怒りの矛先
(クソクソクソクソ!マジで何から何まで迷惑振りまきやがって!殺しとくべきだった!八つ裂きにしてやるべきだった!!!)
ご機嫌伺いに来たのに名乗っただけで敵愾心すら抱かれている。その原因となったあの男に布隠れの魔女は殺意すら覚えていた。
「本当に!ごめんなさい!話聞いて欲しい!」
「Grrrr!」
内心で男を何十回と殴り殺しながら布隠れの魔女は平身低頭して謝り続ける。
「ぐぅ・・・ふぅ、ふうーっ!そこまで言うなら!一応、話くらいは聞きます!」
ギリギリセーフ、布隠れの魔女は安堵のため息を吐いた。
ゆっくりと顔を上げると怒り顔でいかにも我慢している様子のルナ。背中から伸びた足がこちらを標的として捉えていることにギョッとしつつも頭の中で言葉を探した。
「あの男は私の組織の中でも札つきで、ずっと考えと行動を改めるように繰り返して来ていたんです」
「そんな人が何故組織に属せるんですか?」
「それは私達の組織の性質です」
来るもの拒まず、去るもの追わず。世間では不必要とされて研究が停止されてしまったものの研究を続けるための魔法使いの組織。
それ故に数多の魔法使いが所属し、中には援助を受けている者も多い。
「初めて会った時は普通でした、組織に来たのは魔法を防ぐ為の防具の開発だとか薬の開発だとか理由をつけて来たんです」
こう言った開発者や研究者が国に属さない秘密結社を結成したり属したりする事は多い。理由は単純で兵器転用し易い物が多い為に国から厳しい管理を受ける為である。
しかしながら探究心の塊である魔法使いにとって研究を覗き見されたり取り上げられたりする事は死活問題のため表立ってはほとんど研究に参加しない。
「しかしその実態は生物や人間を使って自分の魔法の威力や効果を試していた・・・人体実験をしていたんです」
それを目撃した構成員達はこぞってその魔法使いの悪行を報告したが組織の長である総帥は彼に簡単な注意をするばかりでなかなか話は進まなかった。
総帥はどうやらかなりのお人好しのようで男の言う事をさして疑っていなかったようだ。
しかしである、ある事件をきっかけに組織全体の問題としてその男の問題を指摘する必要が出てきた。
エトナーの襲来である。
杖を手に、聖騎士を率いて組織の集会所に突撃したエトナーによって構成員の大多数がボコボコにされて逮捕、連行されて教会で尋問を受けることになった。
その際に件の魔法使いの悪行が既に教会の耳に入っていること、そしてそれによって組織そのものが教会から危険視されている事を知った。
「総帥はその事からその魔法使いを探し出して制裁を加えることを命じて私達を各地に派遣しました」
「なるほど、ではあの魔法使いは独断で動いていたんですね」
「それはもちろん!私達は善悪の思想に寄らず秩序を乱す事はしません」
「善悪?」
「教会を善とするならその思想に反する魔法使いは悪とされるでしょう?ですが私達はただ魔法を研究したい、秘密を解き明かしたいだけ。でもそれを見逃してもらうには当然誰より潔白でなければならないという訳です」
怪しい素性故に誰より襟元を正して生きねば彼らのような秘密結社は慎ましく生きていけない。だからこそ教会には従わずとも法には従っている。
「ふーーーーん、そーーーですかーーー」
(めちゃくちゃ疑われている・・・)
いつの間にか落ち着いてきたのか元の少女の姿に戻っていたが相変わらず不信の眼差しが魔女を射抜いている。
「信じられないかもしれませんが、ほんとにただ謝りに来たんです」
「・・・・・・・・・疑ってはないですよ?」
(最大限気を使われている!しかもそれでも拭いきれてない!)
どうしたらいい?どうしたら目の前の少女を懐柔できるのか、魔女は悩んだ。
「あー、どうしようかしら・・・」
どうしたものか、疑いを深めつつなんならもう帰りたいという空気をビンビンに発している彼女の機嫌を取るもの。
「・・・」
無性に手慰みが欲しくなる。彼女は魔法使いとしては物理特化。布を操って高速移動や転移などトリッキーな事ができるが得意分野は布を変形させてのものばかり。
つまるところ人間以上のフィジカルと耐久力を持つ悪魔や魔物とは非常に相性が悪い。
彼女が再び癇癪を起して飛び掛かってきたら最悪頭から齧られる可能性すらある。
「く、うぅぅ・・・もう、帰って編み物したい・・・」
不意に漏れた言葉がよもや彼女の助け船になろうとは。
「えっ、編み物するんですか?」
「?・・・ええ、布を織ったりとか、毛糸から服を編んだりとか・・・」
魔法使いは自身の得物を自分で管理する。これに関しては別に魔法使いに限った話ではないが生来の探求者であり、研究者でもある魔法使いの多くは非常に凝り性でこだわりの強いものが多い。
それゆえに自分達の得意とする魔法に関しての知識であったり、道具に対しては自然と詳しくなるものだ。




