ガルドナの実力その2
爆発が起こした風圧にガルドナは背中を押されたようにスライディングの態勢から立ち上がった。
「くっ!」
一度は防ぎ、今回は躱した。しかしその威力は依然として脅威的というよりも圧倒的だ。
さらに言うなら彼女は一言も詠唱をしていないのである。
「魔力を籠めただけの魔法でこれか・・・!」
武器を兼ねた杖を構えてガルドナは反撃を試みる。詠唱をすれば上位の魔法も、そして威力も上がる。
しかしそれを許す相手ではない。ならばこちらも威力を犠牲にしてでも魔力を変換して放つ魔法で対処するしかない。
「火よ!」
一言、これは詠唱というよりも意識を集中するためのもの。杖の先に火球が発生し、それが打球のように打ち出される。
『避けて、反撃・・・当然の動き』
悪魔はガルドナが放った火球を前に悠然と構えたまま右手に再度火球を生成する。
(防ぐか?弾くか?どう出る・・・!)
倒せるとは思わない、しかし目くらましくらいにはなるだろうと予測しての攻撃だったが・・・。
『ふむ、ふむふむ、これくらい・・・』
空いた手でその火球を掴むとそのままそれを自身の手で制御し、右手に生成した火球と並べて二つの魔法を生成してしまった。
「嘘だろ!」
『おさらいその2、頑張って』
二回目、前回はそのまま吹き飛ばされてしまったが今度はそうはいかない。
このために準備もした、あとは伸るか反るかだ。
「おおおっ!」
火球同士が直撃して爆発を起こすのを目測で計算するとガルドナは火球の上に風の魔法で強化した脚力で跳躍すると盾の魔法を展開して足裏に貼り付ける。
「もってくれー!」
爆発と同時に盾が衝撃を受け止め、それを更なる跳躍へとつなげる。衝撃が凄まじくジャンプというより吹き飛ばされたも同然だったがガルドナはほぼ無傷のまま二発目を凌ぎ切った。
『あはっ・・・!』
ただそれが幸運とは言い難い結果をもたらした。対する悪魔の瞳が怪しく光る。
彼女の体を構成する三要素の内、実に二つが捕食者であり、狩人である。その性質は温和なベースルナの性格をもってしても戦闘時の興奮状態はそれを覆い隠すほどに強い。
『キキキキ!』
牙を動かす際に発生する金属音にも似た音がガルドナの体をまるで心臓を射抜いたかのように硬直させた。
強烈な精神汚染にも似た波長をもったその音から護符は自身を焼き尽くすほどの出力で稼働し、持ち主を硬直から回復させる。
『ハアッ!』
八本の腕がまるで羽虫を叩き潰す様に振り回される。ガルドナはそれを飛び上がったり転がったりして躱していく。
掠めた爪が容易く防具に傷をつけ、柱や床に罅を入れていく。
魔法もそうだったがこの一撃も、どれもが必殺の一撃になりうる。しかも八つの腕は蜘蛛の特徴を色濃く帯びるとともに長く伸びて鋭く、硬くなっている。
(服や防具の下に届いたらアウトだ、集中しろ・・・!)
二発目の火球を凌ぎ、目の前の威嚇行動を護符の力で防いでからガルドナはどんどんと集中力を高めていく。
痛いくらいに高鳴る心臓と速まる頭の回転、それと反比例するように彼の世界は徐々にスローモーションになっていく。
「き、きた・・・っ!」
一度目、火球を全力でしのいだ時に感じたあの感触が!集中力が限界を超えて高まったようなあの感覚!
命の危機を前に全エネルギーを燃やし尽くすようなあの感覚が!
(これなら!懐に飛び込める!)
杖は短槍の形をしている。これで反撃を試みるのである。
フェンシブ家の得意戦術は盾の魔法を軸に相手の消耗を狙いつつ接近戦を仕掛けること。
腕は八本ある、しかしその手の動きは洗練されておらず乱雑に自分を追う動きがほとんどだ。
逆に剣や槍を相手に訓練を積んでいるガルドナにとって縦横無尽とはいえ気配の強い大振りの攻撃は一撃必殺の危険こそあれど躱したりいなしたりすることは難しくなかった。
「そこっ!」
足を払うように薙ぎ払う悪魔の腕を飛び上がって躱すと短槍を投擲する。
過たず、真っ直ぐに飛んだ槍は彼女の額を穿つかと思われたが・・・。
『ざんねん』
空中でぴたりと動きを止めた。ガルドナは仰天したが一瞬、線のようなものが光を受けて煌めいたを見て納得した。
(糸!こんな隠し技まであるなんて・・・!)
当然と言えば当然だろう。相手は蜘蛛の特徴を備えている。武器を失ったガルドナは慌てて杖を取り出したが攻撃と同時に悪魔の腕をいなしていた手段の一つを失ったことで窮地に立たされる。
『そろそろ終わりかな・・・?』
振り回していただけの腕に次は糸を繋げた腕がガルドナの動きを制限するように伸びてくる。
一見関係のない適当に突き出しただけの左右の腕は糸が繋がっており、それがガルドナの動きを徐々に阻害していく。時折煌めく糸の軌道を避けていたガルドナだったが服が糸に引っ掛かって体勢を崩した。
たたらを踏んで跳躍できなかった彼の足を粘着質の糸が絡みつき、地面に固定する。
「ッ!」
動きを封じられた彼が最後に見たのは巨大な悪魔の平手だった。




