懲りない奴
その後、アダムが警戒し始めた事で施設に近づく者は減った。
ガルドナが酷い目にあったこととアダムに叱られた生徒が増えた事で色々な噂は無断で施設に過去に忍び込んだ生徒が先生や用務員に酷く叱られたという事に少しずつ摩り替えられていった。
しかしである。
「あの、ディーン先生」
「・・・なんだ」
当事者はそうは行かない。あれからというものガルドナが度々現れてはアダムに悪魔の所在を尋ねるようになったのだ。ルナにはどうにか諦めるように仕向けていたのだがどうにも折れない。
「悪魔様に会いたいのですが・・・」
「ダメだ、あれは危険すぎる」
「そこをなんとか・・・!」
ガルドナはあの時、業火のような火球を自身の防御魔法で受けきった事で自身の中で大きな変化が現れたと思っている。実際に臨死体験で魔力の量が増えることがあるがガルドナのそれはまた別のベクトルであった。
「何故だ、死ぬかもしれないんだぞ?怖くないのか?」
そのアダムの問いかけにガルドナの瞳が揺れた。そしてアダムはそれに見覚えがあった。
(コイツ、危険の味を知ったな・・・?)
戦場や死と隣合わせの世界を歩いてきたアダムにとってガルドナの変化にはいくつか心当たりがあったのだ。
人の中には危険を冒さずにはいられない性質を持ったものがいるという。
特にガルドナが属するAクラスには良家の子女や令息が多い。その良家には戦場を駆けた騎士や戦士、魔法使いの家系も含まれる。
(嗜好は先祖返りか?確か授業態度悪し、座学成績は中の中、運動能力に長ける騎士タイプ・・・だったな)
ルナが真似した防御魔法から逆算して名前と経歴を調べていたアダムは彼が先祖の血によって危険を顧みない戦士としての素質を開花させつつあることを知った。
こういう手合いは断ったところでどこかに不満を溜めて爆発させることがある、それに比べたら定期的に発散させた方が良いのはそうなのだが・・・。
(問題はフラウステッドの都合だよな・・・)
ガルドナの様子を見るに何時、何度でもバッチコイと言わんばかりの様子である。
そうなると彼女の都合もあって非常に困るのだが。
「そこまで言うなら仕方ない、しかしこれは非常に繊細な情報だ。何かあっても秘密は漏れてはならん」
「それはわかってます・・・というか、やはりあの悪魔は先生が?」
「そこらへんは詳しくは言えん、それだけの事と言う事だ」
まさか人に混ざって普通に暮らしている学生が実は悪魔でした、などと言えるはずもない。
しかも位階は大悪魔で、教会の最高戦力に管理されてて、魔神の教え子で、魔界の王が孫認定してるなんて面倒を重ね掛けしたような存在なのである。
「口外するな、決してな。それがバレると大変な騒ぎになる・・・親にも友達にも言うな。これが守れないなら今すぐ忘れろ。でないと下手をすると命に係わる」
「・・・わ、わかりました!」
ガルドナはアダムの言葉がわかっているのかいないのか。おそらくは悪魔と会える事が叶ったことの方が大きいのだろう。アダムは知る由もないがガルドナは元よりアービル状態のルナから口止めをされている。
口止めに口止めを重ねたところで念を押されただけに過ぎないのも彼の態度に影響していたのだろう。
「それじゃあ時間割を決めよう、足繫く通われては疑われる。どの日がいい?」
この世界にも曜日がちゃんとある。月火水木金土日の一週間である。日曜は日光教の主神が支配する日なので民間は基本的にお休みである。月が隣なのは一般には知られていないが某シスター曰く「月の女神はブラコン」だからとのこと。
「えっと、今んとこ水の曜日が暇なんでそこで・・・」
「わかった、その日に合わせて調整しよう。それと、君は二年生だったな」
「そうですが・・・」
「後輩を気にかけてやってくれ、Fクラスは人数が少ないが決して他のクラスに劣ったりはせん」
アダムはそう言うと、見返りとしては安いものだろう?と笑って肩を叩いた。
ガルドナはアダムがFクラスの担任であったことと、自身にもわずかながら彼らに対する偏見があったことを思い出した。
「上手くできるかはわかりませんが・・・」
「いいさ、そちらもおいおいで」
アダムは笑いながら手を振って旧館へ戻っていった。
「すまん、あれは無理だ。適当に相手してやってくれ」
「えー!」
アダムはキュッとした顔で続ける。
「あれはスリル中毒だ、ほっとくと絶対碌な事にならん。お前さんも適当に合わせて練習しろ、相手は上級生だから勉強できることもあるだろう」
「でも、私があそこに出入りするところとか見られたら・・・」
「それに関してだがルルイエの力を借りよう」
「ルルイエ先生の?」
「ああ、あそこのワシが適当に書いた魔法陣をお前さんの転移術の魔法陣として機能させてもらうんだ」
普段から面倒ばかり起こすんだからたまには役に立ってもらおう。とアダムは言う。




