糸を作る事!
スピンドルをもらったルナは笑顔でティナにお礼を言うと早速糸を紡いでみる。
「これをこうして・・・」
「そうそう、そんな感じ」
「ティナちゃん詳しいね」
「バイトしてたからね」
女子達が糸を紡ぐのを男子二人は遠巻きに見守っていた。
「糸か、それよりさっきの甲殻欲しい」
「ですね、あの足なんかちょっと加工したらピッケルになりそうだし」
「ああいうのは砕いて金属に混ぜると粘りが増す事があるらしい」
「そうなんですか?」
「聞いた事しかないけどな。魔物でも鍛造や鋳造の素材に出来るものは貴重だから」
二人の興味はルナが変身した百足の甲殻の事だった。
ルビー色に艷めく金属質の甲殻は見た目だけでも硬そうで
何の素材にもできそうな感じがしていた。
鉱物に関してこだわりのある2人はその甲殻を利用して色んなものを作る想像をして笑みを浮かべる。
(あの素材で道具を作ったら・・・)
ダズはピッケルやツルハシを想像していた。
硬い岩にくい込んで叩き割る頑丈なツルハシは穴掘りに欠かせない。また生物の甲殻で作ったものは軽量である事が多く、小柄なダズには必需品と言っていい。
(あの甲殻を混ぜて鍛えた鉄がどんな輝きを放つのか・・・)
テイロスは甲殻を混ぜ込んで鍛えたインゴット状の鉄がいかなる輝きを放つのか想像していた。
硬さと粘りの両立が出来る金属ならば刃物にもってこいである。
染料や薬品を使わずにあの甲殻の色が浮かんだりしよう物ならそんな金属で鍛えた剣はきっと高い値が着くだろう。
どんな鍛冶屋も良い金属を仕入られなければ何も出来ない。
そんな中で金属そのものに付加価値を付けられる甲殻は
一度は使ってみたい一品である。
「「脱皮とかしないのかな」」
二人は思わず呟いていた。
暗い回廊の先、ぼろきれから姿を現した女性が溜息と共に床に降り立った。
「ったく・・・あのバカのおかげでひどい目にあった」
布隠れの魔女は頭を摩りながら旅先での不運に不満を露わにしていた。
規則違反の常習者であり彼女はもちろん彼女の属する組織にとっての疫病神だったかの魔法使いに
制裁を加えられたと思った矢先、唐突に現れた聖人の登場で散々な目にあった。
「聖職者の癖に瓶が割れる勢いで殴るなんて・・・!」
酒瓶で頭を殴られた彼女はエトナ―が追う気がなかったために逃げおおせることができたが
彼女が本気になればおそらくはその場でボコボコにされていただろう。
酒瓶で殴られた際にざっくりと切れた頭と髪の毛の中に紛れ込んだ破片を取り除くのにかなりの
時間と労力を要してしまった。
「布隠れの、随分と遅かったな」
布隠れの魔女が回廊を歩いていると水晶の髪飾りをつけた色白の女性が立っていた。
まるで踊り子のような艶やかな服装にそれに負けないスタイルの美女である。
「馬鹿を始末するだけだとおもったのに、聖人がいたのよ!全くひどい目にあったわ」
「それは、災難だったな。それであの厄介者は?」
「両手を切り落としてやったわ。義手やらなにやらつけたとしても魔法使いは廃業ね」
「元より聖人が引き取りにきたのだから死刑は確定だろうが・・・まあ妥当な処理か」
鼻を鳴らして答えた布隠れの魔女に踊り子風の美女はさして気に留めた風もなく別の用件を伝えた。
「それより、大事な要件がある。総帥からだ」
「総帥から?」
二人は総帥、その言葉を聞いて背筋を伸ばした。それだけで二人が抱くその総帥とやらへの敬意が伺える。
「あの時、聖人の気配に気を取られていたんだろうが・・・実は近くに悪魔がいた」
「!・・・ホントに?」
「ああ、しかもとびきり上位で若いのが」
布隠れの魔女はそれを聞いて驚いた。悪魔が人間の世界をうろうろしているのは非常に珍しい。
頭に上位のという言葉がついていなければだが。
「上位というとどれくらいの・・・?」
「大悪魔と」
「うそでしょ、そんな大物がなんで地上に?」
「問題はそこだよ、なぜそんなところに?と総帥もお考えなのさ」
低級の悪魔が地上に転がり出る事はある。彼らは力が弱いが故に境界に阻まれることなく行き来ができる。
それ以外になると境界の隙間を潜るために力を抑制する必要がある。
そして抑制した力は地上で回復するにはかなりの時間と労力を必要とするのだ。
魔界と人界では魔力の質が少々異なり、また太陽に近い位置になるほど悪魔は弱体化するので
ルナのような特異体質でもなければ昼を迎える度に弱体化してしまう。
それを回避するには二つの方法を取らなければならない。
一つは人に憑依すること。もしくは寄生すること。
人の内側に入れば日光で弱体化することもないし、人間をフィルターがわりにして魔力を摂取できるため
弱体化を免れる。しかしこれは聖職者に察知されやすく、また寄生した人間の健康を損なうこともある。
人間が死ねばもちろん体外に放り出されるし、その際に悪魔と神の盟約により『許可されない殺人』の項目に違反する。契約社会の悪魔の世界ではこの違反が最も重い上に聖職者に目を付けられる。
二つ目は召喚されること。こちらは期限や条件を人間に細かく設定される代わりに魔法陣から堂々と人界にアクセスできる。これが悪魔が人界に現れる最もポピュラーな方法である。




