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そこから数日は穏やかに過ぎていったと思う。ギルドへ行って数日かけて討伐したり、治療院やエメの家のお手伝い。
伯爵家から手紙も来なかったのよね。そうして過ごしてきたのにとうとうやってきた父からの連絡。
『来週の舞踏会には参加するように。ドレス一式用意してある。エスコート役はジャンニーノ・チスタリティ子爵令息に頼んであるから大丈夫だ。舞踏会の前日には我が家に来るように』
……何故、ジャンニーノ先生?
いや、確かに釣書を送ったと先生は言っていたけれど、先生は仕事ではないのだろうか?
私は疑問に思い、伝言魔法を飛ばした。
『ジャンニーノ先生、来週の舞踏会は先生が私のエスコート役だと父が言っていたのですが本当ですか?』
『そうですね。伯爵家から直接私に連絡が来ましたよ。というか、音がしますが、ユリア様は今何をしているんですか?』
『? 私ですか? 今魔獣を討伐している最中です』
『魔獣!? 大丈夫なのですか!?』
『え? いつもの事なので大丈夫です。むしろ大人しくしているより魔獣と戦っていた方がスカッとして楽しいですよ!』
そう返事をした時、目の前に魔法円が浮かび上がり、ジャンニーノ先生が少し怒った様子で現れた。
「ジャンニーノ先生??」
私は剣で魔獣の群れを斬りつけている。ジャンニーノ先生が現れた瞬間魔獣は先生に襲い掛かったがそこは魔法使い筆頭。すぐに風刃で倒してしまった。
「さすが先生!」
「……ユリア様。油断は禁物です。さっさと倒してしまいましょう」
「はい」
私は目の前にいる魔獣の群れに集中し、斬り始める。残りは十体ほど。ランクはCランクパーティ推奨の敵。今回も五十体近くを相手に戦っていたの。
やっぱり身体を動かすのはいいわ!
特に剣で戦っていると嫌な事を全て忘れさせてくれるもの。魔法も得意だけれど、今は剣で倒したい気分だったの。
ジャンニーノ先生はヒョイと木の上に乗り、私の邪魔をしないように上から魔法で魔獣を倒していく。
三十分も掛からないうちに倒してしまった。
やはり二人だと討伐するのも早いわ。
私は返り血を魔法で綺麗にした後、魔獣を風魔法で集めて縄を掛けていった。
今回は素材が高く取引されている魔獣なので買い取って貰うために全て持ち帰るの。
「おまたせしました!」
「……ユリア様はいつもこんな事を?」
「えぇ。そうですね。趣味でやっています」
「趣味、ですか」
「魔獣を倒すのは楽しいし、将来は冒険者として生きていこうかと最近考えているんです」
「冒険者?」
「えぇ。将来伯爵家を継ぐ弟から私の籍を抜くと言われています。平民になれば手に職がないと女一人生きていくのは大変でしょう?今からこうして社会勉強をしているのです」
「伯爵は反対しないのですか?」
「えぇ。反対はしていませんでしたね。彼らは私を疎ましく思っていますから。
居なくなれば反対に喜ぶんじゃないかしら?あぁ、案外父のことだからどこか手ごろな所に嫁がせたほうが良いと思っているかもしれませんね」
私はそう言いながら倒した魔獣を風魔法で浮かせて歩き始める。ジャンニーノ先生はその後に付いていく。
「その頭蓋骨は何故つけているのです?」
「あぁ、これですか? これは自衛のためです。ローブも着ているので男女の区別が付きにくいでしょう? 仮面を被っている人も多いですし、周りは何もいいませんね」
「……そうなんですね」
「ジャンニーノ先生はギルドに登録していないのですか?」
「私はギルドに行ったことはないですね。学院在学中から王宮に呼ばれて仕事をしていましたから」
「さすがジャンニーノ先生!」
そうして王都の入り口にある魔獣引き取り場へ狩った魔獣を持って行った。
「依頼完了しました」
「ギルドカードの提示をお願いします。……では魔獣の確認をしますね。全てこちらの買い取りでいいですか?」
「お願いします」
私と受付の人とのやり取りをジャンニーノ先生は黙って見ている。
「相変わらず素晴らしいですね。多少、色を付けておきました」
「ありがとう」
「次回でBランクに上がりそうですね。頑張って下さい」
「ありがとう」
私はお金の入った小袋を貰い、そのまま街の中に入っていった。
「先ほど買い取りをしていた魔獣ですが、あれはいつもここで買い取っているのですか?」
「えぇ、あそこでギルドの討伐依頼があった魔獣を倒して持ち込んでいるんです。
依頼が素材の場合はまた別ですが、基本的に討伐の場合は依頼の数だけ倒して倒した後の物は倒した人が好きにしていいんですよ」
「色を付けたと言っていましたが、あれはどういうことなんですか?」
「魔獣の倒し方によって買い取りの値段が変わるんです。
毛皮が取れる魔獣は傷は少ない方がいいし、食肉になるような物は血抜きを行ってから持ち込むと買い取りの値段が高くなります」
「そうなんですね。買い取ったお金は?」
「もちろん貯めていますよ。将来一人で生きていくためには今から貯めておかないと! 何があるかわかりませんから」
「堅実ですね」
先生の言葉にクスリと笑う。
「そうそう、来週の舞踏会。先生は仕事じゃないのですか?」
「仕事といえば仕事ですが、私が居なくても問題ないですよ。それに舞踏会に参加していれば何かあっても対処可能ですし、問題ありません」
「先生、寮まで送っていただき有難う御座いました」
「……あまり無理はしないように」
「もちろんです! ではまた来週」
先生は私を送った後、そのままシュンッと王宮の方へ飛んでいった。さすが先生。帰り方もスマートだ。
部屋に戻った後はいつものように魔法の勉強をして眠りについた。
ギルドに一人で行ったときは不安だったけれど、今ではストレス解消とさえ思えるの。
夢の中でずっと戦っていた頃の感覚がかちりと嵌ってきたようで剣を扱うことも問題ない。夢の中では必死に戦っていたから剣で魔獣を切った時に魔法を打ち込んだりもしていたわ。
目覚めてから実際に剣を持つと重くて扱いきれないこともあったけれど、身体の成長と共にそのずれは解消されていく気がする。




