取引
ガルドナは自身の命を救いつつ願いを叶える千載一遇のチャンスに小躍りしそうだった。
『なにをしてる?』
実際してた。
若干引き気味の悪魔にガルドナは言う。
「お・・・自分に稽古をつけてください!」
『稽古?』
「おれ、強くなりたいです!」
そう言ってガルドナは自身の家に伝わる防御魔法を展開した。タワーシールドのような形状に圧縮し、凝固させることで防ぐだけでなく物理的な力さえ持たせる高等技術である。
「これを極めてみたいんです!」
『つまり、これを私が壊すつもりで攻撃すればいいと?』
「そんな感じです!」
『わかった、魔法は悪魔とそちらで違うものだし・・・教えてと言われたら困ったところだった』
悪魔はそう言うとガルドナと共に部屋の中央へ。
『それではまず小手調べから』
腕を伸ばして指先に魔力を集めていく。
これは魔法使いも共通する予備動作のようなものだが
(ちょ、どれだけ集めるんだ?!)
ガルドナにして見ればまるで最終奥義でも放つかのような魔力が集まっている。
『耐えてみろ』
指先に火球を作り出すとすいっと指を動かしてガルドナに飛ばして来た。
(来た来た来た来た!)
目の前の火球は大きさにしてもガルドナの頭程。大きくはあるが大きさだけならまだ常識の範囲。ただこの火球には普通の人間が数十発は打てるだろう魔力が込められている。
(マトモに受けたら吹き飛ばされる!受け流して、逸らす!)
衝突の瞬間に盾を傾けて斜めに火球の衝撃を逃がす。
それでも盾を介して伝わる重量はまるで牛か何かが自身にその体をぶつけるかのようだ。
「ふっぎぎぎ!!!ぐ、う、おぉぉぉ!」
腕に圧力だけでなく熱が伝わり始め、ガルドナは渾身の力を込めて火球を弾き返した。
「はぁー・・・はぁーっ!」
盾は熱で表面が融解し、制服の袖は焦げていた。
火傷しなかったのは制服の性能の妙と言えよう。魔法を防ぐ防具と同等の素材で作られているのだ。
『おお、面白い!防御魔法、これ面白い!』
魔力が霧散して粒子になって消えた盾を見ながら悪魔は手を叩いて嬉しそうにしている。
悪魔の機嫌が良くなったのでガルドナも肩で息をしつつ頭を下げる。
『じゃあ次は二発で』
ガルドナは死を覚悟した。
「ガルドナ!どうだった・・・っておい!どうしたんだよ!」
休憩時間を過ぎて授業を終えても帰ってこなかったガルドナを心配していた同級生だったが
ガルドナの服がボロボロになっているのを見て驚いた。
「ひどい目にあった・・・」
「え?」
「とにかく、あそこには近づかない方がいい・・・肌のざわつきは間違いじゃなかった」
そう言うとそのまま机に突っ伏して寝てしまった。先生も最初こそ起こそうとしたが彼が授業を抜け出してサボっていたのではなく、自主練をしていたのでは?とかなり好意的な解釈をしたのでそれ以降彼が触れられることはなかった。
その後も幾人かがそこを調べようとしたがそれ以降はアダムの巡回や警報装置に引っ掛かってたどり着ける者はいなかった。
「あぶなかったー!」
「まさか窓が開いてるとはな」
ガルドナが焦げ焦げで帰って行った日、慌てて駆け付けたアダムと二人して溜息をついた。
「けどなんであそこの鍵が開いてたんでしょうか・・・」
「あそこをたまり場にしてたやつがいたんだろう。随分と・・・昔のようだがな」
アダムが倉庫の中を調べると年代物の食べ物が入っていたらしい袋や座布団、寝袋が出てきた。
奥まったところに隠してあったところと、ちょうど階段が作れるようになっているサイズの木箱などアダムの推測を固める証拠がいくつかでてきた。
「でも収穫ありましたよ!防御魔法!」
ルナが見様見真似で使用してみると盾ではなく蝙蝠の羽根を閉じたようなものになった。
「およ?見た目が・・・」
「イメージというより属性の問題だろう。そもそも一族の秘伝だろうしな」
秘伝、と言われてルナはこてんと首を傾げた。通常なら理屈を学び、イメージを掴んで発動する魔法も魔力を五感で察知できるルナにとってはパズルのようなものに過ぎない。組み合わせさえわかればそれがどうやって発動するかわかってしまう。
ただ、彼女の体から発揮される魔法は幾重にもフィルターが掛かっているためオリジナルとは似ても似つかない性質を持つこともある。この場合、ルナの体を構成する物の中で最も魔法に対する防御能力と強靭さをバランスよく備えているのが蝙蝠の羽根であったためそれが魔法として顕現したのだ。
もしもガルドナが使った魔法が物質に対する防御特化だった場合は百足の体の一部が壁のように出てきたはずである。
「できるようになったのは良いがそれもあまり人前で使うなよ?」
「え、どうしてですか?」
「一般の魔法ならともかく一族秘伝の魔法が真似されたなんてバレたら大騒ぎになる。少なくとも一般人においそれと真似できないし、されたくないからこその秘伝だからな」
内緒にしとけ、とアダムに言われてルナはちょっとがっかりした。




