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タイトル未定2024/04/07 10:08

グラウンドでは続けて女子の体力測定がはじまった。千メートル走やハンドボール投げなどが体育委員の号令で次々に行われていく。元バスケ部である望月は総合的に好成績を出したが、佐久は千メートル走を途中で棄権した。


息を切らせ木陰で横になっている彼女に、氷川小梅が心配そうに駆け寄ってくる。


体育用の芋ジャージさえ彼女が着るとセクシーさ抜群で、走るたびに学年で覇を競う二つのふくらみがジャージの下で跳ねた。


佐久の前で腰を下ろすショートにしたアッシュの髪の下の、つぶらな瞳を心配そうに細める。


「……問題ない」


 佐久は体を起こすと体育座りになり、膝の間に顔をうずめてしまった。


「きつかったら保健室行かん? ウチ、ついていくよ?」


「……いい」

 佐久は顔を膝にうずめたまま、返事をする。小梅には気づけなかったが声が軽く震えていた。だが彼女はそれを体調が悪いためと捉えてしまう。


「でも、めっちゃきつそう……」

「……いいったらいい!」


佐久は差し伸べられた手を強く払う。突然の大声に周囲の視線が集まった。

氷川は突然のことに、払われた手を抑え呆然としていた。


「どうしたのー?」


 千メートル走を終えたばかりにもかかわらず、望月が真っ先に駆け付けてきた。

手を抑える氷川と、悲し気に彼女をにらみつける佐久を見ながら軽く事情を聞く。


「なんか急に怒り出して……」

「小梅さん、わかった。佐久は私が連れていくね」 


すでにクラス女子の大半と名前呼びになっている望月が申し訳なさそうにそう言うと、小梅も怒りをおさめた。

望月が手を差し伸べると、佐久はばつが悪そうに小梅から顔を背けながら体を起こす。保健室へ向かう足取りは肩を貸してもらっていても、おぼつかなかった。


「あんなことしちゃダメだよ。せっかく親切で言ってくれてるのに」

「……親切でも意地悪でも関係ない。同情されるのは嫌い。人と違うんだなって、みじめになるから」

 佐久は望月とすら顔を合わせようとせず、地面に視線を落としたままだった。


 望月はそれ以上注意することをせず、ただ一言付け加えた。


「私から、フォローしておくね」


佐久がその後教室へ戻ると、真っ先に他のクラスメイトと談笑していた小梅の方に向かった。

 アッシュの髪の少女はきまり悪そうに視線を逸らすが、佐久はかまわず頭を下げる。


「……さっきはごめん。気遣ってくれたのに」

「べ、別に気にしとらんから。ウチも事情知らんくせに言い過ぎたかな、って思ったし」


小梅はアッシュの髪をかき上げながら言った。


 謝罪が受け入れられたことに佐久はほっとしていると、別グループと談笑していた望月が親指を立てていた。


「よかったね」


 声は聞こえなかったが、望月がそう言いたかったのが佐久にはわかる。

 やらかしたのに、こんなにも早く謝罪が受け入れられたのは初めての経験だった。

 この学校の人は、今までとは違う。そう思っていた佐久に、なまり交じりの声がかけられた。


「お詫びに、今度ウチらとお茶せん?」


「いいねー。医者の娘って初めてだし、色々話とか聞きたいな」


 今までなら、こういう誘いはずっと断ってきた。なのに。


「……構わない」


 なぜかそんな言葉が、佐久の口から出た。


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