エトナ―の杖
エトナ―についていくとキッチンに向かっていくようだ。元はそれなりの人数に食事を提供する目的があったのか一人暮らしのエトナ―が使うには規模が大きい。
「とりあえず茶でも淹れるから飲んどけ、運が良ければ飲んでる間に雨も小ぶりになるだろ」
薪を取り出すと当たり前のように素手で引き裂き始めた。
「斧とかないんですか?そもそも火口とか・・・」
「そんなもんねえよ、火口は・・・切らしてたとおもう」
めんどくせえから探さない。ととんでもないこと言いながら薪をバラバラにして火口にすると火打石で火を起こし始めた。
「ええと、ポットが・・・あったあった」
物が少ないのに雑然としていてエトナ―の性格が良く出ている。私生活についてはルナの知る限りずぼらそのもの。
中を覗き込むと何か入っていたのか窓を開けて逆さに振っている。
「洗ってくださいね?」
「・・・今からそうするとこだ」
そのまま一人用の小型コンロに乗っけようとしたところをすかさずルナに指摘されて面倒くさそうに水で洗い始めた。
「えーと、お茶お茶・・・」
「無いなら白湯でもいいんですけど」
「マジ?ならそうするわ」
ガタつく戸棚を開けてお茶葉を探していたが中から蜘蛛の巣や埃塗れの袋やら調理器具やらが出てくるのでルナは諦めた。エトナ―もそれを幸いと取り繕うことなくメンドクサイと言い放って金属製のカップだけを置いた。
「お茶っつってたけどそういや最近葉っぱなんか買ってなかったわ」
「どれくらいですか?」
「年単位だったかな」
「どのみち飲めませんよ」
「だな!」
ガハハと笑いながらエトナ―は椅子に腰かけた。
「そういやなんか用があったんじゃないのか?」
「ああ、そうでした!」
ルナは最初の目的であった聖職者が使う杖について質問することに。
「実は私も杖を持とうかと」
「ああ、そうだなぁ・・・ルナちゃんは・・・うーん、まあ必要か」
「なんですかその含みのある言い方・・・」
ルナはアダムに釘を刺されたことと同様の事をエトナ―に言われるのかと少し身構えたがエトナ―の続く言葉は意外なものだった。
「しかし何本か必要だろ」
「えっ?」
「持つなら何本か必要だって。だって日光教徒で、月光教徒で、大悪魔でもあるんだからそれぞれに類する杖が必要だろ」
「え、どうしてそんなことに・・・」
「杖はなにも山やら長距離を歩くために地面を突いて歩くためだけのもんじゃない。権威の象徴でもあるからな・・・特に大悪魔の杖っつったら王侯貴族が持つもんに近しいから大変だぞ」
エトナ―曰く、聖職者の杖が無骨なのは巡礼者の杖が一般の聖職者の杖のイメージだからであり、旅に出る際に歩行を補助するもであったり、武器や道を切り開くためのものであるからだそうだ。
教会で祭事を執り行う聖職者はそれに対しちゃんと装飾が施された杖をついているとのこと。
「そういうわけだからルナちゃんが杖を持つ場合、巡礼に使う杖と、祭礼に使う杖と、身分を示す杖と、仕事に使う杖がそれぞれ必要になる」
「仕事用って?」
「悪魔祓いや土地を浄化する時に使う奴だ、祭礼と身分用の奴は一緒くたに最近はされてるが昔は聖職者は四本の杖を持ってた」
杖はどの用途の物も高級品に変わりなく、祭礼と身分用の杖は装飾品として。仕事用の杖と巡礼用の杖はその造りの頑丈さや特殊さから製造は大抵オーダーメイドで、前者は貴金属や宝飾、後者は金属加工や破魔の宝珠などでこだわれば天井知らずに値段が上がっていくものだ。それらを所持し、管理するのであるから要求される財力も相応である。それ故に僧侶は貴族に次ぐ権力者なんて言われるんだよな。とエトナーは言う。
「悪魔の方は詳しくはないが・・・対峙した大悪魔は皆杖を持ってたからな、おそらく必要なんじゃないか?」
「そうだったんだ・・・しらなかった・・・」
「そこらへんはルルイエにでも聞けばいいだろうが、まあ下手におねだりなんかせん方が身のためだ」
「うう、なんとなくわかるのが辛い」
ルルイエやバエルにお願いすれば彼らは喜んで用意してくれるだろう。それにゆくゆくは必要になると彼らも考えているだろうし。しかしながら何かとルナを気に掛けているあの二人にかかるとどのような杖が作られるかわかったものではない。
バエルは魔界の王であるから財力や権力は凄まじいため持ち歩くなんてとんでもないものが作られるかもしれないし、ルルイエに頼むと振るだけで町が消し飛ぶような杖を作られてしまうかもしれない。
「軽い気持ちで持つものではありませんよね・・・」
「そりゃそうだろ」
カップにお湯を注ぐとエトナ―はそれをふーふーしながら飲み始めた。
「手に何も持ってないってのも悪くないが・・・まあ、欲しいなら持ってみるのも悪くない」
「うーん・・・どうなのかな」
「知って手ぶらに戻るのもアリだ、別に持ってなきゃダメってわけでもない。さっきは四本はって言ったが別にルナちゃんは聖職者として別になんの階位も持ってないしな」
平の聖職者が気にするもんでもない。と手を振った。




