だれかいる!
ルナが一人でしばらく遊んでいるとアダムが魔道具を入れた箱を持ってきた。
大量にあるためか荷車に乗せている。
『随分とたくさんありますね・・・』
「すくなくともお前たちの使う分を考えると10人分は確保しときたいからな」
充電器扱いされるのは少し思うところがあったが授業に使うものということでルナは深く考えないことにした。
アダムが私利私欲でそのようなことをするわけもないし、実際そうであるからだが。
『ええと、私はなにをしたら?』
「別にこれに対して何かする必要はないぞ、垂れ流しの魔力がコイツらにとって益になるだけだ」
ルナはそれを聞いてちょっと肩透かしを食らった気分だった。
何かする事があると思ったのに。
「どれどれ・・・おお、もう満タンに」
『ほへー』
ぼんやりしている間に魔道具の魔力はどれも満タンに。アダムは再び魔道具を片付け始めた。ルナも多くなった手を使って荷車に全ての物品を片付けていく。
「よし、これで全て片付いたな」
『それじゃあ私もそろそろ・・・ふぅ」
ルナは人型に戻ると大きく伸びをした。もうじき始業の時間だ。
「早朝になにをするのかと思ったが、まぁこっちにも思いがけない収穫があった」
「こんな贅沢な悪魔の使い方無いですよね」
技師として呼び出し、魔法陣の使用や保全を行った事はある。
しかし魔力が溢れるからと魔道具の充電に使ったのは前代未聞だろう。
「それじゃあフラウステッド、この鍵を渡しておくがちゃんと内鍵を閉めてから変身するんだぞ」
「わかりました」
ルナはこっそりと利用できる練習場所が増えて少し嬉しくなった。
「おい、ガルドナ!おいってば!」
新館の教室。そこでは生徒達が休憩時間に雑談に花を咲かせていた。
そこでガルドナと呼ばれた赤毛の生徒はぼんやりとした態度のまま同級生の声を聴いていた。
「なに?」
「聞いたか?」
「なにを?」
「旧館の話だよ」
同級生は旧館にある建物の話をしていたらしい。さして興味もなかったがガルドナはある一言を聞いた。
「あそこの近くに行くとさ、なんだか肌がざわつくんだよ」
学校でよくある噂話。魔法学校であるから不思議には事欠かない。それ故に少年少女にはこういった噂話が度々浮いては消えていく。しかし今回はあまりに具体的な内容だった。
「寒いのか?」
「バッ!違うよ!悪魔化の契約をしてる奴がそこに行くと落ち着かなくなるんだよ」
「どうして?」
「わかったら誰も苦労しないよ。旧館は一年のFクラスが居るだけだし教室もほとんど使われてないって話だろ?」
だからなにかあるかも、と同級生がいう。ガルドナは少し考えてから同級生に応えた。
「わかった、調べてみるよ。場所は?」
「あそこ、旧館の外れにある召喚術に使う施設あるだろ?あそこだよ」
「わかった」
ガルドナは立ち上がるとそのまま教室を出て旧館へと歩いて行った。
「ざわつくってなんだ?なんかビビってるのを勘違いしたんじゃないのか?」
一人、時折生徒とすれ違いながらガルドナは歩を進める。
彼は退屈していた。家は裕福である、Aクラスに入れるほどに。
しかしガルドナの生家であるフェンシブ家は非常に保守的、ともすれば臆病な家柄だった。
防御魔術の達人であった開祖は近衛騎士であったり、もしくは帯剣を許されない場所での護衛として名を馳せた。
特に防御魔術を実際に手にもった盾のように扱う特殊な技術や、パリィを可能にするレベルで瞬間的に硬質化させる技術など、戦いに欠かせない技術を多数編み出した傑物であった。
それが地位を得てからだろうか、それとも開祖が特異な人物だっただけだろうか。
後を継いだ次代の当主からはひたすらに防御術にこだわり始め、果敢に前にでて仲間を守っていた開祖の勇敢な戦いぶりから一変して陣地防衛や要人警護の技術に偏るようになっていった。
これ自体はそこまで悪い事ではなかった。現に彼らはそれからも成功を重ねていったのだから。
しかし彼らは次第に勇猛な魔法を使う騎士ではなく、地味で裏方の護衛になっていった。
そして今となってはそれすらも部下に任せきりになって出掛けることもない要人の自宅に常駐したり、王宮で不審者よりも書類と戦いながら生活している。
高潔さや気高さは勇猛さと共に薄れ、今はただ傲慢なだけの成り上がり者の末裔としてガルドナは腐っていた。
開祖のような冒険譚に憧れるのは若さゆえ、保守的な両親や親族に反発するのも同様。
しかし彼の中にはそれ以上に未知とスリルに飢えている心の渇きがあった。
「ここらへんか」
同級生の言葉を受けて即座に席を立ったのもそのためだった。何か自分の退屈と鬱屈した気持ちを晴らしてくれる何かがあるような気がする。そう思って此処に来たのだ。
「召喚術に使うとこだよな・・・ここら辺に来るとざわつくって言ってたな」
召喚術は高等かつ、危険なもの。ようやく実習を始めた一年生が利用する施設ではない。
なのでここは無人のはずだが・・・。
そうなるとここには魔法学校だからか、もしくは世間一般の怪談話に属する何かがあるのかもしれない。




