4.微笑みは盾なのだと-では口調は何に当たるのか-
全48話予定です
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これだけ言われれば、普通なら[ふざけるな]の一言が返ってきてもおかしくはない。占領を認めさせるのと同時に軍事機密を見せろ、と言って来ているのだから。
「嫌だ、と言えば?」
「続きをなさいますか? 貴国とてレイドライバーという兵器はそうそう量産は出来ないかと推測されます。ならば持ち帰って修理なされる方がよっぽど効率的か、と」
カズは口調を変えない。それは彼なりの処世術から出てきたものだ。
以前にカズが常に微笑んでいる理由は話した。微笑みは盾なのだと、ある人物から教えられたからだ。
では口調は何に当たるのか。
声は相手に対するコミュニケートの最たるものだ。その声を荒げれば、こちらが[怒っている]という情報を相手に与えてしまう。もちろんそれは悲しみだったり笑いだったりというものすべてに言える話だ。
アクティブに相手に効果を与える、という意味では微笑みの反対の矛になるのだろう。
だからカズはいつも微笑んでいるのと同時に、若干の楽しさをにじませながら、あくまで一定の喋り方で相手と接しているのである。
――そう、声は無機質ではダメなんだ。
カズがそう思う理由。
それは声色が無機質になると機械との判別がつきにくいというのがある。本当に人間と話しているのか、と。それこそこの世界ではVR[Virtual Reality]もAR[Augmented Reality]も発展している。この世界では環境さえ整えばホログラムを投影しながらの相手との通話だって出来るのだから。
それに、相手によっては気持ちがこもっていない、こちらの事を真剣に相手にしていないと捉えられる可能性だってある。その他にも、若干の楽しさを混ぜる事で[こいつはこの状況を楽しんでいるんだ]という意思表示になるからである。もちろん、この方法はやりすぎれば相手を怒らせる結果にもつながる。[オレをおちょくってるのか]となる訳だ。だからカズはそう相手にとらせない程度の声のトーンで話すようにしている。
これは、相手がトリシャやクリスのような自分より格下の人間にも、基地司令や政府や軍上層部などの目上の人間にも、もっと言えば今話しているクロイツェルにだって同じ話し方をする。これがカズの基本スタンスなのだ。
状況を楽しむ余裕、これは軍人にとってだけでなく一般人としても重要なものであろう。もう一つあるのは、この話し方というのは相手との会話で自在に変化させられるし、させるべきなのだ。そう言う意味では先ほど[矛]と表現したが、どちらかといえば自在にしなる[鞭]と呼ぶべきかもしれない。
カズのこの処世術は、もちろん彼の性格も大きく関与しているが、神崎という人生の先輩に会い、その教えを守ってきた結果であり、医師の修行や実際に被検体との接する時間が作り上げたものなのだ。
――先生、これで良いんですよね。
カズはふとそう思う。それは特に緊張を強いられる場面で良く表れる。神崎の微笑んだ姿が時々チラつくのだ。そしてその度に[自分は間違っていないか、感情を表に、相手に悟らせてはいないか]と自分に問うのである。
そんなカズの声をクロイツェルどう感じたかは分からない。もしかしたら先のように[バカにしてるのか]と捉えたかも知れなければ[こいつは余裕があるのか]と一目置かれたのかも知れない。
そしてそれは恐らく後者なのだろう事は想像に難くない。クロイツェルは一つ[はぁ]とため息を漏らしたあと、
「きみはいつでも余裕があるのだな。今まで何度かきみと話す機会があったが、ここまで手札が見えない相手は初めてだよ。分かった、今回は我々の負けだ、認めよう。原子力潜水艦の件も了解だ」
と言ったあとに、
「ただし、それ以外の秘密は見せるつもりは」
とまで言った言葉に、
「分かっております、参謀殿」
と言葉を添えた。
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