすがにたじろいだ。しかしながらエトナーの言う事も分かる。
日光教徒の中には悲しい事に自分達が宗教の頂点であると言う傲りがあり、調停が仕事の一つにも関わらず問題を起こす者も少なくない。もしくは知識の少なさからくる偏見など。
「欲しいのは広い世界を知る準備ができた子なんだ。頭でっかちの、経典を暗記してるだけのジジイや金に煩い業突く張りじゃ日光教を引っ張っていくことはできやしない。精霊も、土着の神様もなんでもかんでも私ありきじゃ困るんだよ」
エトナ―は世界を放浪した経験がある。そしてその都度面倒事があればそれを解決してきた。エルフの長老よりも長生きで、ドワーフより頑丈で、数多の戦士より強く恐れをしらない。
その目には長きに渡って色んな歴史を見てきたが故にどの国も、どの王もエトナ―には敬意を抱く。
彼女が立ちはだかれば大悪魔も、軍さえも彼女を無視できない。朽ちず、倒れず、曲がらず。彼女はいつだって厳然とそこに立つ。
「日光教には新しい風が必要だ、歴史を変えて・・・もっと、より良い形に変えていってくれるような」
「聖人様・・・」
「そんな奴を増やして・・・私はいつか、一人の・・・なんてことない聖職者に戻りたいんだよ」
できやしないことかもしれないが。とどこか諦めたような呟きにマウンティニアは項垂れた。
情けない、この年齢になってもまだ自分は目の前の女性に縋りついていた。彼女が特別であることが自身の怠慢であるような気さえしてくる。
「あの子をどうにかしてウチの傘下に居させたい。あの子はきっといい刺激になる」
「それでは具体的にどうしたら?」
「私の職務にあの子を同行させる。世界を見て、いろんなヤツと交流して、日光教の良さと仕事を教えるんだ」
そうすればあの子は自然と日光教と深くつながるさ。とエトナ―は言う。
「ウチとのかかわりが深まれば深まるほど悪魔どももあの子には手を出せなくなる。皮肉なことかもしれんがルルイエの望むことにはそれも重要なんだ」
「あの魔神の望みに?」
「ああ、アイツはその子に綺麗なまま私達と同じになって欲しいんだ。友達が欲しいんだよ」
笑っちまうよな。とエトナ―は礼拝堂の長椅子に座り、天を仰いだ。魔神ルルイエ、人でも、悪魔でも、精霊でもない孤独な存在。それ故に彼女は誰かと関わることが大好きだ。しかし彼女の力は誰も彼もをむしばんでいく。
その力に耐えうる存在を見つけた彼女は今度は自分と対等の存在に育てようとし始めた。
ルナ・フラウステッド
どこにでもいるような平凡な少女だと思われていた彼女がルルイエに見出された時、歯車がかみ合ったように動き出したのだ。そして運命に導かれるように彼女は悪魔の力を得て、聖人と出会った。
二つの大きな、異なる勢力の重鎮に出会った彼女はそれぞれの弟子となった。その事がまるで当然だったかのように。
「偶然かどうかを気にする段階は過ぎた。あの子とのかかわりあいはもう運命だ」
エトナ―はそう、きっぱりと言った。




