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騎士たちは男たちとこと切れた魔獣を幌馬車に乗せている。騎士たちは師匠に指示を仰いだ後、王都に向けて出発した。
私はというと、師匠の転移魔法で王宮の魔法使いの棟へひとっ飛び。
「はあ、疲れた。そろそろゆっくりしたい。僕は働きすぎだ」
どうやら飛んできたのはジャンニーノ先生の部屋のようだ。ソファに勢いよく座った師匠はどこからかお茶を出して優雅に飲み始めた。
「まだまだやることはありますが?」
はあと溜息を吐きながら呆れた様子で書類を師匠に渡すジャンニーノ先生。
先生もずっと働きっぱなしだったのか窶れているように見える。私も師匠の隣に座って師匠の淹れたお茶を飲む。
「先生もお疲れ様です」
「ユリア様、今回はお疲れ様でした。大変だったんじゃないですか?」
「私はそれほどでもなかったです。ただ初めてのことばかりで何も分からずにブロル元総長に助けて貰いました」
「……そうですか」
「ユリア、君も疲れただろう? 今日は帰っていいよ。そろそろ卒業試験と王宮魔法使いの試験勉強をしなくちゃいけないからね」
「その辺は大丈夫ですよ。抜かりはありません」
「ユリア様が一刻も早く王宮魔法使いになることを祈るばかりです」
「師匠。私、冒険者になって様々な国に旅をしてみたいのですよね」
ジャンニーノ先生はピクリと手を止めた。
まだ言ってんのかこいつと思われている?
自由は捨てきれないのよ!
「なんだユリアは冒険者になりたいのか。じゃあ今から行こうか。付いていくよ」
師匠は今すぐ行く気だ。ジャンニーノ先生が困ることを分かっていてやるに違いない。悪乗りもいいところだわ。
「ジョンソン師匠、分かって言っていますよね? 今は特に人手が足りないというのに」
「さあね?」
師匠はジャンニーノ先生の言葉を涼し気に躱している。
「とにかく、今日はユリアも疲れただろう。今日は休んだ方がいい」
「わかりました」
この後、師匠と先生はヴェーラのことやワズルガードの後処理をするのだろう。
私は一足先に寮に戻った後、小屋に向かった。昨日は一日ランドルフ様のお世話が出来なかった。
師匠が代わりにしてくれたとおもうけれど心配だわ。
「ランドルフ様、昨日はお世話が出来なくてごめんなさい。すぐに食事にしますね」
私はヴェーラのことを報告しながら身体を拭いてご飯を口に運んだ。まだランドルフ様は目覚めない。
でも、いつも私のことを心配してくれているんじゃないかと思う。




