会場へ
翌日、三人は簡単に役割を決めて会場へ向かうことに。
「ワシは潜入してエルフの事を探ってみる」
『私とルナちゃんで楽しく騒いで人目を引く』
「たくさん買い物します!」
そして次に準備の確認。
「資金は良いがどうやってそっちは会場入りするんだ?」
『馬車を使うわ。お誂えのがあるからそれで』
「私も乗るんですか?」
ルナの問いかけにルルイエは笑顔で頷いた。以前はルルイエを乗せて走る輓獣が居ないからとかなりの時間待つ羽目になったが。
『魔法陣から強引に移動するからあっという間よ』
「そうなんですね」
そこは彼女も流石に対策済みらしい。そしてその前に、とルルイエはカードを取り出してスラスラと何かを書いて開いた空間に落とし込んだ。
「何を?」
『会場に私達が行けるように準備するよう伝えたの』
「信者を使ったのか」
アダムが言うとルルイエはふふん、と自慢げにふんぞり返った。
悪魔も神や精霊達と同じようにそれを信仰するものがいる。
その信者の数は悪魔の魅力や甲斐性と言っても過言ではないので手足になって動く者は悪魔の権威を示す財産とも言える。
「先生、すごいです!」
『そうでしょう、そうでしょう』
ルナが肯定するとルルイエはさらに自慢げだ。
「それじゃあ会場で落ち合おう、合言葉は?」
『月の導きです、と答えるわ』
「では蜘蛛の糸のような、と言おう」
二人がそう言って頷きあうとアダムはそのまま踵を返した。
『それじゃあ私達はおめかししましょう』
「おめかしですか」
ルルイエに連れられるままルナもその場から姿を消した。
「おい、今日の客入りはなんだ?」
場所は変わってオークションの会場。以前使われていたホテルの跡地にほど近い場所で開かれている。あまりにも大胆なやり方だがそれが可能なほどには此処は公権の及びにくい場所であった。
「なんだ、とは?」
「やけに多くないか?」
「あぁ、あれのせいだ」
見張りが馬車の停車場を指さすとそこに怪しげな雰囲気の一団がなにやら集まっている。
不思議そうにしている見張りは自分より年嵩の見張りに対処するべきかを問うた。
「あの怪しげなのはなんだ、あんまり目立つとやりにくくなるだろ?追っ払うべきじゃないのか?」
「よせ、あれはヤバい」
「ヤバい?」
フードを目深く被った集団が何やら等間隔で並んでぶつぶつと呟いている。その呟きは人が聞き取れない言語で構成されており、彼らが信仰するものの異質さを物語っている。
「邪神か、悪魔信仰の類だろう。主人を呼ぶためにああやって儀式をしているんだ」
「悪魔が来るのか・・・?」
「恐らくな、奴らは好奇心が強いからな。なにかお目当ての品があるんだろうさ」
年嵩の見張りは気にした様子もない。というより努めて気にしないようにしているようだ。その様子を察した見張りはその異質な集団を気にしながらも会場の玄関口の前から動かないようにすることにした。
「オークションに悪魔が来るならこっちとしても箔がつくから放って置いた方がいい」
どうせ止めようとしたって止められないだろうしな。と見張りの一人が言う。
悪魔や邪神の信仰者は呪いや魔法に長けるだけでなく場合によっては薬物などで恐怖心の麻痺や筋力の増強などを行っていることがあるのでそこいらのごろつきがどうにかできる相手ではない。
それ以上にどうにかしてしまった方が問題だ。もしも彼らが直々に悪魔の指示を受けて行動していた場合、妨害行動は即悪魔を敵に回すことになるからである。
「悪魔が来店か、今日は儲かるだろうな」
オークション会場の控室では持ち寄られた物品を運ぶ労働者と指示を出す職員、それを眺めながら皮算用をしている支配人がいた。隣に立つ部下が支配人の上機嫌とは裏腹に不安そうにしていた。
「しかしオーナー、悪魔が来るとなるとやはりアレを出品しなければならなくなるのでは?」
「アレか、まあ確かにそうなるかもな」
「アレは隣国の人間が欲しがっていると聞いております。リストから消しておくべきでは?」
「馬鹿か、俺たちはまだ銅貨一枚ももらってないんだ。奴らの言葉なんぞ知るか」
支配人は鼻を鳴らすと出品リストに目を通した。
砂漠の遺跡から発掘された巨大な宝石『アンジラビアの涙』、天空を駆ける龍の鱗、アラクネ糸100%のマント、
天魔戦争時代に製作されたアダマン製の杯、『小さな鍵』の写本の贋作、聖人が作った聖遺物『天使の経典』の1ページなど豪華な内容で値がどれだけつくかわからない。
その豪華な顔ぶれに華を添えるのが一見はただの人面鳥、ハーピーの亜種かと思われる存在。
「エルフって聞かなかったら二束三文で売り飛ばすところだったが・・・とんだ拾い物をしたもんだぜ」
泥だらけの石ころを拾い上げたらそれが実はピカピカの宝石だったくらいの幸運である。
エルフが完全に人外の特徴を示す、それはそのエルフが特異な存在であるからに他ならない。
「悪魔が欲しがるのはおそらくこのエルフの事だろう、きっと高い値段がつくぞ」
その特異なエルフは今まで全てのエルフが見聞きした情報や記憶を有する存在とされている。
それは即ち、他国の情報や状況なども筒抜けになるということ。国が欲しがるのは当然である。




