一方そのころ
水曜日に向けてルナが準備していた頃、ガルドナも同様に準備を進めていた。
「防具は必須だな、護符もあれば・・・」
まるで決戦を挑むような準備になる。実際の戦闘能力を見れば間違いではないのだがガルドナはその準備の段階で躓くことなる。
「こんな装備を何に使うんだ?」
この問いかけに返事をすることができないのである。実際、ならず者の魔法使いを制圧するのに使ってもおかしくない装備なだけにガルドナはその説明をどうしたものかと考える。
(口外できないし、できたとしても悪魔と戦いますなんて言えないよな・・・)
フェンシブ家の邸宅の中でガルドナは自分が扱う事を許される武具を準備しながら思う。
少しずつ運んでアダムに預けるしかないがもし途中で咎められるようなことになれば不揃いな状態で鍛錬に臨むことになる。危険性はもちろん、それだけで悪魔の不興を買うかもしれない。
(あえて防御を捨てるか・・・?)
最小限の防御に留めて、回避に専念しできることなら反撃の機会を作る。
どうせ悪魔の火力の前では自分の魔法など子供遊びに等しい。
前回、死に物狂いでしのいだあの火球、奥義かなにかと一瞬でも思った自分が恥ずかしくなる。
『じゃあ、次は二発ね』
その言葉が響いている。仮に手一つで一発と考えても悪魔には八つの手がある。
最高で八発、しかもそれはあくまで一発しか撃てなかったらという希望的すぎる推測によるもの。
悪魔がそんなわけない。人知を超えた魔法を使うからこその悪魔なのだから。
「それなら杖も・・・戦いに特化したものを選ばなければ・・・」
杖は本来魔力の伝達に優れた木材や石材が選ばれる。しかし戦闘に特化させた場合はそのセオリーからあえて外した耐久性や直接的な武器としての性能を重視したものが選ばれる。
過去には杖というよりも棍棒や中国で言うところの鞭べん、レイピアなどの刺突剣や小型のランスに細工を施したものが杖代わりにされていたこともある。
「短槍がいいか・・・?投擲も視野に入れて・・・」
邸宅にある倉庫に入ってガサゴソと武器と防具を吟味するガルドナ。そんな彼の背中にあまり好まない声が届いた。
「何をしている?」
振り返るとガルドナと同じ髪色の男性が倉庫の入り口に立っていた。
「シドル兄さんか」
「何をしているのかと聞いているのだが?」
些か苛立ちを見せる兄にガルドナは普段通りの無表情で応える。
「・・・ちょっと、鍛錬で使うものを探してるんですよ」
「鍛錬に武器をか?お前にそんなものが必要か?」
ガルドナはまたか、と兄の言葉にうんざりした。シドルは何かと家の事に反発して従わない弟に辟易していた。
反抗期の子供と言えば聞こえはいいかもしれないが保守的でとにかく安牌を選びたがる一族に対してガルドナはいつも反発していたのだ。
学校も本来なら彼にはいく気がなく、勝手に傭兵にでもなると家を出ていこうとしていた彼を兄は苦々しく思っていたのだ。そんな彼を心配して構いたがる両親にも。
「必要です」
「何をしでかすつもりかは知らないが・・・お前、どれだけ家族に心配をかけているかわかっているのか?」
「・・・」
ガルドナも内心では家族が心配していることはわかっていた。だがそれ以上に彼にはこの家が狭苦しくてたまらなかったのだ。その為に犠牲を払う覚悟もしていた。しかしその事を口に出さないだけの分別もあった。
両親の気持ちを無碍に扱うのは流石に気が引けたのだ。そんな煮え切らない自分自身が嫌でもあったが。
「学校で使うから持ってくだけだよ」
「ここにあるのは仕事で使う道具ばかりなんだ、お前には必要ない」
「防御魔法が通じない相手を想定した訓練をしてます」
「お前の魔法だからだろう?極めればいくらでも魔法に耐えられる」
シドルの発言は自負と相伝の魔法に対する自信の表れだった。しかしガルドナはその自信が全く持って見当違いに
なってしまう相手と戦う事を想定しているのである。
「それなら、兄さんの魔法がどれだけのものか・・・見せてくださいよ」
シドルはガルドナのいつになく挑戦的な態度に少し驚いた。傭兵になると家を出ていこうとした際に両親に止められてから無気力に学校に通っていただけの弟がそんなことを言い出すとは。
「いいだろう、実戦形式で俺と戦え、お前が勝てたら好きな物を持っていけばいい」
「忘れないでよ、兄さん」
嬉しそうに邸宅にある修練場に向かうガルドナの顔を見てシドルは溜息をついた。
いっそのこと家から追い出して好きにさせた方がいいのではないか
そんな考えすら浮かんだ。弟は何かと図太い性格をしているから、何か困ってから手を差し伸べてやればいいのではないかと両親に相談しようかとも。
現実を知って傷ついて戻ってきたとしてもそんな弟を職につけてやるだけの地位はあったし、財力もある。
両親は何かと危なっかしいガルドナを心配していたがそれが返って弟の反発を招いているのではとも。




