タイトル未定2024/04/07 11:45
噂の渦中の人物、白馬峻は彼女たちのすぐ近くにいた。
同じファミレス内だがちょうど佐久たちの席からは死角になり見えない。入学式前に霧ヶ峰市を散歩していると、一人になれるのによさげなファミレスを見つけたので時々利用していた。だがこれほどに同じ高校の生徒が利用するとは想定外だった。
これからは場所を変えたほうが良いかもしれない。
そう思い、残された数学の宿題に手を付ける。
確率やデータ分析など、高校になってぐっと勉強が難しくなった。
「……それはこの公式を使えばいい」
「……そこに当てはまる単語は、」
イヤホンをつけていても耳に入ってくる会話。自分が四苦八苦する問題を、事も無げに片づけていく同学年の人間。
嫉妬と共に尊敬の念も湧いてくる。
確か体が弱かったと聞いたが、大丈夫だろうか。ここ霧ヶ峰市は今まで住んでいたどの地方と比べても気温が低い方で、高地にあるためか昼夜の寒暖差も大きい。
「体弱そうだけど、大丈夫かな」
心配になると同時に、自分も会話の輪の中に入りたいという欲求が出てくる。
だが白馬はそれをしない。穏やかで冷めた印象を与える瞳を細め、ノートと教科書を必死に読み込む。
勉強も、運動も。いままでずっと一人でやってきたし一人でやってこられた。
友人関係なんて必要を感じない。
どうせ、またすぐにいなくなるのだ。
やがて、佐久の体調が悪くなったことが会話から伝わってくる。にわかに彼女たちの席が騒がしくなり、まだそんなに遅い時間ではないのにみなレジの方へ向かっていくのが見えた。
ちょうど通り道に白馬は座っていたが、声をかける勇気が出ない。
加えて、私服に着替えて背を向ける位置に座っていたこともあり誰にも峻の姿を気づかれることはなかった。