3.今回は見事にやられたようですな-ご無沙汰しております、参謀殿-
全48話予定です
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そこで登場するのが、もう一つの暗号方式である[公開鍵暗号]だ。
公開鍵暗号は、公開鍵と秘密鍵と呼ばれるペアの鍵を使う方式である。その特徴は[片方の鍵で暗号化したデータは、ペアとなっているもう片方の鍵でしか復号できない]という点にある。
つまり、片方の鍵を特定の周波数で公開しても、もう片方の鍵を秘密にしておけば目的の相手(公開鍵のペアとなっている秘密鍵を持つ相手)だけに安全にデータを送れるわけだ。
こちら側が相手に暗号通信の要求を送ると、相手は自身の公開鍵が入った証明書をこちら側に返信する。こちら側は、入手した相手の公開鍵を使って暗号通信に使う共通鍵を暗号化して相手に送る。
この暗号化した共通鍵を正しく復号できるのは、暗号化に使った公開鍵のペアとなっている秘密鍵を持つ通信相手の相手だけである。だからわざわざ証明書をを送っているのだから。このため、ここまでのやりとりが万一盗聴されたとしても共通鍵が漏えいする心配はない。相手は秘密鍵を使ってこちら側から送られてきた暗号データを復号して[暗号通信に使う共通鍵]を取り出す。この時点で両者は、誰にも知られずに共通鍵を持てたわけだ。
こうして共有した共通鍵を使ってこちら側と相手は、本来の目的である暗号通信という、相互でやりとりするデータの暗号化や復号を高速に処理出来る。
この暗号通信方法ではこのようにして、公開鍵暗号を使って暗号化や復号に使う鍵を他人に知られることなく安全に共有し、共有した共通鍵を使って安全にデータを暗号化や復号する。この方式の暗号通信は、二つの暗号方式のメリットをうまく活用しているのである。
と、こう列記すれば[何やら小難しい話ではあるまいか]と思われるかもしれない。だが、この技術は二〇〇〇年代には既に確立している技術である。
それこそ、この世界のインターネット接続にはかかせない方式である。人はそれを[SSL(Secure Socket Layer)通信]と呼ぶ。これはインターネット接続をする際にはとても重要な役割を果たす。それほどに普段の日常にこの技術は深く浸透しているのだ。
それこそインターネットで自身の銀行口座にアクセスしてパスワードを入力、残高確認をして……なんていう他人には知られてはならない通信から、普段の通信まで、この技術はとても一般的に知られている。
二〇〇〇年代の前半、具体的には二〇二〇年代には既に一般化し、通常通信のサイトを閲覧すると、逆にブラウザから警告を受ける程に浸透していった。
だからこそその仕組みを使えば特定の相手との交信にも使用できるのである。まぁ、普段使用しない周波数域を使用している時点で、共和国がこの通信を傍受できるとは考えにくいのではあるが、念には念を入れての措置である。
戻って、しばらくしたのちに通信が繋がれる。
相手は、
「クロイツェルという。今回は見事にやられたようですな」
という一声から始まった。
「ご無沙汰しております、参謀殿。カズと申します、今回の協議役を承りました」
そう言って返せば、
「あぁ、中佐殿、だったかな。きみとは中々縁が切れないようだな。それは良い事なのか、悪い事なのかはまずは置いておこう。で、同盟連合の諸氏はどうされるおつもりか?」
と問われる。
――まぁ、そりゃあ聞いてくるわな。
そんな問いにカズは、
「今回はこちらの勝利、という事で手打ちをして頂けませんか?」
と率直に返す。その言葉だけで相手が理解してくれると確信しているからである。それだけの相手であるとカズは認識している。
現にクロイツェルは少し黙ったあと、
「占領を認めろ、と?」
と問われる。なので、
「そちらの艦隊も撃破しましたし、レイドライバーも一体撃破しました。これ以上の犠牲は互いに良くないか、と」
あくまで要点だけを突く話し方をする。カズはクロイツェルという相手にはそれが一番だ、と思ったのである。それは前に一度、直接会う機会があった際にカズが肌で感じていた事である。
――クロイツェルという男は回りくどい話を嫌うが、決して短絡的な思考の持ち主ではないのは事実だ。あの立ち振る舞いを見れば分かるよ。
「こちらのレイドライバーは?」
と問われるので、
「もちろんそのままお返ししますよ。ただし、条件がひとつだけ」
相手の[何かね]という言葉を待ってから、
「原子力潜水艦に乗せるところを見せて頂きたく」
と返す。
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