砂漠ショッピング
「うおおおおお!!!」
死ぬ!死ぬ!あと1分で死ぬ!
街に向かって全速力で走っていると、前からデザートリザードが現れる。
「だあああ!!クッソこんな時に!」
いや、待てよ……
ザッザッと近づいてくる。そして横切る瞬間に──
「スキル、イヴェイシブアクション!」
完全に存在を忘れていたが、回避スキルを習得していたのだ。ちなみに、魔法と違ってスキル名を叫ぶ必要はないが、まぁそういう気分だ。
ヒュッと横に飛ぶ。ザシュッと切りつけられる。
[HP:5/30]
「えーっと……どういうことかなぁ?」
スキル、イヴェイシブアクションの効果は回避行動の補正のはずだ。回避行動の補正、つまり──
「確定で避けられるわけではない、スキルの効果をデザートリザードの速度が上回ったってことか」
上回ったってことか、じゃねぇんだよ!!
クッソタイムリミットが一気に30秒減ったぞ。
「走れぇぇぇぇ!!」
とにかく走り続ける。しかし、やはり30秒で辿り着くなど不可能に等しく、30秒が経過し──
「──あれ?死んでない?」
確かに30秒経ったはずだ。時間を計ったわけではないが、もうそろそろ30秒のはず。
「とりあえずステータスで確認してみるか」
──ステータス──
ヒセン Lv.15
○種族
人間
○主職業/副職業
魔法使い/なし
○所属クラン
無所属
○パラメ……
─────────
「状態異常表示が消えてる。ちょっと待てよ?」
[状態異常:酸]
[酸を浴びた状態。30秒ごとに5ダメージ。1分間継続]
「あれ1分間継続って書いてた気が……30秒で5ダメージってことは10ダメージ食らうから──ってことはつまり、俺が走り始めた頃には解除されてたってことかよ!?」
ウィンドウ閉じた直後に回復してたのか。
「何のために走ったんだよ!!」
いや待て、落ち着け。街の近くまで来てる。意味はあった。うん。そういうことにしよう。
ザッザッともう聞き慣れた、聞くだけで憂鬱になるような足音が近づいてくる。通り魔蜥蜴だ。
「セギ!」
低姿勢で足を引っ掻いて去っていく。
[HP:2/30]
「結局死にかけなのに変わりねぇじゃねぇか!」
あと一撃でも食らえば死ぬ。
街まで全速力で走った。
[商業都市マルドネ]
「あっぶねー。マジでギリギリだった」
門の前でデザートリザードに見つかり、全速力で走って街に駆け込んで振り切った。モンスターは街に入ることができないので、門をくぐれば安心だ。
あとちょっと遅れていれば死んでいた。
「空腹値2割切ってんじゃん。まぁ、スタミナ無視して走り続けたからな」
このゲーム、走るなどの激しい動きでスタミナ消費されるのだが、スタミナが0になっても空腹値がスタミナの代わりとして機能するらしい。
ただし、空腹値が1割以下になると全モーションの大幅な出力減衰がかかり、0になるとそれに加えてスリップダメージが発生する。
「とりあえず食事──いや、先に素材の売却からかな」
[金嵐商会 マルドネ本部]
マルドネは砂漠の中心にある街だ。故に食料調達が難しいため、野菜や肉、魚などが少し高く売れるらしい。
「モールクロコダイルのヒレ高っ!こんな高く売れるの!?」
モールクロコダイルには、手足ではなくヒレが生えている。
「モールクロコダイルのヒレは珍味として人気がありますから」
受付の人が言う。
「これとこれと……あとこれも」
「はい。19950ダーラで買い取らせていただきます」
次は食事だな。
[兵士ギルド マルドネ支部]
兵士ギルドは兵士系のジョブを支援する拠点だが、それと同時に全ての冒険者の活動を支援し、依頼を発注したり受注し、一般人と冒険者、冒険者と冒険者を繋ぐ役割も持っている。
要するに、どのジョブでも支援を受けられるわけである。そして、食堂もあるのだ。兵士ギルドの食堂はコスパがいいらしい。
「もぐもぐ……普通に美味い」
[空腹値:8903/10000]
「これくらいでいいか」
かなり食べたが、これで1500ダーラ。相場を知らないので何とも言えないが、たぶん安い。たぶん。
ちなみに、このゲームの食事は空腹値と同時にHPも回復する。
「素材もほとんど売ったし空腹値もHPも回復した。さぁ、待ちに待ったショッピングのお時間だ!」
商業都市で何も買わないでどうする。
所持金も結構あるし、ある程度このゲームの戦闘を経験してわかったこともある。
[金嵐商会 マルドネ本部]
とりあえず素材売った商会に来てみた。商品棚を見て回る。
「まずは回復薬だな」
HP、MP共にローポーション、ミドルポーション、ハイポーションがあるようだ。
「ローが25回復で500ダーラ、ミドルが50回復で1000ダーラ、ハイは75回復で1500ダーラか」
HPは今のところ30しかないのでローだけでいいだろう。MPはミドルがいくつかほしい。今後レベルアップすることを考えればハイもあった方がいいか?
「HPのローが5つ、MPミドルが5つ、ハイ1つだから9000ダーラか」
あとは地図だな。
Wikiで調べればわかるのだろうが、このゲームでは自身の現在地を地図上に示してくれる。現在地は把握できた方がいい。
「魔鳥猖獗の大草原から獣道の山脈までで2000ダーラ。ま、これくらいにしておくか」
他の魔法も習得するために魔導書も買おうかと思ったが、やめておいた。
「おっと、忘れるところだった。こいつも買っとかなきゃな」
ポーションと同じような瓶を何本か手に取る。
さてお会計、と思ったところで水色の水晶が目に止まる。
[魔法記憶水晶:記憶転移]
「えーっと、訪れたことのある場所に転移する魔法ポーレフロッサが込められた魔法記憶水晶。魔法記憶水晶は込めた魔法を一度だけ使用できる。100万ダーラ……100万!?」
えげつない金額だ。こんなものを買うプレイヤーなんているのか?いや、かなり便利なアイテムだし、廃人なら買う……のか?
必要なものは買えたので、商会を出る。
あ、そういえば宿でリスポーン地点更新しておかないと。
・状態異常:空腹
空腹値が(1以上かつ)1割以下になった時点で回復するまで永続発動。全モーションの出力を大幅に減衰させる。
・状態異常:飢餓
空腹値が0になった時点で回復するまで永続発動。全モーションの出力を大幅に減衰させ、3秒につき1ダメージのスリップダメージを発生させる。
上記2つの状態異常は、通常の状態異常回復薬や状態異常軽減系の防具、アクセサリー等の効果を受けないので、食べるか死ぬ以外に解除の選択肢はありません。
ゲーム開始時、プレイヤーは空腹値8割の状態でスタートし、リスポーン時は5割になります。
ちなみに、9割を超えるとアバターが少し太り、速度値にも影響する仕様になってます。暴飲暴食はよくないよね!
金嵐商会
元々、マルドネは野菜すら育たないため、野菜を行商人から仕入れていたが、その弱みに漬け込む悪徳なものもいた。そのため、前会長が街に金嵐商会を作り、商人としての教育を街の人々に施した結果、マルドネの住民たちが行商人として活動するようになり、金嵐商会は急速に成長を遂げた。
「嵐のように遷移する商品の価値を見極め、金を公正に動かす」が商会名の由来。
一応ジャガイモとか育ててたりします。
Q魔導書は描写がないけどどうなったの?
A左手枠にゴブリンの石斧をセットしていたため使っていませんでしたが、魔導書の効果は記載されている魔法の装備時の威力補正です。魔法の習得条件に、その魔法が記載された魔導書の所持が含まれるものも多いです。インベントリに入ってます。