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時を戻った私は別の人生を歩みたい【書籍化】  作者: まるねこ


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「陛下がおいでになりました」


 従者の言葉に一同雑談を止めて会場の袂へと移動する。先ほどの雰囲気とは違いみんな硬い表情をしている。


 会場は扇形となっていて後ろに行くほど段が上がり、中央が見やすい。


 宰相の合図と共に私たちは会場に入り、会場の要部分に用意された席に着席していく。その後、陛下が入場し、中央の席に座った。

 私たちが入場し、騒めく会場。貴族たちは発表を今か今かと待っている様子。


 過去にこのような王族を狙った事件はなかった。その上、令嬢の脱獄。これは王家の権威の失墜と見て取られてもおかしくない。


 今回このように貴族を呼び出して判決を公表するのは不和を生じている貴族たちへの理解と牽制の意味合いも込めているのだろう。


「静粛に」


 宰相の声で一同静まり返る。


「これよりこの度の一連の事件の公開を行う」


 陛下が中央に立ち、従者から紙を受け取ると読み上げ始めた。


「ことの発端は王宮主催のお茶会で起こった魔獣襲撃。

 この主犯はファルセット・ブレンストである。

 ファルセット・ブレンストは公爵の地位を利用し、闇の組織『テーラード』に依頼し、魔法使いと令嬢誘拐犯、情報の隠ぺいを行った。ブロル・ウエルタは情報の隠ぺいと魔法使いを王宮に引き入れることに加担した。


 次に王宮舞踏会でアメリア・ハイゼンが魔獣になった事件。

 これはブレンスト家が侍女を買収し、違法薬物をアメリア・ハイゼンに服用させていたこと、シャルト・ヴェネジクトが違法魔道具をヴェーラ・ヴェネジクトを通じてアメリア・ハイゼンに与え魔獣に変えたことだ。


 次に学院で起こった事件。コリーン・レイン嬢も違法薬物が検出された。ここでもブレンスト家がコリーン・レインに薬物を服用させていた事が判明している。幸いなことにヴェネジクト家の違法魔道具により魔獣になる寸前でユリア・オズボーンにより防がれた。


 次にクラーラ・ブレンスト殺害事件。ブレンスト家の違法薬物がヴェーラ・ヴェネジクトから検出された。彼女は興奮し、クラーラ・ブレンストと護衛騎士を殺害。その他学生を殺傷した。


 次に王宮襲撃事件。この件の主犯はファルセット・ブレンストだ。事件に加担したのはブロル・ウエルタ。ここまでの事件の犯人は以前公開した。


 そして今回、犯人たちの罪状を確定する前にヴェーラ・ヴェネジクトが闇の組織である『テーラード』の手によって脱獄をした。

 これを組織に依頼したのはロード・ハイゼン、とメリー・ハイゼン。セリーヌ・ブレンスト、ケイシャ・ヴェネジクト、アルファット・ヴェネジクト。以上だ。


 では先ほど名の挙がった者の判決を公開する。まず、ブロル・ウエルタ。


 彼はブレンスト公爵家に『病気の娘を治療する』と騙され、借金を背負わせられた。その借金を帳消しにする代わりに悪事に加担させられていたことやその後、捜査に協力したことを鑑み、炭鉱での強制労働を五年とする。

 ウエルタ家は男爵家に降格。


 次にファルセット・ブレンスト。一連の事件の主犯。違法薬物の取引、闇の組織との取引やその他余罪が五件。よって斬首刑とする。


 次にシャルト・ヴェネジクト。隣国との違法魔道具の取引に関わった。更に王太子の婚約者候補となっていた令嬢たちを魔獣に変え、殺害した。よって絞首刑とする。


 ロード・ハイゼン、メリー・ハイゼン、セリーヌ・ブレンスト、ケイシャ・ヴェネジクト、アルファット・ヴェネジクトの五名はヴェーラ・ヴェネジクトの脱獄を幇助したため、ロード・ハイゼン、アルファット・ヴェネジクトは強制労働三年。

 メリー・ハイゼン、セリーヌ・ブレンスト、ケイシャ・ヴェネジクトは修道院へ預かり。爵位剥奪。家は取り潰しとなる。


 刑の執行は一週間後に行う。そして全ての事件に関与していた組織『テーラード』のメンバーは全て捕縛し、全ての犯罪は解決に至った。これ以上犯罪者が出ないことを望む。以上だ」


 陛下は読み上げた後、宰相にその紙を渡して席に着いた。沈黙が続く会場。


 その後、宰相から一連の騒動で貴族内が不和になりつつある。仮に不和が続けば内戦になる可能性も否定できない。そうなれば他国につけ入る隙を与えてしまう。一連の事件はこれによって解決を迎えた。


 これからは国一丸となってよりよい国にしていこうという呼びかけがされた後に解散となった。

 貴族たちはざわざわとお互い会話しながら会場を出ていく。


 私たちも会場を出て師匠の部屋に戻った。


 ヴェーラの脱獄に関与していたのは三家。ヴェネジクト家が娘を助けたいというのは分かるわ。あとの二家は、ヴェーラを恨んでいたに違いない。そこを『テーラード』が上手く利用したみたい。


「師匠、ヴェーラはあの時、身体に痣は出来ていたけれど、文句を言うくらいには元気でしたよね? あれはなぜだったのですか?」

「ああ、それは三家の要望を叶えるためだったんだろう」

「要望、ですか?」

「テーラードのボスはあっさりと白状したよ。ヴェーラの家、ヴェネジクト家はヴェーラを助けて隣国で平民となり、暮らすように依頼があった。

 ブレンスト公爵夫人はクラーラが殺されたことを恨み、自らの手で罰を与えたいという依頼だったようだ。


 ハイゼン家も同じだ。脱獄してからヴェーラはまず母と兄に会ったらしい。隣国に渡る前に最後の別れをするためにね。

 そしてあの小屋に移動。


 その時に魔力封じと魔獣化の首輪を着けられた。最初に訪れたのはブレンスト公爵夫人と従者。その次に訪れたのはハイゼン家。

 二家とも自らの手でヴェーラを傷つけたかったらしいよ。


 相当な恨みを抱えていたようだ。その後、テーラードは隣国の娼館に売り渡す予定だったけれど、僕たちが小屋に乗り込んできて計画は崩れたってことみたい」


「娼館に売るつもりだったのに何故魔獣にさせたんですか?」

「逃亡防止だよ。首輪とセットになっていた鍵を男たちは持っていたんだ。首輪は鍵が一定の距離より遠くなると魔法が発動するようになっていた。

 乗り込んで捕縛を始めた時、男たちが運悪くヴェーラから距離ができてしまった。そして彼女は魔獣になった」

「なるほど。そういうことだったんですね」


 あの場ですぐに気づけなかった私たちの落ち度といえば落ち度なのかもしれない。けれど、逃亡防止ならもっと他の方法があったはず。


 わざわざ魔獣化するような魔法を選んだテーラードは本当に趣味が悪い。


「ところでユリア、家から呼ばれているんじゃなかったっけ?」

「そうでした。行きたくないですが、行ってきます」

「ああ。気を付けて」


 師匠の部屋でお茶を飲んだ後、私は我が家へと戻った。


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― 新着の感想 ―
……ブロル元総長、鉱山の肉体労働で潰すのもったいないなぁ。 行ったことにして、「知恵袋」扱い…宮廷で隠して頭脳労働と書類捌きさせた方がお得じゃないかしら。
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