エルフたち
嘆いてはみたものの、アダムとて裏の世界を歩いてきた経験がある。今でこそこういった光の当たる場所で生活しているが世界の闇に相当するものはたくさん見てきたのだ。
日光教の尽力により人種間の大まかな価値観の統一、宗教間の対立の緩和など輝かしい功績の陰でこうした闇は未だに残っている。政治や種族対立の名残であったりと理由は様々だが・・・。
「攫われたエルフについての特徴はわかったのか?」
「腹が痛くならなかったらもっと調べられたが、まあ、ある程度はわかってる」
特徴が特徴なだけにな。と男は言う。
「特徴?」
そう聞いてアダムは嫌な予感がした。エルフは種族としては人間とは違う。しかしそれば体の感覚や寿命、価値観などによる違いで、見た目に関してはそれほどとびぬけた違いはない。
ドワーフのように小柄で筋骨隆々あるとか、獣人のように獣の特徴を強く表しているだとか、見た目だけの違いならば人族と違うものはもっと多くいる。
エルフは環境によって短時間で体に変化が現れる特殊性を持っているが、それ故に短時間で現地の環境と種族に馴染んでいく。最後に残るのは長く尖った耳だけで、それも環境によっては無くなっていく。
『世界に最も多いのはエルフであり、最も少ないのもエルフである』
純血のエルフはそれ故に森に暮らしている一部の者達だけとされている。彼らは白い透き通った肌に金髪、宝石をはめ込んだような煌めく瞳、美しさを持っている。それ故に時折一部の財と暇を持て余した馬鹿によって売買の標的にされたりもする。
しかしである。それも言ってしまえば『特徴』としては弱い。
『美しい』だとか、『綺麗』だというのは酷い言い方かもしれないが売り物としては当然の内容でもある。
そんな中で少し調べて分かる特徴、そしてエルフという二つの情報がアダムの中で嫌な予感としてパズルのように組みあがっていく。
「どうにも人面鳥みたいなヤツらしい」
「そうか」
短く答えたアダムだったが内心では頭を抱えて叫びたい状況だった。
エルフに獣人と似た特徴を持つ者は多い。環境に適応してコボルトのような犬型の特徴を持ったり、リザードマンのように体に鱗を備えるようになったり、ダークエルフとされる洞窟に住んで灰色の肌に赤い瞳を持つ者。
しかし鳥型の獣人に適応したものはいない。それは何故か?
もう『いる』からである。
理由こそ定かではないがエルフの種族の特殊性の中に『情報の共有』ができるというものがある。
月の夜に祈り、交信することで記憶を共有できるという唯一無二の特性がエルフを特殊な種族足らしめている理由だ。ぶっちゃけ長命だとか美しいだとか魔法がどうこうなどは別段珍しくもない。
ドワーフだって長生きだし、どの地方にも探せばシャーマンが居て自然と会話していることもあるし、獣人やリザードマンにだって魔法とその感覚に長けた者はいる。
(そのせいでワシ、知らないエルフにすら名前を・・・)
破獄のディーン、もしくはアダム。
アダムは公私の区別なく人身売買の被害に遭った人物の救出や売買を斡旋する悪党の抹殺などを手掛けてきた。
戦場で敵兵に紛れて指揮官を暗殺すらできてしまう凄腕の彼に掛かれば暗殺や潜入など造作もないことだった。
それ故に彼は被害者にとっては最後の希望であり、悪党にとっては恐怖の象徴だった。
それがエルフたちによって同族に瞬く間に伝播した。それに加えて仕事で彼らを助け続けた為、余計にそれが事実としてネットワークで広まり手に負えなくなってしまった。
「それがエルフだとどうしてわかった?」
「本人の言葉だそうだ」
ばらすなよ!とアダムは叫びたくなった。エルフの最も大切かつ特殊な個体。それが件の人面鳥タイプのエルフである。そのエルフこそが全てのエルフが集めた記憶、知識の全てを維持管理する存在であり、全てのエルフの始祖の一族である。
その一族と同等の知識を有しているものは例外エトナ―を除いていない。その中には古代に失われた魔法知識であったり、技術であったり、隠された神秘の在処であったりとその価値を知るものにとって何にも代えがたい存在だ。
(売り手がその事に気付いてなければいいんだが・・・)
下手をするとオークションすら掛けられず闇から闇へと消えてしまうかもしれない。そうなるといくらアダムと言えど探し出すのは不可能だ。そこでアダムは頭を働かせる。
そのエルフをまずはオークションに掛けられるように、会場から外に移動させられないようにしなければならない。
人身売買が違法で、厳重に取り締まられている分かえって価値は高騰しているので会場としても必ず盛り上がるであろうその商品を出品しないわけにはいかないだろう。しかし、もしも別の顧客が既にいたとしたらそれすらも誤魔化してうやむやにする可能性もある。




