堂々とこっそり脱出
アダムは台車を押して進む。しかしいくら屋内といってもサピスキアは思った以上に重かった。
「ぐ、くそ、お前何キロあるんだ・・・」
「はかったこと、ない」
「だろうな!」
ゴロゴロと台車を押していく最中もアダムはうんうんと唸りながら進んでいく。
「どこへ行くんだ?」
「見てりゃわかるだろ、荷物の運搬さ・・・ぐっ、くそ重てぇ・・・」
通り過ぎる最中もアダムは何食わぬ顔で見張りや職員とすれ違っていく。辛そうではあったが皆手伝うほど親切ではなかったのが幸いして順調に倉庫から会場を抜けていく。
「よし、会場の外まできたぞ・・・」
「もうでて、いいか?」
「まだだ、もう少し待て」
サピスキアはどうあがいても目立つ。目立たない方がおかしい。アダムはこの時にエトナ―に声を掛けていなかったことを後悔した。
(人身売買の会場にあの二人を呼ぶからとあの酔いどれに声を掛けなかったのは不味かったか・・・)
当然ながら門番の数は一番多い。侵入者を防ぐのと同時に協会や魔法局などの公的機関の来訪を察知するためである。彼らの目を完全に欺こうと思えばそれなりの距離を稼いで表通りに出なければならない。
どうしたものかと考えているとそこにルルイエに信者たちが目についた。崇める主人の召喚に成功した彼らはその喜びを皆で語り合っている。そんな彼らは儀式の道具を運ぶための荷車なども持っている。変装に使える外套などもだ。
「仕方ないか・・・」
アダムは台車を押して信者たちに近づいた。
「・・・なにか?」
台車を押して近づいたところ信者たちが一斉にアダムを見た。狂信者特有の異物を見るようなまなざしにアダムは少し顔をしかめた。
「狂気の代弁者に幸あれ」
「「「「幸あれ」」」」
「混沌の化身に安寧あれ」
「「「「安寧あれ」」」」
しかし彼もルルイエと伊達に交流があるわけではない。こういった時に咄嗟に彼らの協力を得られるだけの情報を持っている。
「失礼しました、会場の粗野な連中と同じかと」
「いえ、仕方ない事です。連中に紛れて仕事をしていたので」
狂信者のリーダー格の男性が頭を下げた。それにアダムも倣う。
「失礼ですがこの荷は?」
「奴らに囚われていたエルフです、この御仁を逃がすのが私の仕事で」
「そうでしたか、それではこの荷車をお使いください。護衛もつけましょう」
男性が指示を出すと信者が歩み出して荷車を貸し出してくれた。そしてアダムがそれを引いて歩くと四人の信者が四隅に連れだって歩いてくれる。
「我らが主に幸あれ」
「幸あれ」
台車から荷車に変わったことでかなり楽になった。さらに四隅の信者が魔法で補助してくれているのか思った以上に軽い。
「おい、そこの、止まれ」
「なにか?」
「その荷物はなんだ?持ちだすものはチェックするぞ」
門を抜ける際に当然のように停められた。アダムがどうしたものかと内心考えているとアダムを制して信者が門番とアダムの間に割って入った。
「なにか?」
「何かじゃない、会場から持ち出すものはチェックが必要だ」
「ほほう、それはそれは」
信者はくすくすと笑いながら門番を値踏みするように視線を動かした。不愉快な笑みを受けて門番はムッとした顔をしていたが信者の次の言葉で顔色を変えた。
「我らが主を呼び出すための触媒をご覧になりたいと?我らでも直視は危険なのに」
勇敢ですな、と信者が言うと門番は露骨に嫌そうに顔をゆがめた。悪魔を呼び出す触媒。こう聞くと大抵は碌でもないものを想像する。それも信者ですら直視が危険とされるとなにかの呪物などが該当する。
実際は違うのだが信者がそう言うと説得力があるもの。
「それではめくりますね」
「ま、待て!アンタらが持ってきたものなら構わない!やめてくれ!」
「そうですか、賢明です」
私もまだ死にたくありませんので、とさらっと嘘をつく狂信者の胆の太さにアダムは内心で苦笑いするしかなかった。
『アダムが外に出たわ』
『わかるんです?』
『信者が私に教えてくれたの。エルフも会場を出たわ』
オークションの最中、耳に手を当てるような仕草をするとルルイエが言う。ルナは何故わかるのかと不思議に思ったが信者を経由して情報を得ていると言われて納得した。
『となると後は消化試合ね、貴女は先に戻って頂戴』
『いいんですか?でもそのまま出ると騒ぎになるような・・・』
『大丈夫よ、その為にエトナ―を呼んであるからそのまま裏口から帰っていいわ。呼び止められたら裏口に用事ができたと言えばなんとかなるわ』
アダムに内緒でルルイエはエトナ―を呼んでいたらしい。おそらくはルナを目立たずに回収するためだろう。ルナは頷くとそのまま席を立った。
「どこへ行かれるのですか?」
『裏口に用事ができた、案内してくれる?』
「え、でもまだ商品はありますよ?」
ドアの傍に立っていたボーイに声を掛けると当然ながら途中退席について質問が飛んだ。
『お願いします』
「ひいっ・・・わ、わかりました」
(つら・・・)
何か言われそうだったが笑顔を向けるとボーイは涙目で了承してくれたのでルナは内心傷つきながらも裏口に。




