19ヨランドside2
私は諜報部に彼女を調べるように依頼した。
そしてその調査の結果を見て違和感が拭えなかった。
心の病で幼いころから領地で暮らしていたのだとか。領地の暮らしは不明な点が多く、よくわかっていない。内々に調査をしてみれば学院に入る半年前から王宮魔法使い筆頭のジャンニーノ・チスタリティを家庭教師に迎えて勉強をしていた。
……筆頭自らユリア嬢に教えている。
領地で過ごしている間はまともに勉強を習っていなかったと書いてある。
だが、俺が見た限りユリア嬢は学院でも優秀な方だ。話し方や仕草はとても自然で一朝一夕ではとてもじゃないが出来ない。
そしてジャンニーノ筆頭が王宮に呼ぶほど魔法の才能があるのだとか。殿下が気になっている令嬢は知れば知るほど謎に包まれている。
「なぁ、殿下。俺が思うにユリア嬢の事を知りたかったらいつも彼女の側にいるリーズを生徒会に招待すればいいんじゃないか?」
勘の鋭いマークはいち早く彼女に気づき殿下にそう提案している。
それは良い考えだと私達も賛成をした。
殿下は少し動揺していたようだが、否定しない所をみると賛成なのだろう。
「では、私が声を掛けてきます」
そう言って私はリーズ嬢がクラスから寮に帰ろうとしている時に捕まえて打診してみた。
「リーズ嬢、君に是非生徒会に入って欲しいんだ。会計がまだ決まっていなくてね。君の家は商会でしたよね?どうだろうか?」
彼女はとても驚いて何故自分が? と疑問に思ったようだ。
「と、とても光栄ですっ。で、ですが、お返事はもう少し考えてからで良いでしょうか?」
「あぁ、構わない。期待している」
そうして待つこと数日。
彼女は暗い顔をして生徒会室にやってきた。
「リーズ嬢、わざわざ来てくれたんだね。引き受けてくれるかな?」
殿下は穏やかに話をしているが私達しか分からない程の微妙な動き。
……ソワソワしている。
「す、すみませんっ。折角、誘っていただいたのですがっ、平民で女の私が、ランドルフ殿下に近づく事は許されません。どうかこの話は無かった事にして下さい」
頭を下げるリーズ嬢。先ほどまでの浮かれ気分は見事に打ち砕かれ意気消沈する殿下。俺は急いで助け船を出す。
「誰かから言われたのか? 君は優秀だと聞いたから誘ったのだが」
「……そう言っていただけると嬉しいです。ですが、殿下の婚約者候補の方々やクラスメイトの令嬢達から殿下に近づかないよう注意を受けています。私は平民でしかありません。仮令学院内で平等を謳っていても学院の外は違います。両親にも迷惑は掛けられません」
……あいつらか。
俺は舌打ちしたくなった。きっと殿下も同じ気持ちだろう。
あいつらなら平民であるリーズ嬢の家を脅す事だって平然とするだろう。
そう考えると頭が痛い。
今は引き下がるしかないな。彼女に機会があったらまた頼むよと伝えると彼女は笑顔で部屋を出て行った。
「あーあ。殿下、残念だったな。あの四人が主だって邪魔していたなんてな」
「……そうだね。仕方がない」
殿下はマークの言葉で更に落ち込んでいる。
私達は何か他に手段はないものかと考えた。
食事を取っている所に鉢合わせして仲良くなるのも考えたが、そもそも彼女は食堂で食べていないようだ。それに食事の時はあの四人が殿下にべったりとくっついていて邪魔しかしないだろう。
どうにかできないものかと悩む日々が続いたそんなある日。
私が生徒会の資料を取りに図書館に入った所、ユリア嬢とリーズ嬢が楽しそうに話をしている。
どうやら試験勉強をしているようだ。
それにしては様子が変なのだが。
リーズ嬢はユリア嬢に分からない所を教えて貰っているのに対し、ユリア嬢はリーズ嬢に教える以外魔導書を読んでいるだけなのだ。
ユリア嬢は勉強しなくて大丈夫なのか?
だが、いい機会だ。リーズ嬢とユリア嬢に勉強を教えながら二人と仲良くなればいい。
そう思って声を掛けた。
多少強引に勉強を教えると言ってしまったが仲良くなるためだ。だが、リーズ嬢を置いてさっさと図書館から出て行ったユリア嬢。
……中々手強い。
だが、リーズ嬢に勉強を教えるという機会は出来た。試験までの間、リーズ嬢を教えながらユリア嬢の話を聞いてみる。どうやら中庭でいつも一緒に食事を取っているようだ。
彼女はいつも優しく、クラスでも密かに人気があるのだとか。
それに彼女はずっと領地で過ごしてきたから貴族の友達がいないそうだ。とても控え目で、決して目立たないようにしているせいか周りはかえって声が掛けづらくなり、あまり話し掛けられないでいるらしい。
リーズ嬢は彼女の過去を知らなかったため、ユリア嬢に自分から話し掛けたようだ。
学院が終わった後は何をしているのか聞いてみたが、リーズ嬢も良く知らないようだ。何処かへ出掛けているようだけれど、分からないのだとか。
気になる所だな。
彼女は友人にも内緒で何処へ出掛けているのだろうか。




