警告!
ルルイエはそれから三日を掛けてサピスキアそっくりの人形を作った。そしてそのまま国境ぞいにある港を訪ねた。
「時間通りだな」
「ええ、自分で指定しましたんで」
支配人に姿を変えて港にやってくるとレストランで出会った貿易商の男が船の傍に立っていた。
「こちらでよろしいですかな?」
「・・・確認しろ」
貿易商が指示を出すと以前始祖のエルフの特徴を知っているらしい人物が布を被せられた檻の中で眠るサピスキアの姿を見て頷いた。
「本物です」
「見た事があるような口ぶりですな」
「ああ、エルフと同様の技術でね。エルフの頭を何人か開いたらその仕組みを理解できた」
「素晴らしい、そうなると他者には教えられませんな」
「教えたところで私以外に理解も真似もできるとも思えないからいうんですよ」
ルルイエはなぜこの一団がサピスキアの存在を知ったのか、その理由を知って不快感をギリギリで内側に押し留めた。命を弄ぶことはルルイエもしている。それ故に狂気に満ちた行動そのものは彼女もそこまで不快に思っていなかったが・・・。
(賢者気取りか?頭を開いただと・・・殺さないと知れない程度の知識の癖に・・・)
まるで神秘を解き明かしたと言わんばかりの発言と態度が魔法使いとして、魔神としての彼女の逆鱗に触れてしまったのだ。
「当代限りになりかねませんな」
「残念ながらそうなりますかね」
まさか魔界でも恐れられる魔神の怒りに触れているとは夢にも思うまい。人形が船に運びこまれていくのを見送りながら貿易商とその男とルルイエは話を続けていた。
「それではお約束の報酬の件ですが・・・」
「ああ、そうだったな」
そう言うと貿易商の男は手を挙げると怪しげな連中がルルイエの周囲を取り囲んだ。
「これは?」
「報酬を受け取ると良い」
一斉に刃物を抜くとルルイエに一斉に突き立てる。
「ふぅむ、ふむふむ・・・」
連中が体重を乗せてそれを刺しこむとルルイエはさして動じた様子もなく指を立ててくるりと回した。
「なに・・・ぐぶっ!」
「!・・・がっ!」
「あぐぐ・・ごえっ!」
ぐにゃり、と空間が歪むと突き立てたはずの刃物がUターンして、まるで錯覚でも見ているかのように歪んで持ち主の喉を貫いた。全員が血泡を吹いて倒れるとルルイエは姿を元に戻して貿易商と男に視線を向けた。
『御機嫌よう、ゴミども』
「悪魔・・・?」
『一応、そのカテゴライズで良いわ。手に負えない存在という分には変わらないもの』
影がぎょろぎょろと動いて目を出現させる。そうやって周囲を探ると仕事を終えたからか手を繋いで走り去っていくイースとリディアの姿が見えた。
『いい子たちね、後はこのゴミを掃除したらお終い・・・』
「悪魔が何故エルフを助ける?お前らになんのメリットもないはずだ」
貿易商は随分と胆が据わっているらしい。ルルイエに臆することなく問いを投げてきた。
『うーん、お前はメッセンジャーだから死んだら面倒ね・・・とりあえずお前』
「え・・・、自分ですか?」
『お前、いらない』
すいっと手を横に振ると男は血煙になって消滅した。
『信仰心のかけらもないな、まあ人の頭開いて神秘を覗こうとするヤツはそんなもんか』
「今のは・・・一体!」
『流石にびっくりした感じ?ふふふ』
空間を歪めて貿易商の目の前に移動したルルイエはさすがに焦り始めた様子を見せた彼に指を向けた。
『カーテル国、始祖のエルフに関わるのは辞めろ。人同士のじゃれ合いくらい自分達でやれ』
「・・・わ、わかった」
『よろしい、では支払いを怠った罰を与える』
ルルイエは手を船に向けて開いた手をギュッと閉じた。
「な、なにを・・・」
貿易商が言いかけた刹那に船はまるで圧縮されたように小さくなっていき消滅した。
人形を起点に魔法が発動するように設定されており、ルルイエからの魔力の供給を受けて作動した形だ。
「ふ、船が・・・!」
『これに懲りたらもう私達に関わるな。目障りだから』
呆然と立ち尽くす貿易商を他所に。ルルイエはその場から姿を消した。
『あー、会いたかった!ルナちゃぁーん!』
「わぶっ!」
その足でルルイエはルナの元にやってくると開口一番にそう叫びながらルナに抱き着いた。
「先生、突然ですね」
『うーん、後始末が多くて時間がかかっちゃった』
ルナの居場所を目安に飛んできたので全く事情など考えていなかったが今は夕方。下校中のルナに突然現れたルルイエが抱き着いた形だ。
「後始末というと?」
『あのエルフを攫ってきたヤツとは別口に悪い奴がいたからやっつけたのよ』
ルナに頬を寄せながらルルイエは言う。とても先ほど数人の人間を殺してきたとは思えない。
しかしてそれがルルイエである。彼女は超常の存在、気まぐれで、恐ろしく、身内にのみ優しい。




