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「それにしても今日は災難でしたね。普段は訓練場以外王宮で魔法の使用制限があるはずなのですが、機能していなかった。
今後調査が進められるでしょう。それとあの令嬢達の背中にあった魔法円。
何処で刻まれたのかも今後調べていくでしょうね。
それにしても貴族令息や令嬢がみんな無傷で良かったですよ。それもこれもユリア様の張った結界のお陰です」
「先生が教えてくれていたから出来たのです。初めて一人であの大きさの結界を張るのはドキドキしましたわ」
「魔力の減りはどうですか?」
「えっと、半分位でしょうか。まだ戦えます! そうそう、私、先生の魔法円の解除を見て思ったのですが、王宮魔法使いに向いていないのではないかと」
先生は驚いたようにお茶を飲む手を止めた。
「何故そう思うのか聞いても?」
「えぇ。パロン先生の元で魔力の調整を訓練していますが、どちらかといえばズバーンと何も考えずに魔法攻撃する事が性に合っている気がするんですよね。
攻撃魔法をメインにした魔法使いになりたいです。これってギルドでやっていく方が良いのかしら」
「ちょっっ。ユリア様!? それは可笑しな判断だと思いますよ? ユリア様程の魔法使いであればすぐにでも王宮魔法使いになれますし、攻撃魔法専門の魔法使いも沢山居ますからっ。冒険者ではなく、是非王宮にっ」
珍しく先生が焦っているようにも見える。その姿が何だか可笑しくて笑ってしまう。
「先生、私はまだ学生ですわ。まだ進路は考え中なのです。
でも、どうでしょうかね。
今回の事で私、とても目立ってしまいましたわ。長期休み期間中で本当に良かったです。ただでさえクラスでも浮いているというのに。
豪胆な令嬢と噂されれば……婚約者はこれから先も現れないでしょうね。
貴族でいれば後妻に嫁がされそうですし、やはり一人で生きていく道を真剣に考えねばなりませんね」
しゃべるだけ喋って落ち着いた私はふぅと一息ついて長い髪を指に巻き取りながら悩んでいる素振りをする。
「魔法使いなら大丈夫ですよ。むしろ魔力が多いユリア様を娶りたいと思う人が多いかもしれませんね」
「でも先生。私の魔力は特殊ですわ。パロン先生のおかげで魔力が多いのです。子を産んでも変わらないと思いますが」
「その辺りは不確かな話ですね。でも可能性はある。そうなれば王族との婚姻だって可能性は出てきますよ?」
それは困る。
やはり冒険者となって国を出るしかないかもしれない。
それかさっさと婚約者を見つけるか。
「うーん。王族とお近づきになりたくありません。冒険者になるか、さっさと結婚してしまうか。その前に、どこかに私を好いてくれる婚約者が転がっていないかしら?」
「では私が立候補しておきましょう」
「ジャンニーノ先生が?」
「えぇ、可笑しい所はないはずですが?私はまだ二十歳ですし、一応子爵子息ですよ?次男ですが」
「私はまだ十三歳ですよ?」
いや、もうすぐ十四歳だわ。
年齢的には、七歳差はよくある話。政略結婚が多い貴族の婚姻事情を考えると多少でも知っている先生が婚約者になるのはいい話だと思う。
でも、突然降って湧いた話で動揺してしまう。
「まぁ、考えておいてください。悪い話ではありませんよ? ユリア様が王宮魔法使いとして働くのは大賛成ですし、二人で魔法を極めるのも楽しそうです」
「婚約については考えておきますね」
「えぇ。貴女はまだ若いですし、婚姻するにしても後三年は出来ませんから。ゆっくり待っていますよ」
この国の制度は十六歳から婚姻が出来る。
十数年前まで十二歳で婚姻が許可されていたけれど、若い娘を娶るのがいささか問題のある貴族の男ばかりで成長途中の若い娘が不幸になるばかりだと制度が変わったのだ。
この国は強い女が多いとはいえ未だ男尊女卑も色濃く残っている。
近年は男尊女卑も少しずつ薄らいではいるのだが。
それもこれも今の陛下のお陰だ。陛下は不幸になる令嬢が一人でも減るようにと尽力されているのだ。
以前の私は弱かったけれど、今は強くなったと思う。前回のようには絶対にならない。
そう強く心に誓っているの。
ジャンニーノ先生と暫くお茶をしながら魔法講義を受けた後、私は邸へと戻った。




