③ 緑ちゃん二号は入り口の反対側の、書棚近くにいます。
ご覧いただき、ありがとうございます。
こちら、拙作『断罪された聖女、逃げのびて魔女が住まうという森に辿り着く。』https://ncode.syosetu.com/n6537jy/の、リスナー側の反応になります。
未読だと少しわかりにくいかもしれません。ご了承ください。
また、連載ですが、およそ10分毎に続きを投稿します。タイトルにある番号を確認して、順を追って読んでいただけると嬉しいです。
とにかく、世界銀行に振り込むためには現金がいる。
「商会の納品支払いはどうしますか?」
「各商会と交渉しろ。物納なら色付けろ」
「職員の支払いは?」
「試算出せ!一部、半分、全部と分けて、物納の場合は加算つけろ。希望者募れ!」
みんな、たのむーー!三ヶ月くらい現金我慢してくれ!
「閣下!物はどうしますか?」
「衣装部屋から石、全部もぎとれ!似たようなの山ほどあるだろ」
あのギラギラしたやつ、分解すればいい石取れるたろう。
「閣下!閣下が大っっ嫌いな公爵からやたら長い手紙が早馬で届きました!」
先程部屋から出ていった部下が、分厚い封筒片手に戻ってきた。公爵だ?あいつの字なんかこんなときに見たくもない!
「要約!」
「現金いるか?いるなら跪いて額に土すりつけろ、だそうです」
何てわかりやすい要約だろう。あの部下にはこれからは概要作成を任せよう。
「いつでも土まみれになると返事しとけ!そのかわり三日以内で本年度の国防費相当額の半分以上の場合のみ。もちろん無担保だ!利子は国規定以下で!」
今日を乗り越えても五日間は現金を用意しつづけなければならない。額に土つけろ?そんなんで現金が借りられるなら、いくらだってつけてやる。
「君っ!騎士団長と外務大臣を呼んでくれ!」
入り口の扉近くに置かれた緑ちゃん三号のそばの椅子に腰かけている、まだ若い事務官に声をかける。
それなりに優しく言ったつもりだが、やはり怒鳴り声になっていた。
「はいいっ!」
「閣下!外務大臣は隣国へ外遊中です!」
右組のデスクの島からすかさずフォローの怒声が飛ぶ。
「っだーー!こんなときに限って!んじゃ、王弟だ、なんとか探して捕まえてくれ!」
そう怒鳴れば。
「王弟殿下は辺境の温泉街に新しい側付きと視察です!」
今度は左組から叫ばれる。
繰り返すが、誰の声もそんなに叫ばなくても部屋にいる限り、きちんと聞こえる。
でも、叫びたくなる気分だよね。
わかるよ。国防費三分の一?目玉飛び出る大金だ。それを日没までに用意するなんて、正気の沙汰じゃやってられない。
「どーいつもこいつもフラフラと!外務部に問い合わせて、大臣が代理者立ててないか聞いてこい!」
「はっ!」
とは言うものの、たかが隣国程度の外遊、一月もない期間だ。権利者の代理を立てる手続きの煩雑さを思うと、期待はできない。そもそも、予定外に現金を動かすなんてまずない事だ。
「閣下……恐れながら……神殿に問い合わせられては……」
わかっている。
軍部、外務部、政務部、そして王族と、神殿。
この五部門の指定されている各権利者のうち、三人が必要で。
この王都にいる権利者は、俺と、騎士団長と、大神官だ。
「でも、嫌いなもんは、嫌いなんだよ、ねー、緑ちゃん」
ずっと実況中継をしている、一番近い緑ちゃん一号に語りかけた。
すると、プルプル葉を揺する緑ちゃんから『ありがとうございます、女神様』と、聞こえてきた。
そうか。聖女は女神様にお会いしていたのか。
「女神様が相手じゃ、真面目にやらなきゃ本気で喰われるなぁ……」
この国を守る女神は、割りと俗物な印象がある。
ああ、今、聖女も言ったな。
この国の女神は対価を求めるんだよ。
只より高いものはない、というから、捧げ物をするのはもちろんやぶさかではないが、こうもはっきりと『対価がいるぞ』と宣言する神もなかなかだと思う。
ことの重大さに怯えるかのように、女神と聖女のやり取りをプルプルと伝える緑ちゃんをみつめ、その会話を聞く。
結界のための祈りは、誰でもいいのだと、告げてくる。
「誰が祈ってもいいのか……」
俺は少しだけ考えると、近くの事務官を手で呼び寄せた。先程、神殿への問い合わせを提案した者だ。
「君、神殿に行って、大神官を連れてきてくれ。うん、月に一度くらいなら、山登りにつきあう、宰相がそう言ってると伝えて、なんとかあの不健康男を連れ出してきてくれ」
聖女が、あんな小さかった子どもが登った山だ。
霊山だが、そこまで険しいわけでも、高いわけでもない。
ただ、自分の足で赴き、登り、祈って、降りて、神殿を巡るんだろ?
面倒なことこの上ないだけだ。
俺も登ろうじゃないか。みんなが登ればいいんだろ?人気者の宰相閣下が登れば、あとに続く奴も出てくるさ。
……四十過ぎの中年の身体には厳しいし、一日仕事だし、二日後あたりに遅れて筋肉痛が来るんだろ?
うう、やる前から挫けそうだ。
聖女、あの山を何往復もしてたのか。
ものすごい根性だ。うちで育てたいな。
聖女のように毎日は無理だが、月に一度くらいは、なんとか、うん、なんとか時間を作って山登りしよう。
最近中年太りで脇腹あたりに肉が付き始めたからな。
そこそこの運動量だ。多少の効果もあると信じて。
しかし、国防費の三分の一か……。
予算の健全性ねぇ。痛いとこ突かれたな。
しかも、聖女にはそれを請求する権利があるな、間違いなく。
……気づいたか、賢いなぁ。
でも、もう少し割り引いて欲しい。せめて五分の一、できれば十分の一。
本気でうちで働かないかな、聖女。
鍛えたらけっこうなモノになりそうだよね。真面目なのと、冷静で辛辣なのがいい。絶対開花する。
……やらんか、やらんわな。
大金持ちになるもんな。
聖女の祈りによって女神が結ぶ強固な結界のお陰で、国境線付近での国防活動の負担はほとんどかからない。
なので、国防費は年々、きっちりかなり縮小されてきていたんだ。
あのクソが成人するまでは。
あの害悪にしかならない役立たずが「使わないなら使ってやる」とか、意味不明なことを言い出して、それに便乗した頭の軽すぎる品のない女が「賢い息子」だとかほざいて。
ここ三年ほどの国防費は使途不明金の山だ。
もういっそ、この件の責任取らせてあの屑を鉱山にでも送ろうかなぁ。そうしたいなぁ。幽閉は金掛かるから、多少でも稼がせないと。
……無理だろうか。役立たず送ってくるなって怒られそうだしな。
……だれか国家転覆してくんないかなぁ。
この仕事、投げ出したいなぁ。
お金、作れるかなぁ。不安しかないよ。
「あの衣装部屋のキラキラしたやつ、買い叩かれるんだろうなぁ……」
しかし、アレらを現金化しない限り、国防費の三分の一、それを十二年分なんて逆立ちしても出てこない。
「閣下、宝石加工業者の一覧と、各宝石の下取り価格表です」
「閣下、ドレスメーカーが生地やドレスのリサイクルについての提案を持ってきたそうです」
「閣下、近隣国の王族の瞳の色とお気に入りの宝石リストです」
「閣下、衣装部から、ここ三年で製作した衣装に使われた宝石と装飾品の一覧が届きました」
うんうん、君たちがしごでき君で、俺、本当に嬉しいよ。
泣き言いうのは止めだ。
この『歴史上最悪の難局を乗り切った辣腕宰相』として、歴史に名前を刻んでやる!
さあ、頑張って現金を作るぞ!