アービルにだいへんしん
ルルイエは嬉しそうにその糸に触れるとすぐに表情を改めた。
『なるほどね、私に相談するのは正解ね』
「どうしましょうか」
『そうねぇ、アーティファクトを作るのもいいんだけど・・・そうだ』
「?」
手を叩いたルルイエにルナは首をこてんと傾けた。
『ケープを作りましょう』
「ケープ?」
『ルナちゃんの体は特殊でね、悪魔に変化した部分の体は再構築されるから手足ならなくなっても悪魔化することで再構築してケガを無くすことができるのよね』
「そうなんですか?」
ルルイエはルナの疑問に頷いて答えた。
ルナも知らないことではあるが彼女は儀式の際に手足、目、耳、血液のほとんどを失っている。
それを悪魔の体に置き換えているので最悪その部分を失っても悪魔に変身することで魔力で体を補填し、傷を修復することができるのである。体や内臓もその気になれば置き換えることはできるがそうなると彼女はどんどんと人間から遠ざかり、最後は完全に悪魔になってしまう。
『でも首元や胴体の部分は変身しても変わらないでしょう?だから守る必要があるのよね』
「なるほど・・・」
『なにより首元や頭を狙われると今の貴女では意識を失ってしまったり、理性が飛んだりするからできるだけそう言う事はなくしたいの』
「理性がとぶ・・・?」
『そう、悪魔はそう簡単には死なない。けど貴女はまだ人だから死のショックを受ける。そうなると生き残ろうとする本能が悪魔の力を暴走させる可能性がある』
ルナの記憶に、あの時の光景が浮かぶ。
怒って悪魔の本性が露わになり、魔法使いの男を叩きのめした。あの時の自分の戦い方はとても正常ではなかった。
自分が傷つくよりも仲間の命の危機が自分を突き動かした気がしたけれど・・・。
(それじゃあ、自分の命が危なくなった時・・・私はどうなるんだろう・・・)
そんな状況を危惧するルナを見透かしたようにルルイエは微笑みながら言う。
『そんなに心配しないで大丈夫よ、さっきは暴走なんていっちゃったけどあなたの首にはエトナ―が作った協力な護符がある。それは悪意のある魔法を防ぐ強力なものだけでなく、貴女の理性を守ってくれるものよ。それにケープで首元を隠せばもうそんな危険はなくなる』
「でも、あの時は・・・」
『ルナちゃん、状況は聞いたけど・・・それは悪魔の力が暴走したんじゃなくて』
「じゃなくて・・・?」
『言ったら悪いけどルナちゃんがキレただけよそれは』
友達を傷つけられたんだもの、怒って当然よ。とルルイエは言う。
『制御する必要はあるかもしれない、簡単にそうなるのは危険だから。でも理由は明白で、別におかしなことではないわ。だからそれを気に病む必要はない』
「そうでしょうか・・・」
『子供の喧嘩ならそうかもしれないけど、あの時は命のやり取りをしていたのよ?あの時ルナちゃんが怒らなかったら皆殺されていたか、もっとひどい目にあっていたかも』
ルルイエは件の魔法使いの男の経歴を調べていた。それ故にルナがヤツを半殺しで留めたことすら生ぬるいとさえ思っている。ルルイエも人外の徒であるが故に倫理に関しては緩いところもある。
しかしながらそれでも命を弄ぶことに関しては一定のラインを守っているのだ。
『貴女は間違ってはいないわ、力を振るう時に誰かを助ける為にそうして、誰かの制止する声を聴くだけの理性を失わなかった。それだけで褒められるべきことよ』
「ありがとうございます・・・なんだか少しだけホッとしました」
『それなら何よりよ。それでも心配ならアダムか私、エトナ―の監督の下で練習すればいい』
わかった?と問いかけるルルイエにルナは頷いた。
『それじゃあ、今日はもう遅いからお暇するわ。くれぐれも無理はしないでね。心も体も』
ルルイエは糸を預かるとルナの頭を撫でてから姿を消した。
それからのその日は何事もなく終わった。
「悪魔に完全に変身したいんですが」
「突然どうした」
翌朝、アダムにルナは短刀直入に言った。
「私、大抵の怪我は変身すると治るらしいんですけど」
「けど?」
「言われてはいそうですか、ってならないじゃないですか」
「まぁそうだな」
「なのでとりあえず変身のコントロールの延長で完全に変身する必要があるんです」
「なのでの意味がわからんが、コントロールは確かに出来て損は無いな」
アダムはふむ、と考えると旧館にある一際頑丈な建物をルナに教える事にした。
「ここは?」
「魔法と召喚術を練習する部屋だ。たぶん一年生はそうそう使う事のない部屋だと思うが」
実習室もかなり頑丈な構造だったがこの部屋はそれを遥かに超える頑丈さを誇っている。
柱はまさかの金属が使われているし、壁には魔法を散らし、衝撃や火にも強い様に強化の呪文が刻まれている。
「実習室より物々しいですね」
「召喚術では精霊や悪魔が飛び出すことがあるからな」
悪魔の契約の中には悪魔を服従させる必要がある場合もある。
なぜなら言葉を話せない者や最初からこちらの言うことを聞く気も無いものがいるからだ。
そしてそのやりとりには当然魔法や剣などでの戦闘も含まれているのでとりわけ頑丈に作る必要があったと言う訳だ。
「ここなら悪魔に変身しても魔力が漏れることはないだろう」
「ありがとうございます!」
「鍵はここにあるから戸締りはちゃんとしろ。あと、練習はなるべくワシのいるところでな」
「はい!」
どことなくやる気のルナにちょっとだけアダムは嫌な予感もしていたがとりあえず生徒の自主性を重んじることに。




