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序文

キャラクリ×ボードゲーム!

ゲームマーケット2024秋新作『神気覚醒エクセディア』

https://gamemarket.jp/game/183682


 想いの数だけ、観測者の数だけ世界は存在する。

 などというのは流石にロマンチズムが過ぎるだろうか。

 そんなことを考えながらシオン=プローヴァは、星明かりすら乏しい森の中を歩く。視界を確保する最低限の灯りすらないが、戸惑う様子も躊躇う様子はない。視界は『エリアコンプリーター』で確保しているし、獣道とすら呼べないような悪路は靴底の『ライドスキッパー』で難なく踏み越えられる。

 さて冒頭の話に立ち返るが、原理原則からすれば間違いであるが、思索としてはあながち的外れとも言い難いとも思う。何故なら世界は個人では認識不能であるほど膨大であり、無限であると表現して過言ではないからだ。

 多元宇宙。

 パラレルワールド。

 異世界。

 異空間。

 マルチバース。

 並行世界。

 アナザーディメンション。

 表現方法は多岐にして多彩であるがその実、それぞれ異なる概念を表すこれらの単語は全て存在している。

 仮に或る人物が認識する、一つの世界Aがあったとする。

 そのAという世界を主軸に見ると、ある歴史の転換点で別の選択を遂げたA'という世界や、Aとは近縁であるが生物組成や文化体系が異なるBという世界、Aとは全く関係のないCという世界もある。

 例えば魔法や魔術という技術系統が発達し、動植物までも多大なる力を持ち人類との闘争を繰り返す世界。

 例えば科学や物理法則により真理を解剖して遂には人工知能にまで至り、発展の対価に人工知能が支配する世界。

 そういった特別がない代わりに、神秘も絶技も乏しく人と人が争い続ける()()な世界。

 あるいはその裏に超常が潜み、危うい平穏を保つ世界。

 当然これらは例えの話であるからして、文字で記載できる範囲には到底留まらない。

 世界という単位は、本来特別な関係でない限り不干渉である。だが時にして()()()など繋がる事があることもあり、条件次第では過干渉となる。異世界のモノが不和を起こす形で世界を移動すれば、それはやがて歪みを生み、世界間のバランスを崩す《イレギュラー》となる。

 そういった問題を解消し、世界の均衡を保つ為に活動している組織の一つが《管理局》であり、現場へと出動し事態解決に当たる実働部の局員を要している。

 シオンはその一人であり、こんな未界の山奥まで来ているのも発生した事態解決の為である。

 ここは魔法が盛んなF系統世界。シオンの出身たる科学の発展したS系統世界では、こんな鬱蒼とした原生林などデータでしかお目にかかれない。有り体に言えば『未知の異世界』である。

 かといってそれが珍しくもありがたいかと言えば、様々な事態収拾で多くの世界に行っているうちに、目新しくて楽しいといった時期はとうに過ぎてしまった。今はただただお役目を果たすだけである。

 自身を異世界で確立するために腰に着けた『装置』に軽く手をかけ、具合を確かめる。

 動作良好。自身が身に纏う数々のデバイスとの連動も問題ない。『スキャナライザー』を起動し動体を探す。

 この世界には魔力を帯びた動植物である『魔物』が存在するはずだが近辺に気配はない。野生の勘、とやらで異世界からの闖入者(ちんにゅうしゃ)を避けているのだろうか。ともあれ面倒が少ないのは助かる。《イレギュラー》の単純排除任務では、許可がない限り異世界への干渉は最小限というのが《管理局》の方針である。かかる火の粉を払うにも申請と報告が必要なのは面倒極まる。よその組織へ鞍替えを検討したくなる程だ。

 もっとも、そのよその組織はここより厳格か目的に手段を選ばないかで少々反りが合わないのだが。

 と、機材から《イレギュラー》の反応が返ってきた。事前の周辺図と照らし合わすに森の終端間際、村へと続く街道の手前のようだ。感知した動体反応の進行方向は、間違いなくその先の村へと向かっている。

 異世界への干渉は最小限に、の原則は当然 《イレギュラー》が世界に与える影響も含む。のんびり森を散策していると村は壊滅。対応可能なこの状況で見過ごせば始末書程度では済まないだろう。

 急ぐ必要に嘆息しながら、シオンは『ライドスキッパー』の出力を上げて宙に浮く。フロートモードは大気に与える影響があるためこの世界での使用は控えるように通達が来ていたが、お急ぎである。許可も事後承諾でいいだろう。

 宙空を蹴り、一足に空を舞う。森の中をお散歩さえしなければすぐである。

 そうして数十秒ほど空を直進し、

「──」

 あり得ないものを見た。

 眼下には森林と平原の境目。そこには複数体の《イレギュラー》がいた。形状は犬型。サイズはかなり大きい。しかし最も通常の生物と異なるのは、その四肢が機械に置換されている点にある。

 種別名・ハウンド。軍事目的に製造された人工生命体であり、シオンの世界でポピュラーな人類を捕食する危険生物である。

 そこまではいい、予想通りである。


 問題はそれらの群れを、たった一人の少年が立ち回りによって抑えていることである。


 機械の爪に引き裂かれたのか、服は避け血が流れ落ちている。手にしているのは武器ですらない木の棒である。だというのにその瞳に諦観はなく、勝機を探っている。

 《イレギュラー》が脅威となる最たる理由は、世界間差異による干渉不和である。簡単にいえば《イレギュラー》として現れた異世界からの存在は、その世界での技術で対応困難となる現象である。眼下のハウンドで言えば、この世界の魔法や物質によるダメージが極めて低くなるという事が起こる。

 注意深く見ていると、少年の姿には違和感があった。

 この世界は魔法技術による発展で庶民的な文化が他世界と比べ乏しい。だというのに少年の服装は戦闘によりボロボロではあるが、元は整ったものである事が推察される。だがそこに高級な印象はなく、むしろ一般的なものであるという印象の方が強い。

「あぁ、制服かアレ」

 思わず独り言が口をついて出るぐらい、シオンは驚いていた。

 記憶にあるのは、《管理局》で見かけた何人かの少年少女。あれはR系統世界によくある、学校の制服である。

 であれば、

「こちらプローヴァ。《イレギュラー》の他、《ストレンジャー》確認」

 彼もまた、この世界の存在ではないだろう。

 《ストレンジャー》。端的に言えば、異世界へと転移してしまった者のことである。直ぐさま緊急通信回線を起動し《管理局》へと連絡を取る。

『──確認できました! 異境適性(いきょうてきせい)Fです! 速やかに保護して下さい!』

「適性F?」

 世界の境界を越えた《イレギュラー》と《ストレンジャー》の大きな差異は、異世界間干渉が外に向けて起こるか内に向けて起こるかである。《イレギュラー》は外界に向けて干渉を起こすため急速な対処が必要となるが、対して《ストレンジャー》は異世界からの干渉を内部、つまり自身という存在に対して起こす。これを異境適性といい、高ければ高いほどその存在は強固となり、ともすれば特別な力を顕現させるケースもある。

 だが逆に適性が低ければ、その存在は世界と拒絶反応を起こし相当な負荷がかかる。

 適性Fとは下限値ギリギリ、存在の意味消失手前であることを指す。比喩表現ではなく、文字通り塵となって消える可能性すらある。

 それでも少年は彼の戦いを止めない。

 ハウンドを相手に立ち回っているが、体にかかる重圧はどれほどか想像も出来ない。行動の迷いのなさから推察するに一般人ではないのだろう。恐らく何かしらの能力を有し、戦闘経験もある。だがそれらも、これだけ適性が低ければまともに機能はしていないはずだ。

 それ以上に不思議なのはその位置取りである。

 これだけ戦えているのなら撤退戦も選択できるはずだ。森に逃げ込み、捌きながら紛れを狙う。いくら肉体に制約がかかっていようと、開けた場所で継戦するよりよほど生存率は上がるだろう。体にかかり続ける負荷を考えればなおさらである。

 だが少年の動きは真逆。むしろハウンドの注意を引き、足捌きによってその場に引き留めている。

「なるほど」

 あれはその先にあるものを護る為の動きだな、とシオンは納得した。

 マップ情報の反応からも間違いなく、この先には村がある。異世界人である少年とどのような関係があるかは分からないが、彼はハウンドを先へと侵攻させないために大立ち回りを続けているようである。

 そうすると色々なことに得心がいった。

 彼は決して自己犠牲で残っている訳ではない。あれは細い勝利への糸口を探し出そうと()()いている人間の目だ。そうして同時に、どこまでも手詰まりであり、追い詰められていることも自覚している。

 なお手を探し続けていることに限界がくることも分かった上で自棄にならず、足掻き続ける。その原動力が何か、多少の興味が湧いた。

「っと」

 ぼんやり考え事をしている場合ではない。そろそろ少年が崩れてハウンドに貪られるか、でなければ存在限界を迎えて消滅してしまう。

 シオンは腰の装置に右手を翳す。

 それは異世界を渡る彼らが携える装置。

 黒い小型のケース。大きさにして掌より少し大きい程度の、薄型の金属の箱。翳した右手へと淡く光る六枚のカードを生み出し、シオンはそれらを指の動きで広げて確認する。構成は赤のカードが一枚、青のカードが三枚、緑のカードが一枚。

 異なる世界で使用者の存在を確立し、自身の元来所有する能力を如何なる世界でも再構築する、次元を横断し、世界へと干渉する機巧。

 その名を《エクセディア》。

 担い手を《イクシード》と呼ぶ。

 思考は一瞬、空いた左手を伸ばす。その手には、新たに出現した青く光るカード。対する右手のカードからは二枚を選び、残りを放り捨てる。

「コード:ライトニング、アップ:チェイン、ディスチャージ:プロテクト」

 告げる言葉に意味はない。ただの習慣である。カードは宙に放たれ、それらは青い閃光となって駆け巡り、回路を描く。

「アプリケーションNo5、ジェイル」

 瞬間、回路から生じた雷撃が周囲を照らし出した。

 雷はハウンドを包囲し、檻となって動きを封殺する。

 周囲の安全を手早く確認し、『ライドスキッパー』の出力を調整したシオンは少年の側へとふわりと降り立つ。少年の方からも雷撃を放ったことは確認していたのか、視線を切らずにこちらを見てくる。

「無事か? なら重畳(ちょうじょう)

 簡潔に確認し、腰の装置へ再度手を翳す。半球状に広がった光の幕が二人を広く覆う。

 シオンからすればハウンドを倒すことは簡単である。

 だが、何せ興味が湧いてしまった。

 少年は何を想い、何を糧とし立ち上がるのか、聞いてみなければならない。


 そう、これは彼の物語である。


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