アービルにだいへんしん その2
ルナは深呼吸をして、それからアダムに言った。
「これから本格的に悪魔に変身します、もしもの事があったらこれを」
ルナはそう言うとアダムにベルを手渡した。
「これはなんだ?」
「魔力を籠めて振るとルルイエ先生を呼べます。ディーン先生も先生ですけど、ルルイエ先生は悪魔の専門家ですから」
「なるほど、わかった」
アダムはベルを受け取るとすぐに部屋の隅っこに移動して様子を見る体勢にはいった。
ルナはアダムが離れた事を確認すると頭の中でイメージを浮かべる。
私の真名、浮かべるべきはそれ。
深淵にてなお清らかなるもの
(ブリヴァル・・・!)
そう心の中で唱えながら以前エトナ―の前で変身した姿を思い浮かべる。
蝙蝠と蜘蛛の手足。それらが混ざったような姿。
『オオォォォ・・・!』
メキメキと体を変形させながら、ルナは自身の体を抱くような体勢で大きくなっていく。
アダムはそれを見ながら同時に膨らんでいく魔力がまるで突風のように自身の体を叩いていることに驚いた。
魔力は普段は空気と同じように触れても感覚などない。蜘蛛の糸ほどの感覚もないのだ。
それが今はまるで突風が肌を叩くように感じられる。その事が示すのは魔力の尋常ならざる濃度である。
「これが大悪魔グレーターデーモンか!」
神のように悪魔を崇拝するなど馬鹿げたことだと思っていた。しかし実際に大悪魔の魔力、その片鱗を目の当たりにしてアダムは考えを少しばかり改めた。
アダムは多神教の教えに心得がある。それゆえにこの強大な力はその教えの中にある『神』に匹敵すると考えたのだ。
『はっ!』
バサッと姿を完全に変えるとルナはアービルの姿へと変貌した。
八本の腕に蝙蝠の皮膜、虫と混ざったような猛禽を思わせる脚。アダムは凄まじい威容を誇る大悪魔の姿にしばらく圧倒されていたが・・・
「ん?」
ふと、懐に忍ばせていた魔道具の充電が満タンになっていることに気づいた。魔道具は魔力を原動力として動く道具の総称であり、中には自分の魔力を使うものもある。
魔石は言わば電池のような存在で、魔石は魔力を吸収して備蓄する性質があるため魔道具の動力源になる。
アダムの魔道具は暗所を照らすための簡単な物だったがそれ故に魔石はあっという間に蓄えられるだけの魔力を吸収したようだ。
「・・・」
アダムは少しセコいことを思いついた。ルナが変身する際に発散する魔力が及ぶところに魔石や魔道具を置いておけば勝手に充電されるのでは?というものだ。
魔力の充電は非常に手間だ。人間が魔力を充電するにしても限界があるし時間もかかる。しかし目の前に大量の魔力を垂れ流している奴がいるのであればそれを利用しない手はない。
「フラウステッド、ちょっといいか?」
『なんでしょうか?』
身長が3メートルほどに拡大されている為に威圧感もすごい。
開いた八つの目に見られているとさらにである。
「ちょっと道具を持ってくる。少し此処で待っていてくれるか」
『道具?』
「お前の魔力で魔石が充電できるようだ。せっかくだから授業で使う道具の魔力を充電しておきたい」
『わかりました』
アダムはルナの返事を聞くとルナを囲むように半径数メートルほどの魔法陣を描いた。
『これは?』
「人は来ないだろうが一応な」
万が一誰かがここに来た事に備えて簡易な召喚陣もどきを描いたようだ。これで悪魔の姿を見られても召喚術で呼び出したとするつもりらしい。
「それじゃ、ちょっと待っててくれ」
アダムはそそくさと建物を出ていった。取り残されたルナは一人腕を動かしたり、羽ばたいてみたりしてみたものの・・・
『どうしよう・・・退屈だ・・・』
誰もおらず、それでいて多分だがこの魔法陣から外には出るべきではない。
そうなるとこの場でもぞもぞしているしかやることがないのだ。
誰も居ないのでやること。ルナはなんとなく悪魔っぽいことをやってみたくなった。
自身としては悪魔と言われてもまったくピンと来ていない状態だったがそれでもルルイエやバエルのように威厳の溢れる姿というのはかっこよく、それでいて憧れるものである。
『ふふふ、やってみよう・・・!』
むん!と意気込んでルナはそれっぽい演出を考えてみる。
バサッと手を広げて意味ありげに天を仰ぎ、頭上に火の魔法で火の玉を作ってみる。
それを霧散させて、次に別の魔法を試してみる。
『次は何がいいかな・・・』
水と風を周囲に展開して竜巻を起こし、それを羽根の起こす風圧で掻き消して登場!
飛び散った水しぶきが魔力を失って消滅し、その際にキラキラと煌めく。
『わ、悪くないかも・・・!』
応用して再び火の魔法で自身を覆って、それを羽根を広げて霧散させてみる。
凄くそれっぽい。面白い。
『わーい』
冷静に考えれば非常に恥ずかしい行為だがこの時のルナは一人遊びの真っ最中。そんなことは考えることもなかった。




