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日光と月光! 二つの宗教とは?

「ええとな、何から話したもんやら」


エトナーはそう言うとルナをじーっと見る。


「?」


不思議そうに首を傾げるルナはエトナーの言葉を待った。


「とりま、月光教について教えてやろう」

「月光教?」

「あぁ、月光教ってのは夜に生きる種族が信仰する宗教でな、日光教の兄弟みたいなもんだ」


かつて、この大陸で悲惨極まる戦争があった。

その名も天魔戦争。

その戦争のきっかけはなんと天使が降臨し、悪魔に虐げられる人々を救済するために剣を振るったことで起こった。

しかしその戦争は蓋を開けてみれば結局悪いのは悪魔の力を悪用した人間であり、天使はそれを理解できなかった。

その為に起こったのが魔女狩りと宗教弾圧、そしてそれに関与した者と天使によって引き起こされた殺戮だった。


「まー、ありゃ酷いもんだったがな、なんというか・・・細かいとこは省くが」


めんどくさいし、とぶっちゃけつつエトナーは言う。


「その戦争が終わってメタメタになった大陸の宗教やらを全て統合して、救済しまくってきたのが我らが神の誇る日光教なワケよ」

「天魔戦争って確かかなり昔の話ですよね?」


少なくとも百や二百できかない年数のはず。とルナは思った。それを見てきたように話す目の前のシスターは一体幾つなんだろうか?


「あぁ、もうカビも生えないくらいな。んでもってだ・・・日光教は色んな種族も保護の対象なんだが、まぁあれだよ。太陽が苦手な種族もいるだろ?」


吸血鬼やダークエルフ、そしてドワーフの一部にある冥府信仰などがそれに当たるらしい。太陽を体質として受け付けない人達、もしくは鉱夫のように昼夜の関係ない穴倉で過ごす人達など。そう言う人達には表立って日光教を信仰できないのである。


「日光が嫌いだからって神様が嫌いなわけじゃないし、地上の奴らと争いたいわけじゃない。そんな奴らの為に産まれたのが我らが神の姉妹神である月の神が祭神である月光教だ」


日光教の主神である太陽神は大地と空を遍く照らす慈悲の化身である。それに対となる神。それが月の神であり、主神の妹にあたる存在。


「天魔戦争の終わりに無実の罪で弾圧された魔の者たちを救うべく我らが神は手を差し伸べようとしたが主神の威光は善悪の区別なく夜の種族を焼いてしまう。困り果てた神に助け船を出したのが他ならぬ妹神だったわけだ」

「月の女神様が・・・いるんだ・・・」

「まー、今の子じゃそれからだよなぁ・・・ま、実物見なきゃ信じらんないよなぁ・・・」

「あ、でも悪魔がいるのに神様が居ないってのも変だし・・・やっぱりいるんですよね?」

「うーん、いるよぉ・・・なんかこういうピュアな子珍しいな。悪魔になってんだよね?ほい、この飴食べていいよ」

「ありがとうございます、甘ーい・・・もごもご」


こっくり、とルナは頷いた。エトナ―は目の前の少女の精神性に少し、いやかなり違和感を感じていた。


(マジでこの子邪気がないな、悪魔だろお前ー・・・マジでこの子貴重だわ)


考えてもみれば悪魔の癖に普通に教会の敷居を跨いでいる。しかもシスターの前で平気な顔をしている。

しかも渡したお菓子を食べてまでいる。聖別された食べ物を普通に口にしているのである。


「ふむ・・・こりゃ本格的に観察対象だな」


エトナ―は飴を口にしながら、じろりとルナを見る。その視線は少しだけ警戒を含んでいたが、どこか柔らかい。まるで迷子の子犬でも見るような目つきだった。


「んでさ、ちょっと確認するけど・・・お前、自分がどんな悪魔なのか、わかってんのか?」

「どんな・・・って、えっと、詳しくは・・・その、まだ・・・」


ルナは困ったように視線を泳がせた。成り立ての悪魔、という自覚はあっても、種族分類や性質などの詳細は本人もよく分かっていないのだ。


「だろうなぁ・・・あー、こりゃやっぱメンドクサいやつだわ・・・」


頭をポリポリ掻きながら、エトナ―はため息を吐いた。


「ま、悪魔って言っても色々いんのよ。欲に飲まれたやつ、呪いで堕ちたやつ、生まれつきそういう血を引いてるやつ・・・あと、超レアだけど、祝福で変質したやつもいる」

「しゅくふく、で・・・?」

「そ。主に天使か神格存在によるもんだけどな。普通は人間が神に祝福されりゃ加護とか奇跡が使えるようになるもんだけど・・・稀に、身体とか魂ごと変質するやつがいる。属性的に逆方向にね」

「・・・え、それって・・・」


ルナの顔が少しこわばる。彼女は薄々気づいていたのかもしれない。自分が“何か”に選ばれたのではないかということに。


「まあ、そのへんは今はまだ置いとけ。まずは基礎からだ」


エトナ―は話題を切り替えた。下手に動揺させないように、そういう配慮だった。


「でさ、さっきもちょっと言ったけど、月光教ってのは日光教と違って“人を裁かない”宗教なんだ。夜の種族に必要なのは裁きじゃなくて、理解と調和だ。だからウチは、秩序を守る意思のある者を受け入れる。見た目が悪魔だろうが、行いが人であれば保護対象になる」


「そっか・・・」


ルナは少し安堵したように微笑んだ。その表情がまた、エトナ―にはなんとも言えず妙に見えた。


「・・・お前さ」

「はい?」

「月光教、入ってみるか?」

「えっ、今、入れるんですか?」

「形式的なもんはあとで教える。でも、少なくとも『関係者』にはなった方がいい。でねぇと、この先いろんなとこでトラブルになる」


エトナ―は真顔だった。冗談で言っているのではない。それだけ、彼女の目にはルナの存在が“未定義”かつ“危うい”ものとして映っているのだ。


「ルルイエが、アンタを送り込んできた意味も、ようやく見えてきた」


エトナ―は立ち上がり、ルナに手を差し出す。


「ようこそ、教会へ。お前が秩序を望むなら、ウチは歓迎する」

「・・・はいっ!」


ルナは元気よく立ち上がり、エトナ―の手を握った。小さなその手は、まだ知らない世界への扉をノックしたばかりだった。

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