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~夢の中~
「ユリア、ユリア」
「……ん? ランドルフ、様?」
目をこすりながら声のする方向を見ると、そこには人のランドルフ様の姿があった。
「大きな魔法を沢山使ったのかな? 手を出して」
ランドルフ様は私の手を包むようにした後、彼から流れてくる魔力。優しくて温かい。
「無理はしないようにね」
「でも、ヴェーラを見つけないといけないんです。ランドルフ様を傷つけたあの女を絶対に許したくないの。脱獄して逃げ切るなんて嫌なんです。でも、手がかりが少なくて……」
「ユリア、焦らないで。脱獄を手引きをした者がいるのならブロルに聞いても大丈夫じゃないかな? 彼なら王都の犯罪にも詳しいはずだし、きっと相談に乗ってくれるよ。……ごめん、もう時間だ」
「待って。折角会えたのに。もっと話したいことが」
段々とランドルフ様の姿が透けてくる。
「大丈夫。ユリアならきっと上手くいくよ」
………待って。
……
…
~~
そこで目が覚めた。
……魔力が回復している。
「ランドルフ様、ありがとう。私、ランドルフ様の分も頑張りますね」
眠ったままのランドルフ様に声を掛けた。
時間も遅くなってきたけれど、一刻も無駄にはしたくない。
私は彼をベッドに戻して王宮の貴族牢へと向かった。
「ブロル元総長、お久しぶりです」
「ユリア様、突然どうされたのですか?」
以前と比べ柔和な雰囲気になっているブロル元総長。
「ヴェーラが脱獄しました。そのことについて教えて頂きたいのです」
「脱獄に関してですか? 私に答えられることであれば」
「ヴェーラの脱獄を手引きした人がいるみたいなのです。魔法で確認したら道具を使用していたり、馬車を用意したり、手際がとてもいいのです。
それに魔法使いもいる。今のヴェネジクト家では出来ないような気もするんですよね。でも、ヴェーラは脱獄のことを知っていたような感じでした。面会に来ていたのは夫人だけ。やはり脱獄をさせたのは第三者なのかなぁと考えてはいるのですが、答えが見つからずに困っているのです」
ブロル元総長は少し考えた後、私に答えてくれる。
「ユリア様、ヴェネジクト家もブレンスト家も他国の魔法使いを使っていた。そのことは知っていますよね? きっと斡旋している業者がいると思うのです。過去にも闇の組織と言われるような者たちが犯行に関わっていた事例もあります。大がかりな組織という場合もありますし、注意した方がいいと思いますよ」
「闇の組織。なんだか怖そうですね」
「もし闇の組織が関わっているのならユリア様一人では太刀打ち出来ない可能性があります。無理しない方がいいと思いますよ? なぜ一人で調べようと思ったのですか?」
「王宮で人が足りず、私まで駆り出された感じです」
「そうでしたか。あまり無理はしないほうがいいですね。もし、組織が関与しているのであれば王都に拠点がいくつかあるかもしれない。
地道な作業だと思いますが、手引きした男の魔力を捕捉しているのであれば、その男が王都のどこに居たのか魔力の痕跡をしらみつぶしに当たる方がいいでしょう。
多く捕捉できる場所が彼らの潜伏場所。分かりますよね? そこから人がどう動いているのかを確認する。
そうすればおのずと目的地がわかりそうな気がしますが。潜伏場所付近の探索は特に気を付けて下さいね。
難しい場合は浮かび上がった人物の特徴などを細かく記載するだけでも充分ですよ。貴女はまだ学生だ。一人で組織を潰してこいと言われていないですし大丈夫」
「ありがとうございます。そうですね。こういうことはじめてでどこまでやればいいのか分からなくて。駄目そうなら師匠に泣きついて小言を聞くだけですね」
私はブロル元総長に言われて気が楽になった。そうよね、学生に全部させるなんて無理な話しなのよ!
「ユリア様、シェイラードを治療していただいて有難う御座います。なんてお礼を言っていいのかわかりません」
「あれは私が勝手にやったことですし、師匠の課題の一つですから気にしないで下さい。シェイラード嬢が元気になってよかった」
「ユリア様には感謝してもしきれません。これで思い残すことはない」
「……ブロル元総長」
「気に病んではいけない。どうかユリア様の思うように進むべき道に進んで下さい」
私は言葉に詰まる。
「……ではヴェーラを追います」
「ユリア様に神の加護がありますように」
ブロル元総長は微笑み礼を執って別れを告げる。私は重い足取りで街に出た。




