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「お父様、ただいま戻りました」
私が家に戻ると、執事はにこやかに『ブライアン様は執務室におられます』と案内する。
扉が開かれるとそこには先に戻っていた父とジョナス、そしてマロンとレナがいた。
「ユリア、待っていた。そこに座りなさい」
私は父に促され、ソファへと座った。
「お話とは何ですか?」
私はわざとらしく微笑みながら聞いてみた。
「見ての通り、だが。ユリアの侍女だったエメの子供たちがジョナスとアレンの従者に就くことになった」
「ユリア姉様、僕の従者がマロンでアレンの侍女がレナになるんだ」
「アレンにも付くの?心配だわ」
主にレナが。ジョナスは最近物事をしっかりと理解してきているから暴言を吐く事もないと思うけれど、アレンは違う。レナに暴言を吐くに決まっているわ。
「あの後、すぐにエメのところへ行って謝って。直接マロンを僕の従者にしたいってお願いしたんだ。最初はエメたちも戸惑っていたんだけど、何度も会いに行ってお願いしにいったら引き受けてくれることになったんだ」
ジョナスは少し恥ずかしそうにしながらも自分にマロンという従者が出来て嬉しそうだ。
「マロンはいいとしてレナはアレンの侍女になって良かったの?なにか酷いことを言われていない?」
レナよりもジョナスが嬉しそうに笑顔で話を続けた。
「最初はマロンとレナが僕の従者として働くことが決まっていたんだ。来年から学院に進学するために二人とも僕の部屋で一緒に勉強をしている時にアレンが部屋に来て言ったんだ。
『ジョナス兄さんはどうしてこんな田舎者を従者にするんだ?』って。反論しようとした時、レナが笑って言ったんだ。『あたまが悪いのに貴族でいられるなんて楽ですね』
正直驚いたよ。アレンが顔を真っ赤にしてレナと競うように教師からテストを受けた。馬鹿にされたレナの方が頭が良かったからね。
それからアレンは事ある毎にレナに教えろって毎日僕の部屋にきて勉強するようになったんだ。可笑しいよね」
「ジョナスの希望でマロンとレナをジョナス専属の従者と侍女にすることにしたんだが、アレンが我儘を言ってな。レナはアレンの侍女に付くことになった。
ジョナスはもうすぐ学院が始まる。ジョナスだけでは心もとないと思っていたが、マロンがいれば失敗を防げるだろう。アレンも同じだ。レナを付けて我が家は道を外さないようにしなければな」
父の発言は今の貴族の状況を考えているのだろうと思う。この場に母とアレンがいないのが不思議に思った。
「お父様、この場にアレンとお母様がいらっしゃらないのは何故なのですか?」
「ペリーヌは中庭でアレンとお茶を飲んでいる。我が家のジョナスの婚約者選びに必死だ。アレンはそれに付き添っている。
レナが付き始めてから少しずつ気づき始めているが、まだまだペリーヌの影響は強いからな」
そうだった。
母はいつも夢見がちな人だったわ。
悪い人ではないのよね。でも、蝶よ花よと狭い箱の中で育てられたから市井に疎い分ずれているのも仕方がないのかもしれない。
「そうですか。マロンとレナが従者で居てもいいというのなら私は問題ありません」
「ユリア姉様。僕、ユリア姉様に家に戻ってきて貰いたい。僕たちが姉様を傷つけてきたのを反省しているんだ」
「ジョナス、我儘放題の姉が戻ってきても伯爵家に傷を付けるだけだわ。私は今、楽しく過ごしているし、今までのことも何とも思っていないの。
これからもたまに帰ってくるって約束する。変わり者の姉を持つしっかりした弟でいて頂戴」
「ユリア、王宮魔法使いの試験を受けると聞いたんだが、本当になるのか?」
父は表情を変えずに聞いてきた。
「ええ。師匠から受けるように言われています」
「そうか。王宮魔法使いの試験は難しいと聞いた。頑張りなさい」
「はい。ではそろそろ寮に戻りますね。マロン、レナ頑張ってね」
「「はい」」
きっと二人ならジョナスもアレンもいい子になってくれるはず。我が家も少しずつ変わり始めているのかもしれない。
そう思いながら私は邸を後にした。




