ハンマーのこと
ルルイエは小鹿のように震えながら立ち上がるとティナの方を恨めしそうに見る。
『び、びっくりした!何をするの!』
「ご、ごめんなさい・・・なんかこのハンマーが囁くから・・・」
ハンマーを見るとまだ少しだけ電気が走っている。ルルイエはそれをみて溜息をついた。
『残留思念が残っていたのね、もっと洗浄しとくべきだったか』
「こ、こわい!」
「何が?」
「だって魂のいちふがもご・・・あみゃーい」
『力作には魂が宿るものだからね』
ティナが何か言おうとしたのをルルイエはすかさず飴を突っ込んで黙らせる。
「先生、そんな・・・」
『ルナちゃん?』
「私も飴欲しいです!」
『ホッ、はいこれ』
「あまーい」
わなわなしていたルナにギョッとしたルルイエだったが飴が欲しいだけだったので安心。
二人が飴をころころしているのでハンマーの声は封殺された。
『まったく、人騒がせなハンマーよね』
(先生に言われるとさすがに色んなところから苦情が出そう・・・)
ルルイエが指で弾くとハンマーは少し振動していたがやがて静かになった。
『インテリジェンスウェポンなんてめんどくさいわ』
「インテリジェンスウェポン?」
『意思を持った武器のことよ、大半は口うるさいだけだけど』
そう言うとルルイエは目を逸らした。
『それよりティナちゃんの体質についてだけど』
「お、私が最強になる前置きが!」
『まぁ、あながち間違いじゃないわね』
「えっ!」
ティナが驚いた顔をする。雷は強い属性。しかしコントロールも難しく、属性に適応する魔法使いの絶対数が少ないのだ。
学生程度ではそれがどれくらいの事なのか分からないのである。
『雷の属性の強さ、その一つは同属性に対する絶対的な耐性ね』
「耐性?」
『当然だけど火の魔法が使えるからって火達磨になっても無傷とは行かないわよね?』
それにティナとルナは頷く。多少耐性はあるが、それは魔力が触れた際の話であり、火そのものに耐性がつくわけではない。風も水も土も同様である。
『けど雷の属性の子は魔法であろうと自然現象であろうと雷や電気を自身のエネルギーに変えられる者がいる』
ティナが雷の魔法を受けて失神しただけで済んだのはそのせいだとルルイエは言う。
『徐々に魔力を取り込むことに慣れていけば雷の魔法を受けたところで失神もしなくなるわ』
「そういえばどうして失神はするの?」
『一度に取り込める許容量を超えて体がショック状態になったのね。例えるなら一度にたくさんのものを飲み込もうとして喉に詰まらせた感じかしら?』
わかったような、わかっていないような表情のティナにルナはちょっと困った。
この表情のティナはまったくわかっていなくても無反応なのである。授業の時間を受け流すためだけのスキルだ。
「ティナちゃん?わからないならわからないってちゃんと言わなきゃだよ?」
「うぃっ?!そ、そんなことないってばさ」
ルナはティナがいつものノリでルルイエの説明を途中から受け流そうとしていたのに気付いて釘を刺した。
『私に教えを受けられるなんて幸運なのよ?』
「なんか難しい話が続くとどうにも頭が・・・」
『魔力のキャパより知識のキャパの方が問題みたいね・・・』
ハンマーをティナから取り上げてピコッ、と頭を叩くとビリビリと電気が走った。
一瞬直立の姿勢になったティナだがすぐに元に戻った。
『やっぱり、適性が今まで出会ったどの子より高いわ』
「びりっときた!」
『これを毎日、できるだけ人がいるところで練習してちょうだい』
「頭を叩くのを?」
『いいえ、これを受けた時に体の芯に魔力が巡る感覚を掴むの。それができたら貴女の魔力の限界値がどんどんと拡張されていくわ』
「なるへそ!ていっ・・・ぎえぴー!」
やりすぎたり、流した魔力が多すぎると前みたいに失神するからね。とルルイエは言おうとしたがティナが再びハンマーの頭を手で叩いた際に近くにいたルナの髪の毛がはねるくらいの電撃が流れてティナは失神した。
『この子・・・おバカなのかしら・・・』
ルルイエの呆れた声をルナは否定できなかった。
「なるほどな、まあ・・・魔法という分野に関してはヤツの方がずいぶんと先輩だからな」
それから気絶したティナを担いで教室に戻るとアダムが居たので魔法陣とティナについての説明をするとアダムは前半は真面目に聞いていたが後半になるにつれて呆れた顔をした。
「魔法陣を使えるようにしてくれたのか、まあ天井については工夫次第でなんとかなるなら問題ないだろう」
「そうですね、でも転移の魔法陣ってあんな空間になってたんですねぇ」
「本来なら魔法陣と魔法陣の間に空間があるレベルの転移術を敷設できる人間は少ないが・・・そこらへんは流石ルルイエというべきなんだろう」
本来の転移の魔法陣は近距離か、もしくはもっと大がかりな陣になるのだという。
「しかしなんだ、ユピトール・・・お前という奴は・・・」
「ティナちゃん・・・」
時折体に電気を走らせながら失神しているティナを見てアダムとルナは遠い目をした。




