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「ジャンニーノ様、今日は有難う御座いました」
「ユリア様、明日からは?」
「王宮から呼び出しが来そうなので明日の朝には王都を発って、登校日前日まではのびのびと遊びに行こうかと思っていますわ」
「それはいいですね。学院が始まる頃にまた呼び出しされるかもしれないですが」
一週間後には学院が始まる。それまではなーんにも考えずにゆっくり羽根を伸ばしたい。
私は先生と別れた後、すぐに部屋に戻ってドレスを脱いだ。
「今日はこのまま寮に戻るわ。お父様に伝えておいてね。あと、来週の学院が始まるまでは王都から離れてバカンスを楽しんでいるから連絡を寄越さないでちょうだい」
「畏まりました」
私はいつもの服装でそのまま寮に戻った。舞踏会は深夜まで行われるので王都を出るなら今のうちだ。
夜は視界が悪い分魔獣と遭遇することは避けたいけれど、ノロノロと過ごして王宮に再び呼び出されるのはもっと避けたい。
帯剣し、いつものように魔獣の頭蓋骨を被り、フードを被って認識阻害を掛けてからそのままギルドに向かう。
夜でも魔獣の襲撃があるのでギルドは二十四時間営業なのだ。
この時間は隣の酒場で飲んでいる冒険者も多いので受付は静かだ。私は王都から離れた街の依頼を数枚取って受付に出す。
「ユゲール様、お疲れ様です。Cランクの魔獣討伐ですね。受注しました。今の時間からの討伐は危険ですので明日の朝に動かれた方がいいですよ」
「あぁ。そうだね。忠告ありがとう」
私はそのまま歩いて王都を出る。残念ながらこの時間は馬車がいないからね。
街道沿いをそっと飛んでいる。夜は目撃者も少ないし、この方法が一番安全なのよね。
一直線に街に向かって飛ぶのが一番早いけれど、魔力が尽きて落ちたところが魔獣の巣だったら目も当てられない。
やっと王都から出られた!!
私は上機嫌で鼻歌交じりに飛ぶ。
目的の街までは距離がある。
そこまで飛んでいけそうな気もするけれど、今日は魔獣とも戦って疲れているし魔法も使ったからね。
一つ目の村には難なく到着し、この分なら問題なさそうなのでそのまま次の街まで飛ぶことにした。
ジャンニーノ先生が私の婚約者?
あれって本決まりなのかしら?
先生と魔法談義をするのは楽しいけれど、今はまだこうして好きなことをしたいと欲が出たの。
これって前回の生の反動かしら?
貴族令嬢は家の所有物という意識。
平民の労働階級も同じような感じだと思う。平民にとって子供は働き手。
貴族にとっては家を繁栄させるための道具。子供側もそれを理解しているからこそ文句も出ない。
理不尽だと思うけれど、仕方がないって諦めちゃうのよね。生きていく手段がないから。
でも、私はながーい人生の中、一人で生きていく手段を確保出来た。窮屈な世界とは今すぐにでもおさらばしたい。
でも学院はなるべくなら卒業したい。
卒業と同時に消えても問題なさそう!
星空の下を泳ぎながら鼻歌交じりに妄想はどこまでも膨らんでいく私。
朝日が見えかけた頃、ようやく次の街に到着したわ。
門番にギルド証を見せた後、街に入って目的の街までの馬車を探す。
「この馬車はケルンの街行きかな?」
「あぁそうだよ。けど、出発は二時間後だ」
「そうか。なら少し早いが、中で待たせてもらうがいいか?」
「構わんよ」
私は乗車賃を渡して馬車に乗り込み、そのまま奥に座り眠りについた。
この街は何度か来ているので不安はない。
小さな街で王都に比べて何十倍も治安がいいのだ。不愛想だけれど、私がよそ者だから仕方がないわ。
一晩飛び続けていたせいか馬車が揺れている事にも気づかずぐっすり寝こけていたらしい。
「お客さん、起きな。着いたぞ」
「あぁ、すまない」
私はお礼を言って馬車を降りた。
すっかり寝てしまった。寝たおかげで魔力もかなり回復しているし、このまま魔獣討伐をしても問題ないわ。
私は依頼者の元を訪れて詳しい話を聞いた後、討伐に向かった。
昨日の魔獣はなかなか手強かった。前回の生の時は王宮に魔獣が出ることは無かったのよね。お茶会の時もそう。
私が変わったせいで悪い方向に向いているのかしら。
あの時、あの女はニヤリと笑っていた。
あの女には記憶があるのかしら?
それならもっと上手く立ち回るはずよね。分かるのは前も今もランドルフ殿下に執着しているということ。
邪魔者は排除したい。とすれば、残りの二人も標的にされてもおかしくない。
ジャンニーノ先生に伝えておけば良かったかもしれない。




