悪魔来店!
しかしそんな事情など裏社会の悪党には関係ない。彼らにあるのは自身が如何に利益を得るかだけ。
国家の大義や政治など興味はないのである。
「騒がしいな、何があった?」
少し時間が経って、客が入り始めた頃表が騒がしくなり始めた。
「オーナー!あ、あの!」
「どうした、しっかりしろ」
慌てて職員が走ってきたのを見て支配人は職員を宥めつつ状況を尋ねる。
職員はがくがくと膝を震わせながら言葉をどうにか発しようとしていたがその顔には尋常ではない怯えが見て取れた。
「悪魔がやってきたか」
「あ、あぐ、あくまが・・・はい、きました!」
あまりの怯えように支配人は流石に疑問に思った。悪魔とは言ってもそれほど大した者が来るとは思っていなかったのである。
この近辺には大聖堂があり、そこには悪魔の天敵とも言える聖人エトナーがいるのだ。せいぜいが使い走り、下手をすると使い魔くらいだろうと思っていたのだが・・・。
「馬車の発着場で、ま、魔法陣と怪しげな連中がいて、ぎ、儀式を!」
「なにっ?!」
支配人が慌てて馬車の発着場まで行くとまさに魔法陣から大型の馬車が飛び出す所だった。
「な、なんだありゃあ!?」
先ず驚いたのは周囲を渦巻く冷たく重い空気だった。まだまだ暖かい季節にも関わらず冬のような冷たさとまるで鉄火場にいるような重苦しい雰囲気が辺りに漂っている。
これは魔界に漂う瘴気のそれで、人界に吹き込むと猛烈な冷気を呼び起こすのだ。しかもこれは生物が本能的に感じるもので、実際の気温には関係ない。魔法使いなどは自身に巡る魔力でガードできるが支配人達はそのようなことを知る由もない。
『主は来ませり!』
『主は来ませり!』
フードを被った集団が馬車を囲んで歓声を上げた。
支配人はその異様な光景に思わず息を飲んだ。
まさか、こんな奴がくるなんて!
こんな考えが頭を駆け巡る。あの馬車から放たれる威圧感はまさしく、上位の悪魔である。もとより誤魔化す気もなかったが選択肢として他国に売り飛ばすという手は封じられてしまった。
「な、なにがくるんすかね・・・」
「俺が知るか!しかしあれで下級の雑魚がでてくるってことはあるめえよ」
馬車のドアが開くとそこからはタイトドレスに身を包んだ美女が降りてきた。それを見て早くも男たちが鼻の下を伸ばしている。しかしその後で馬車から伸びてきた大きな手と背中から伸びる蜘蛛の足、そしてヴェールで顔を隠した恐らくはこの馬車の持ち主らしき悪魔が現れたことでまた周囲の空気は冷え切った。
「人の特徴を残した大型の悪魔・・・」
「上級悪魔なんじゃないのか・・・?」
会場に到着していた客は口口にそうつぶやいた。
上級悪魔
その言葉で周囲は騒めき、そしてそののちに硬直した。彼らの対処はもはや普通の人間には無理だ。
魔法使いか、聖職者でなければ。それもどちらも高位のものでなければならない。階位ではなく、実力で高位に上り詰めた悪魔祓い、神秘と契約しそれを操るエレメンタラー。二つ名を持つもの。それらがあって撃退が叶う存在。
『オークション会場ってここでいいんです?』
『ええ、そのはずよ』
美女の後ろで真っ直ぐ立つとその大きさが際立つ。倍近い身長の悪魔は美女と親し気に話ながら馬車を降りて会場に向かって歩き始める。こうなってくると先ほどまで魅力的に映っていた美女の方も怪しくなってくる。
「彼女はサモナーなのか?」
「どうなんだろう、もし彼女も悪魔だったら・・・」
悪魔が二体、揃って会場にやってきたことになる。物見遊山に来るにはあまりにも物騒すぎるメンツである。
しかし来てしまった以上は招き入れるしかない。もしも怒らせたらなどと考えただけで恐ろしい。
玄関口に立っていた見張りは冷や汗をかきながらドアを開ける。
『こんにちわ』
「ひ、は、はひぃ!」
ドアを潜る際に悪魔が見張りに挨拶を投げた。その際にヴェール越しに八つの目が見張りを見据えた。
顔は隠れているはずなのに眼光が鋭く光り、まるで目だけを映し出すモニターのようにはっきりと見える。
敵意がなくともその威圧感は尋常ではない。
「お、おい大丈夫か」
「・・・」
「可哀想に、あの悪魔は魔眼でも持っているのか・・・?」
滝のように汗をかいて硬直している見張りに駆け寄った同僚が肩を叩いたが魂が抜けたようになっていた。
気絶しただけだったが魔法の素養のないものにとっては悪魔と目を合わせるだけでも相当な精神力を必要とするらしい。
『なんかすごく失礼なことを言われているような・・・』
『仕方ないわよ、魔法使いでもない者が悪魔を直視して無事でいられるわけないもの』
ルルイエはあえて言わなかったがルナの悪魔としての位階は最上位の大悪魔グレーターデーモンなのである。
小心者やまったく免疫のないものなら目を見ただけで失神してしまう。
見張りの男は度胸こそ人並みにあったが魔法の素養が全くなかったためにルナと自分の圧倒的な魂の格差に耐えきれず失神してしまったのだ。




