みーつーけーたー
ガルドナがぐるぐると思考を巡らせている中で目の前の景色は彼の予想をさらに覆していく。
『これでよし、小さくまとまるのも難しい・・・』
下半身をメキメキと変形させると足が百足のそれに代わり、蛇のようにとぐろをまいて巨体を天井付近まで持ち上げるとまた元の足へと戻る。変形を繰り返しながら何か試行錯誤を重ねている悪魔を前に冷や汗が止まらない。
悪魔はモチーフになった形態から大きく姿を変えることはできない。それは魂の形に等しいからだ。
人の姿になったりする変身はできるが悪魔の形態を変化させるタイプの変身は彼らの規定に引っ掛かるらしくできないのである。そんな彼らの変身は悪魔曰く服を着替えるのが人型になる変身で、悪魔自身の姿を変えるのは肉体を変形させるのに等しいとのこと。つまり無理だというわけだ。
(変身してる・・・?マジでこの悪魔は・・・)
そんなルールに縛られないのがキメラ型、そして大悪魔の存在である。彼らは悪魔でありながら神としても崇められる。様々な側面が彼らに自身の形状を変える自由を与えている。
(い、一体何が目的・・・ってか呼び出した奴は?!)
ガルドナは魔法陣の中で考え込んでいる悪魔の姿を見つめながら混乱し始めていた。
悪魔が勝手に魔法陣を使って此処に来る事は有り得ない。物理的に不可能なのだ。魔法陣は悪魔にとって世界を跨ぐドアの様なものだがそれを開くにはこちら側の人間がドアを開き、呼びかけて開いた事を教える。そして座標が合った時、初めて召喚の魔法陣は動くのだ。
『ふむ・・・ん?』
いつの間にか汗をかいていたようだった。ポタリと顎を伝った汗が床に落ちた。その微かな音が響いてしまった。
(ヤバい!ヤバい!ヤバい!)
天界との契約で悪魔は基本的に人間を殺す事を禁じられている。
しかしこれには当然ながら抜け穴が無数に存在し、悪魔が人間を殺傷する事件や悲劇は枚挙に暇がない。
なにしろ天界との契約は古い。そして天魔戦争という古代の悲劇を元に交わされたものであるが故に『悪魔の権利』も当然保証されているのだ。
悪魔が人間を殺傷する権利は大まかに
一つ、契約を妨害、悪用、そして失敗した時。
二つ、悪魔の尊厳に関わる危機。
三つ、命の危機、無害な悪魔の殺傷を防ぐ際。
が挙げられる。
そして、恐らく現在のガルドナは下手をすると一つに該当し、そして契約を儀式として重んじる悪魔の中には尊厳を傷つけられたと思う者もいるので二つにも該当する恐れがある。
つまるところ現状の彼は悪魔の気分一つで殺されても文句が言えないのである。
それ以前に悪魔の力をどうこうできるものなどそうそういない。
下級よりの中級悪魔でも普通の学生には手も足もでない。上級ともなると聖職者が天使や精霊を伴って万全の態勢で臨む必要が出てくる。魔法使いはここまでくるとその道の第一人者などでないとそもそも戦うという選択肢がない。
(どうにかしてここから出ないと・・・!)
そう思いながら再び、柱の陰から悪魔の様子を伺うと・・・
「いない・・・?」
思わず呟いてしまった。それもそのはずで魔法陣のど真ん中に鎮座していた悪魔の姿が見えなくなっていたからだ。
「み、見間違いだったのか・・・?」
『なにが?』
心臓を鷲掴みにされたような感覚とともに頭の上から声が降ってきた。恐る恐る見上げると八つの目がこちらを観察するように見ている。
「うっ」
『どこから入ってきた・・・?』
「ま、窓から・・・」
倉庫のほうを指さすと悪魔は蜘蛛の足と百足の下半身をガサガサと動かして倉庫の扉を開けるとそこから開いた窓を見て忌々しそうに牙を見せた。
『ここは旧館だ、誰も来ないはずなのに・・・!』
うーっ!と唸りながら戻ってくると悪魔は金縛りにでもあったように動けないガルドナの所へ戻ると八つの目をぎょろぎょろと動かしながら尋ねた。
『何故ここに来た!ほかにも誰か来るのか!』
「いや、来ないとおもう・・・ます、噂になってたから」
『噂?どんな』
「此処の傍に来ると肌がざわつくって・・・悪魔化できる生徒が・・・」
それを聞いて悪魔は困ったように顎に手を当てて考え込んだ。
『困った、バレるのは不味い・・・ここでこっそり・・・る予定だったのに』
小声なのと百足の足がガチャガチャと床を叩くのでガルドナには聞こえなかった。
しかしこの状況は悪魔にとってよろしくない状況らしい。
『このまま黙っていてくれといっても、聞きはしないだろうし』
ならば、と呟いたのをガルドナは聞いた。そして最悪の結末を想像する。
蜘蛛の足で串刺しにされるのか、百足の足で引き潰されるのか、それともあの牙でずたずたにされてしまうのか。
冷や汗をかきながら悪魔の言葉を待っていると・・・。
『沈黙と引き換えに何か、簡単な望みを叶えよう。ささやかな願いを』
「えっ、い、いいんですか・・・」
『できる事なら』
ガルドナは千載一遇のチャンスに今度は別の意味で息を飲んだ。
「そ、それなら・・・」
ガルドナはある事を提案した。




